【秘密】
「もしもーし。あ、晴一?わしわし!昭仁じゃけど。今から家行ってもええ?今雨降ってきたじゃろー。だから晴一の所で雨宿りさして貰おと思って」
いきなり電話がかかってきたと思ったら、雨かよ。 わしは電話を持ちながら窓の方に近寄って外を眺めた。確かに雨がざぁざぁと降っている。 どうせだったらわしに会いたいとかいう理由で電話かけてくれたらええのに…。 そんなの夢のまた夢の話じゃろうけど。だってずっとわしの片想いじゃし。 一つ溜息をつき、わしはすぐ側にあったリビングの椅子に座って、電話の内容の返事を返した。
「別にええけど…わしん家来る途中に雨に濡れて風邪ひかんといてよ?」 「大丈夫じゃって!じゃあ今から行くけぇ。ありがと晴一」
そこで電話は切れた。 …胸が痛い。何でこんなに側におるのに。 昭仁の声を聞いただけで抱き締めたくなる。昭仁が愛しい。
昭仁はわしの気持ちなんて全然知らんじゃろな。知ったらどう思うじゃろ。 やっぱり破局しか道はないんじゃろうか? それだったら、わしは昭仁と一緒におれるだけでええ。 破局となるのならば、この気持ちは昭仁に一生黙っておこうと、わしが昭仁の事を好きと自覚したときに決めた。 だからお願い。わしの気持ちを揺らがす事せんといてよ…
ふいに玄関のチャイムが鳴る。もうそんなに時間が経ったじゃろか。 壁にかけてある時計を見ると、昭仁から電話があってからもう20分ほど経っていた。 家のドアを開けると思いっきり雨に降られた昭仁が立っていた。
「やっぱ濡れたー!!」 「濡れるな言うたじゃろー!風邪ひいてもわし看病せんけえの!?まぁ入れやぁ」
大丈夫。いつも通りに昭仁に接している。 わし、笑えとるよね?
「晴一。すまんけど、タオルと晴一の服貸してくれん?」
そう言いながら昭仁はソファの上にカバンを置いて、濡れた髪の毛を手でくしゃくしゃとした。
「服まで!?」 「そんなの持ってきとるわけなかろー!雨降るなんて知らんかったもん」
天気予報見んさいよーなど言いながら、わしは部屋にある服を入れてあるタンスから、タオルと、ちょっと大きめの服を出してきた。
「これでええ?」 「着れるもんなら何でもええよ。ありがとー」
昭仁は礼を言いながら笑顔をこちらに向ける。 その笑顔をわしだけの笑顔にしたいよ…。わしは思わずじっと見つめていた視線を反らした。
「どーいたしまして」
冷静に言ったつもりだったが、昭仁にはどう聞こえたじゃろか…。
「…じゃあ、着替えるかな」
そう言って昭仁はわしが目の前におるのに構わず、上の服を脱ぎタオルで頭、身体をふく。
「何でここで着替えよるんよ!!」
思わず昭仁の側に近寄り、肩を揺らす。
「え?別にここで着替えてもいいじゃろ? 長い付き合いじゃし」
そう言われ、わしは上半身裸の昭仁の肩に触れていた事に気付く。 …もう駄目じゃ。 理性の限界 テーブルの上に置いてあった皿と花瓶が揺れる。 わしが昭仁を押し倒した振動で花瓶が倒れたのか、水がテーブルの上から水滴として落ちてくる。
「…え!?晴一!?」
動揺を隠せない昭仁。昭仁が悪いんよ、わしを誘うんじゃけ…。
「ん…!!ぁあ…ふ…ぁ…」
昭仁に熱い口づけ。昭仁のふっくらとした唇。 昭仁と初めての、キス。
「晴一。何でこんな事するん…!」 「わしが昭仁の事を愛しとるから。 …それより抵抗せんのん?」
昭仁は何も言わんかった。 それより昭仁の質問にさらりと言ってのけたわしが自分でも怖かった。 でも目の前にある現状。昭仁が上半身裸で倒れている。もうそれだけで頭がいっぱいだった。
昭仁に優しく口づけをして首筋へ。そしてその下へと唇を這わせる。 その度に少し昭仁はびくっとして肩を揺らす。
「…いつから?」
黙っていた昭仁が口を開く。
「どういう意味?」 「…いつからわしの事好きじゃったん?」
昭仁は悪魔でも冷静に言っているつもりだったじゃろうが、わしが昭仁でも抵抗できんよう強く抑えている手が、少し震えているのがわかった。
「出逢ったときから、昭仁の事がずっと好きじゃった。今までずっと我慢しとった」
昭仁の顔に少し赤みがかかる。わしの見間違いじゃろか?
「…のぅ。両想いって思っていいんじゃろか」
昭仁は顔を赤らめ、わしの瞳を見つめる。
「え!?…もしかして昭仁もわしの事…」
返事を声でするかわりに昭仁は笑顔で答えてくれた。 その笑顔が眩しくて。
「…それだったら遠慮せずに」
わしは昭仁のズボンのベルトを外し、チャックを開けにかかった。
「え!?」
戸惑う昭仁にわしは甘いキス。それだけで昭仁もわしも顔が赤くなる。
「今からする事は二人だけの秘密よ?」 「二人だけの秘密」
今度は昭仁からの熱い口づけ。 期待してるわし。
[そう…二人だけの秘密よ??]
〈終〉
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