「凛・・・、あのね、あたし・・凛のこと大好きだよ?ほんとに・・、本当に大好きなの・・・。」 涙で凛の姿がにじんで見えた。 「大好きなのに、・・愁ちゃんを好きな気持ちとは、何かがちがうんだ・・。」 「・・・・。」 「凛が私を大好きっていってくれるのと同じくらい・・、私は愁ちゃんが好き・・。」 凛の顔が、見えない・・・。 「だから、ゴメンね・・。凛の気持ちには、答えられないよ・・。」 凛の、顔・・が。 「・・・そう、か。だよな。ずっと分かってたことだから・・。」 「・・凛、でもあたしっ、凛とはずっと仲良しの幼なじみでいたいからっ・・。だから・・・。」 声がつまった私に、凛は小さく笑った。 「うん、ずっと仲良しの幼なじみでいような。」 「・・・・っ!」 その瞬間、凛に抱きつきたくなった。 こんなにも優しくて大事な幼なじみを傷つけてしまうことは、なんて苦しいことなんだろう。 ねぇ、凛。 この時あなたに大好きといった言葉に、決してうそはないよ・・・。 「さ、帰るか!寒くなってきたしな。」 そういって私を見た凛の顔が夕日で赤く染まった。 「・・・うん・・。」
昇降口をでたところで、私は足を止めた。 「愁ちゃん・・・。」 愁ちゃんが少し前を歩いていた。 愁ちゃんとはまたちゃんと話したかったけど、今はちょっと気まずいよ・・・。 「・・・・。」 私はつい凛の顔を見た。 「・・・行ってこいよ。な?」 凛はやさしく笑った。 すこし寂しげにみえたのは、きっと気のせいじゃない、ね・・。 「ごめん・・。」 私は愁ちゃんのほうに走り寄った。 「愁ちゃん!」 私は後ろから、呼びとめた。 振り向いた愁ちゃんの顔は昨日と変わらず無表情のままだった。 「ね…、愁ちゃん。昨日、あたし一人でべらべらしゃべっちゃってゴメンね?あたしびっくりしちゃって。でも愁ちゃん。本当に久しぶりだね。いきなりだったから驚いたよ。」 「・・・・。」 愁ちゃんはまだ黙ったままだ。 「ねぇ愁ちゃん・・・、あのさ・・。」 手紙のことを言おうと思った。 どうして返事を書いてくれなかったのか、そう愁ちゃんに聞こうと思った。 だけど・・・・。 「美羽・・・。」 愁ちゃんが私の名前をよんだ。 「え?」 愁ちゃんが昔とおんなじように私を呼んでくれたことに私は驚いて、とてもうれしかった。 「・・・もう、俺に話しかけるな。」 「・・・え?」 「昔とは、違うんだ。俺も・・、お前も。」 私の目の前が真っ暗になった。 どうして? どうして愁ちゃん。 私は九年前からちっとも変わってないのに。 ずっと愁ちゃんを好きなままなのに・・・。 私から遠ざかっていく愁ちゃんを追いかけることができなかった。 ただ涙だけが流れて・・・、その場を動けなかった。
「美羽!?どうしたの!目、真っ赤だよ!」 次の日、学校に私は遅刻してしまった。 そして教室に入った私をみるや、沙希が叫んだ。 「沙希・・・。」 私は昨日の夜、めいっぱい泣いたはずなのに、また涙が溢れて止まらなくなった。 「美羽・・・。」 沙希は私をかばうように教室からでた。 「どうしたのよ?美羽。凛君と何かあったの?」 「ううん・・、凛には、ちゃんと話して・・・。」 「じゃあ・・」 「愁ちゃん、本当に私のこと・・、嫌いになったみたい。」 昨日の愁ちゃんの言葉が何回もリピートして、私の頭のなかはぐちゃぐちゃだ。 「嫌いって・・・、なんでそんな・・。」 「美羽!!」 廊下の向こうで凛の声がした。 「美羽、どうしたんだ?」 「あ・・、ちょっと、ね。」 私が泣いていることに気がついた凛は私のほうに急いで駆け寄った。 「美羽?あれから、何かあったのか?」 凛は優しい声をしている。 こんなこと凛に相談できることじゃないってわかってるのに、それなのに・・・。 「凛っ!!」 私は思わず凛の胸に飛び込んだ。 「・・・美羽。」 「・・あ、凛君。それじゃあ、美羽のこと、お願いしていい?」 沙希はとまどいながらそう言った。 「沙希、ごめ・・。」 「いいって!先生にはうまく言っとくからさ!」 沙希はそういって教室に戻った。 「・・美羽、とりあえず屋上、いくか?ほら、話聞くから。」 「・・ん・・・。」 凛は私を包むように肩をだいて、ゆっくりと歩き出した。
「話しかけるなっって・・・、そんなこと言ったのかよ!?あいつ!!」 少し私が落ち着いたあとに、凛は私の話を聞いてくれた。 「なんだよ、それ!久しぶりに会った幼なじみにそんな態度とるやついるかよ!」 「・・・愁ちゃん、昔とは違うって言ってた・・。やっぱり、昔みたいに仲良くはできないんだよ・・。」 「そんなの・・。」 「私だけが、ずっと過去のことばっか思ってて・・、馬鹿みたい・・。愁ちゃんはもうそんなことどうでもよかったのに・・・。」 「・・・・美羽。」 校庭の体育の声だけが耳に響く。 気が遠くなるように、耳の奥まで届いた。 「・・・おれにしとけよ。」 「え・・?」 凛がふいに言った言葉に沈黙が流れた。 「あ・・・・。」 私は凛の顔を見た。 「・・・ゴメン。」 もうそれしか言えなかった。 お願いだから凛・・。 もう私のことなんて忘れてよ。 じゃないと、私どんどん凛を傷つけちゃう。 「・・・なんてな。昨日はっきり振られときながらなんてあきらめ悪いんだか・・・。」 「ごめん・・・。」 「もういうなって。俺が悪いんだからさ。」 凛はいつでも優しい。 だから、また涙がでて・・。 止まらなくなってしまう。 「・・・泣くなよ・・。」 凛はせつなそうな顔をした。 私の体が凛の大きな腕に包まれた。 「泣くな・・。」 凛の体はあったかくて、太陽のにおいがした。
「・・・・。」 その時、屋上のドアの陰に人が立っているのに、私は気付くことができなかった。 その人が何も言わず、そこを立ち去ってしまったのにも・・・。 私たちのその姿を目にした愁ちゃんは、この時何を思ったのかな・・。
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