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第10回
< ９、トイ >
その夜、ベッドの上で眠れずにいる二人だった。
リオンの胸の中でアルテは泣きじゃくり、
リオンもまた、心が張り裂けそうな想いにかられていた。
「また・・・あの場所へ・・・行くの？」
リオンの耳元にやっとのことで声を出すアルテ。
天井をみつめ、唇を噛み締めるリオン。
「君はここにいて良いから・・・」
頭をなで、アルテの純粋な存在を
守りたいという気持ちが激しい抱擁に変わり、
頭を、瞼を、頬を、リオンの頬でアルテを確かめる。
「いやだ！いかないで！」
次から次へと溢れ出る涙が止まらない。
遠い昔、こんなに泣きじゃくるアルテを
一度だけ見たことがある。
〜追憶〜
それはトイ。
外見は猫にも似た小動物。
警戒心が強く決して人間に懐かない。
「見てアルテ！トイが僕たちに近づいて来る」
「よっぽどお腹を空かしているのかな？」
二人の周りをクルクルまわって
リオンの足元にじゃれついている。
そぅっと手を差し出し、トイの頬をなでるリオン。
「かわいい！」
「噛み付かれるかもしれないよ」
恐々するアルテをよそにトイを両手で抱き上げ、
頭をなでて頬を摺り寄せる。
「ほぉ〜ら平気！大丈夫。僕たちは仲間なんだから」
「もう帰してあげたほうがいいんじゃない？」
トイを胸にそっと包み込むリオン。
「君にご褒美をあげよう！」
普段、アロンとアルテの周りには
動物たちでいっぱいなのにリオンの側には
めったに寄ろうとしない生き物が
自分に触れられて喜んでいる。
ましてや懐くことのないトイが自分の
腕の中にいることが
嬉しくてたまらないリオンの笑顔は得意顔だ。
「城へ連れて行く！」
「やめて！やめた方がいいよ！
家族から離れたら死んじゃう！」
「大げさだよ！僕とアルテの愛情で育てるんだよ」
アルテに向けられるリオンの笑顔は
自信に満ち足りていて、二人の絆を
もっと深められそうな気がした。
だからこれ以上やめて！とは言えなかった。
「アルテ、君がいるんだから」
その言葉にすぐさまアルテは頷いた。
「うん・・・」
この子は感受性の強い子だよ。って言ってあげれば
このトイはお家へ帰れるかもしれないのに・・・。
はじめてリオンの胸に抱かれた生き物だから・・・。
リオンは城に向かって走り出した。
小さな檻の中に暖かな布団を敷いてあげたのに
トイはクイクイないている。
「やっぱりエサが欲しいのかな？」
リオンは自分のおやつを細かくしてトイにあげた。
エサには見向きもせず、なくばかり。
何も言えずに、そして何もできずに
ただ見つめるだけのアルテ。
リオンは泣き声に耐え切れず、檻の扉を開けた。
「何しているの！？」
「きっとこの子は檻が嫌なんだ」
檻から出たトイは狂ったように走り出し、
城のわずかな隙間から外に飛び出してしまった。
焦る二人はトイの後を追いかける。
必死で走るトイは物凄いスピードだ。
二人は追いつけない。
この先には激流が下る崖がある。
あの川には獲物を待ち構える生き物が
大量に住み着いていた。
突然トイの走る姿が消えた！
リオンの大きく見開いた目は静止し、アルテは
両手で目を覆い、顔を背けた。
数歩、ゆっくり歩き、立ち止まるリオン。
崖の下を見たリオンの目にはトイが川に流され
見え隠れしていた。
リオンの背中にしがみ付き、恐る恐る覗き込むアルテ。
川縁にへばり付き、獲物を待ち構えていた生き物は
チャンスとばかりに次々トイの後を追い、
川に飛び込んでいる。
足がすくみ動けない二人。
獰猛な一匹がトイに食いついた！
ガクッと跪くリオンと同時にしがみ付くアルテも
崩れるように跪く。
川の流れは激しくてトイは、
あっと言う間に飲み込まれ、消えてしまった・・・。
それは残酷な光景だった。
暖かい家族の温もりから、
僕が引き離し連れ去った。
だから死んだ・・・。
僕が殺した・・・。
できることなら、あの時間に戻りたい・・・
トイが自分の手元に来る前の・・・
とリオンは何度も思った。
リオンの背中で泣きじゃくるアルテ。
今はリオンの胸の中で、泣きじゃくるアルテ・・・。
アルテを抱きしめる両腕に力が入る。
「緑色地に帰るためだから！」
「蓮の水なんかいらない！探さなくていい！」
「緑色に私の信念を見せなくては
王位継承者にはなれない！」
その一言で、一瞬で、諦めたように
アルテはコクリと頷く。
まただ・・・。
どうしてもリオンに嫌と言い切れない・・・。
夜は深々と深まり微かに波の音が聞こえる。
こんな空気とは別に窓際からは
美しい月の光が真っ直ぐ差し込んでいる。
あんなことさえ無ければ穏やかな一夜を
過ごせたはずだったのに・・・。
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Novel Editor by BS CGI Rental
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