【Utopia】
「たーまっ!」
晴一がタマに後ろから抱き付いた。…というか正確にいうと後ろ正面からタックルを喰らわした。 タマは迷惑そうに顔を後ろに向け、目だけで「駄目だろ!」というオーラーをかもし出し、スタスタと先に歩いて行ってしまった。
「昭仁ー!」
そう言って晴一は次は前正面からジャンプで首にぶら下がるような格好でわしに飛びつく。
「次はわしかい!お前重いんじゃけど!」
とか言って本音、ちょっとわしは嬉しかったり。
「昭仁のケチ。わしだって甘えたいお年頃なんよ。」
とか、ぐちぐち言って口を尖らせて、お得意のアヒル口を見せつける。
晴一の中で好きな人ランキングを付けると、1位はタマで2位ぐらいがやっとわしなんじゃろな。 …そう考えると心が痛む。
「昭仁、後で話があるけぇ、楽屋でちょっと待っとって。」
晴一がひそひそ話でわしにそっとうち明けた。
楽屋で待っていると、約10分後ぐらいに晴一がやってきた。
「話って何?」
訊くとちょっと晴一は頬を染めて手で顔を隠して後ろを向いた。
「こっち見んといてね!!」
「はいはい」
わしはちょっとくすっと笑いながら返事をする。 晴一は恥ずかしい事や、相談事があるたびにこういう事をする。もう慣れたもんだ。
「…えっとね、驚かんでよ!わしの今一番ウルトラスーパー最大の秘密。」 「うん。」
どうせいつも大した事がない内容なので生返事をする。 例えば、昨日のドラマで泣いてしまったとか、サスペンス劇場にはまってしまったとか、焼き鳥が上手く焼けんとか。
「…わしね!!タマの事好きなんよ!!」 「ふーん。 …ってえええぇ!!?」
少しの沈黙が流れる。
「…タ、タマって男よ!?」
晴一が好きな自分もなんだが。
「わかっとるよー」
そう言って晴一はさっきのように口を尖らせる。
「でも、好きになってもうたんじゃもん!!」
何。わし失恋?ってか三角関係!?
「わしねー、タマの髪の毛が長くてサラサラの所とか、本当は面白い所とか、男らしい所とか……もう全部に惚れとる!」
興奮するように話す晴一。わしは頭のどこかで何かがプチッと切れた。
「そんな事聞きたくない」
そう言ってわしは晴一の表情も見ずに、いきなり晴一を自分の方に引き寄せた。
「な、何しよるん! 昭仁!昭仁!」
暴れる晴一に耳元でそっと囁いた。
「わしは晴一の事好きなんじゃけど。…どう思う?」
いきなり耳元で囁かれたからか晴一の肩がビクッと揺れる。
「…ん!」
晴一が答える前にわしは晴一の唇を塞いだ。だって聞かんでも答えはわかっとるもん。
[わしは昭仁とは付き合えん]
本当は晴一がタマの事を好きとかもう全部気付いとった。 ただ、この答えを聞くのが怖かった。拒絶されるのが嫌だった。
優しく晴一の髪を撫でて、その手で晴一の唇へ。そしてアヒルの唇にそっと触れる。
「…昭仁」
晴一は泣きそうな顔でわしを見つめる。今頃気付いたって遅い。もう何もかも手遅れ。 今だったら晴一の泣きそうな顔も欲望をそそる顔に見える。
「晴一、好きよ?」
晴一、君がわしのUtopia
〈終〉
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