-壱- 前兆
ああ眠い。そう思ったのはさっき。今は暇だ、と思ってドーム内をぶらついている。 「よう、大吾」 陽気に肩を叩いてくるのは、ふぅ。あいつだろう。 「おう、波木」 俺も軽い挨拶をしてやった。波木は俺の級友、いわゆるクラスメートだ。 「元気なさそうだなぁ、十六歳の青年らしかぬ顔だぜ?もう少し青春をエンジョイしようぜ」 そう言われてもなぁ。とつぶやき、横にあった店のショウウィンドウに顔を向ける。 言われた通り、見るからに落ち込んだ顔がそこにあった。 「なんか、あったのか?お前のそんな顔見たの何年ぶりかな」 おいおい、お前と知り合ったのはたった一年前だぜ。と言いたくなったが、ここでツッコミを入れるのは野暮だと思うし、何より面倒くさい。と思った。 「ああ、昨日、何も食べてないんだよ」 と適当に言ってごまかした。 「そんなら、ほら」と少し先にある店を指した。「あの店に入ろうぜ」 「ん、ああ、いや気ぃ使わなくてもいいぜ」 「いいっていいって」 そんなこんなで入店してしまった 直ぐ入り口近くの席に座るなり波木は、「ステーキチューブ二つ」とテーブルに備え付けてあるインターホンに言った。すぐさま女の人の綺麗な声が返ってくる。 「はい。かしこまりました」綺麗といっても所詮は機械だ。 感情がこもっていない。 今は高度な技術、いわゆるハイテクが飛び交う時代だ。ウエイトレスなどの接客員がいなくなりかわりに情報豊かなCPUが導入され店内には客の声しかしない。一見よさそうだが人の温もりが感じられなくなった。 「うっ」 不意に吐き気がこみ上げてきた。 その原因は手元にある「ステーキチューブ」だ。 「こんなのステーキじゃねえ」 美味しそうに(?)飲んでいる波木に言った。 「そんな怒鳴んなくてもいいだろ」 相変わらずヂューヂューと言う不愉快になりそうな音を立ててすすりこんでいた。 「けっ」 チューブを握りつぶした拍子に茶色いゼリーが飛び出してきた。 「あーあもったいない」 そんなことを言っている。これも人類の進歩なのかと思いつつまるで歯ごたえのないチューブをにらんだ。 「それで、どこへ行く?」 不意にそう言われにらんでいてぼーっとした頭をたたき起こす。 「ん・・・、じゃあまず店を出・・・」 出よう。そう言いかけたとき轟音が響き店を揺らした。メキメキメキと奥のテーブルが音を立てて持ち上がった。その瞬間持ち上がったテーブルが飛んできた。 「うわっ」 両方声を出してよけた。 「おい、あれ」 波木がテーブルが飛んできたほうに指を指していた。その先を見てみると・・・、その先には黒い人型の化け物が立っていた。それは腕らしきものを振って俺たちのほうに向かってくる。 その刹那。 その間に俺たちの首は胴を離れた。 視界には、同じく血飛沫を上げて飛んでいく波木の首が映り―俺の意識はとんだ。 * * * 「おっ、うえぇ」 思わず吐いてしまった。目の前で少年二人の首が、黒い物体によって胴から離されてしまったのだから。 「おい」 ふいに声がした。 勇気を出してもう一度店内を見る。そこにはさっきまで在った首などが黒い物体ごと消滅していくところだった。
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