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i n f u s e 作者:さくらみなこ

第14回   < 13、儀式 >

「やめろ−!」
リオンの声が静寂をかけぬける。

すると草むらから突然一人の男が現われ、
アルテを抱かかえた! 

持っている銃をリオンに一度向けると、今度は
警戒するようにロイに向け、アルテを抱きながら、
その場を足早に去って行った。

「アルテ−!」
後を追うとするリオンを、からだ全体で覆い、
引き止めるロイ。

「離せ!」
その言葉にロイの力は益々強くなり、リオンは
一歩も足をまえに出すことが出来なかった。

「今のあの男の顔を覚えていますか!?」
ロイは悟らすかのように問いかける。

ロイの腕の中でもがいていたリオンの動きが止まる。
「あの男は・・・昨日の・・・」

そう、その男は街で小競り合いを
起こしていた卑劣な男。

オンの前に金をばら撒いた、あの男。

「わかりましたか? 
すべて青色地のはかりごとなんです! 
わたしたちは罠にかかったのです」

がっくり跪くリオン。
「アルテが仕組んだというの?」

コクッと頷くロイ。

しばらく二人の沈黙が続いた。

森林が風にゆらめき、ガサガサとした物音は、
むなしさをみつけたように、
こころのトンネルを突き抜ける。

静けさのなか、ロイがしゃべり出す。
「王が暗殺されました」

目を見開き、あまりの驚きでリオンは声がでない!

「今すぐ儀式を行うのです」

「こんなときに・・・こんなときに出来ない!」
首を横に振りながら、涙がポロポロ頬を伝って
緑色のことを、リオンは何も考えられなくなっていた。

聖 霊・・・聖なる沼で精神を
清めるということを、アルテは
私の無力を知っていたから、
出来ない、と言ったのかもしれない。

あんなにも、いつも、側にいたのに、
何もわかってあげられなかった・・・。

浮かんでくるのはアルテの笑顔だけ・・・。

へたり込むリオンは地面の土を握り締める。

その様子を見ながらロイはしゃがみ、静かに言う。
「アロンさまが青色地に侵入しました」

「アロンが!」

「おそらく・・・アロンさまのことです。
リオンさまに何かあったときのことを考え、
緑色のことを思って決意したのだと思います」

政治にはまったく興味を
示さなかったあのアロンが・・・
緑色のために命をかけている・・・。

「緑色を守ることが!
 王の願いでもあります!」

「王の願い・・・?」
王は私に何を託した? 

リオンの頭の中で王の微笑が、おまえの学びを
より高めなさい・・・とする言葉がめぐる。

と同時にアルテの言葉が脳裏を過ぎる。

【リオンと私が一つになれば
緑色と青色の理想郷が出来上がる】

王の願いは緑色と青色が一つになること。

一点をみつめ、ぽつりと呟くリオン。
「ロイ・・・今からでも遅くはないんだろうか? 
緑色の頃のアルテをとり戻せる?」

沈黙するロイ。

「ロイ、おまえも知っているはずだ・・・
ほんとうのアルテを・・・」

「今は緑色だけのことを考えてください!」

その言葉はアルテが語った言葉と重なって
リオンの心は切なくなった。

緑色のことだけ・・・?

国を守るということが、民を守るということが、
これほどまでの辛さを味わって
いかなければならないものなのかと・・・。

リオンは立ち上がり、沼への一歩を踏み出した。

民たちの歓喜が聞こえる。

王の両手が頬をかすめる。

アルテの微笑が草原を、あの森を駆け抜けていく。

自分の想いはすべてに届くのだろうか?

今はこの水が温かいのか・・・
冷たいのかさえわからない・・・
けれど、すべての複雑な心の色が溶けて、
それぞれの想いが伝わればそれでいい・・・

聖・・・聖なる沼で・・・
霊・・・精神を清める・・・

水面を首まで浸った先には、光を一身に浴びた
蓮の花たちがリオンを待っていた。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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