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作者:水野 美晴

最終回  


【心】







わしの隣には昭仁が居て、ベランダで酒でも飲みながら色んな事を話した。



この前のライブは良かった とか、

森男も馴染んできたじゃろか とか、

棚瀬は今頃何しとるじゃろ とか。



いつの間にか季節は過ぎて行ってしまっていて、もうわしらも30代で。

ずーっと音楽に走り続けていた日々。でも休憩しようとは思わない。

きっと、この為にわしは生まれてきたのだと思うから。

色々後悔する事ばかりだけれど、昭仁に出会えた事は一度も後悔した事がないんよ。

絶対昭仁には言ってやらんけど。




ふと気付けば もう月が光る時間で 目の前には大きな満月が。


「綺麗じゃのぅ…」


昭仁は一言 ただじっと満月を見つめながら そう言った。




昭仁にはただの会話の一部にしかすぎんかったかもしれん。

もう忘れとるかもしらん。

でもわしは ただそれだけの言葉に 何故か心を打たれた。




昭仁はこういう感じた事を素直にすっと簡単に言ってしまえるから、

あんな素直な歌詞が書けるんじゃろなぁ…。




キミの心はとても澄んどるんじゃろね。まるで雲ひとつない青空の様に。




「そうじゃのぅ…、綺麗」




ひととき間を置いてから わしは昭仁に返事をした。










〈終〉



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