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永遠の時を抱きしめて 作者:今井明菜

第4回   邂逅
「ごめん、廉。ありがとね。」
私の涙はようやくおさまった。
見上げた廉の顔は逆光で照らされてよく見えなかったけど、優しく微笑んでいた気がする。
「元気出せよ。あいつはお前をないがしろにしたわけじゃないんだ。」
「・・・うん。」
「明日は高校最後の文化祭だ。楽しまなきゃ損だろ?」
だから元気をだせって、そう言われた気がした。


「あ、ゆき!大丈夫?」
二人で戻ると紀子が心配そうに駆け寄った。
「あ、全然大丈夫だよ。ごめんね、心配させて。」
そういえばさっきの廉の行動、紀子気にしてないかな?
もし私が逆の立場だったら、やっぱり嫌だもん。
「あの、さ。紀子・・・。」
・・・何か言おうとしたけど、止めた。
わざわざ弁解するほうが変だもんね。
廉は友達として、あんなふうにしてくれたんだもん。
「ゆき、ホントに平気か?休んでてもいいぞ?」
佐野の声は優しい。
ちゃんと私を心配してくれてるんだ。
佐野にとって私は“友達”だから。
でも私は、それだけで十分だといえるほど無欲ではいられないんだよ。
佐野。
私のことを見てよ。
紀子じゃなくて私を・・・。


「店番終わり?」
窓の外を見ながらぼーっとしていた私に、突然佐野が声かけた。
文化祭当日。
やっぱり昨日のことが頭から離れなくて、どうしても心から楽しめない。
「あ、うん。」
そう短く答えると、そこでもう黙ってしまった。
会話が、続かない。
「・・・お前さ、何か怒ってる?」
佐野が遠慮気味に聞いた。
「え?」
「だって・・さ。なんか朝から余所余所しいしさ。俺、何かしたかな・・って。」
「・・・。」
やばい。
佐野ってば、私の様子が変なのに気付いてたんだ。
「別に、怒ってなんかないよ。」
私は笑顔を作ってそう言ったけど、やっぱりどこかぎこちなくなってしまった。
「なら・・、いいんだけど。」
佐野はそれでも困ったように頭を掻いた。


「な、今日さ。中夜祭のバスケ試合見に来る?」
気まずい雰囲気に、佐野は話題を変えた。
「あー、うん。行くよ。佐野出るんでしょ?」
「あぁ。一・二年対引退組み。絶対負けられないよ。」
佐野の目がきらきらした。
思えば私が佐野を好きになったきっかけはバスケットだったけど、もし佐野がバスケをやってなかったら、私は佐野を好きになっていなかったんだろうか。
もしあの試合を見に行かなければ、佐野は仲のいいただの友達で終わっていたのかもしれない。
こんなに苦しい恋なら、初めから好きにならないほうがよかったのかな・・・。
「・・・紀子も見てるから、余計負けられないね。」
わざとそんなことを言った。
私のその言葉に佐野の返す言葉が一瞬遅れたのは、ただ照れているだけだと思った。
「・・・・・俺は、妃崎よりもお前に応援してもらいたいんだけど。」
「え?」
突然の佐野の言葉を、私はすぐに理解できなかった。
紀子よりって、どうして?
どうして佐野、そんなこと・・・。
「ゆき、覚えてるかな。俺らが1年のときの試合。」
もしかして・・・、あの時の事言ってるの?
私が、佐野を好きになった・・・。
「俺初めて出た試合だったんだけど、負けちゃってさ。その試合で三年生が引退だったから、俺ほんと悔しくて、気がついたら涙ぼろぼろでてきて。そん時応援席見たら、お前同じように泣いててさ。後でどうしてお前が泣くんだよなんてからかったりしたけど、・・・ホントはすげーうれしかったんだ。それから俺、お前が試合見に来るたびにその時のこと思い出して、がんばんなきゃって思ってた。あんなふうに泣かれたら、俺、困るからさ。」
佐野は、少し照れたように笑った。
「・・・・っ。」
私は、胸にこみあげてくるものを抑えるのが精一杯だった。


佐野、覚えててくれてたんだ・・・。
私が佐野を好きになった時のこと・・、佐野はそんなふうに思っててくれてたんだね。
うれしさで、胸が熱くなる。
そうだよ。
「もしも」なんてない。
だって現実は、佐野はバスケットが大好きで。
私はそんな佐野の全部を好きになったんだ。
好きにならなければよかった、なんて・・、もう思わない。
私、佐野を好きになれてよかった。
佐野、知らないでしょ?
佐野の言った言葉で、私はこんなに幸せになれるんだよ。


その日、試合で見せた佐野の透くようなシュートは、今も私の心の中に残っている。
私がこれから誰に恋をしようとも、絶対に消えない私の宝物だよ。

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Novel Editor