「聞いて厚狭!!」 「はぃ??」 「好きな人に…‥告白された」 両手で真っ赤に染まった頬を隠し、昼飯を突いている私にそう騒いできたのは、親友の有凪(ゆうな)。 最近好きな人ができたと叫んでいたが、どうやらその人に告白されたらしい。 「へぇ〜よかったじゃん!!」 箸を置いて、有凪の肩に力強く腕を置く。 何かいいことがあれば、いつも二人で騒いだり、誉めあったりするのだ。 「隣のクラスだから、不安だったけど」 照れながらもOKしたと、主張する。 「それでね??それでね♪ほうかご一緒に帰るんだー♪」 両手をあわせて、もうすでにルンルン気分を味わっている。 放課後一緒に帰るといったということは、私とは一緒に帰らないといわれたようなものだ。 友達に彼氏ができるということも悲しいものだ。 「それでね?厚狭も一緒に帰らない??」 にっこり笑顔でいう反面、私は目を真ん丸にして、どこをどうみても、にっこりとは程遠いものがある。 「なんで!?」 少しためならいながらも、私はきいた。 「やっぱり最初の内って恥ずかしいじゃない?彼氏も賛成だって言ってたし」 少しその気持ちもわかる。有凪は昔から私にべったりだったせいか、なかなか私がやらないようなことはしなかった。 かなりの人見知りだし、甘えん坊だ。
といってもこの状況は戴けないだろう。 すごく沈黙の闇。 「何で私が真ん中なのさ!?」 と有凪とその彼氏に訴えたかった。 右を見れば有凪左を見れば無表情の彼氏。 単なる私への嫌がらせなのか!? しかも会話があればまだしも。かなりの沈黙が、下校路の半分をすぎていた。 「あっあのさ!?彼氏サンは有凪のどこが気に入ったの??」 親友として聞いておきたいところだった。 その質問に、恥ずかしいよといいながらやさしく私の腕を叩いた有凪は、すごく恥ずかしそうに真っ赤に染まっていた。 「厚狭乃さんと話してるときの楽しそうな笑顔かなぁ」 「ってことは、前から気にはなってたの??有凪のこと」 遠慮なく私がいうと、何か企むようなほほ笑みで私のほうを見てきた。 「うんそうだよ」
次の日も、その次の日もこの二人の沈黙を、私がどうにかしようと会話を作った。 たまには用があるからと嘘を吐き、さっさと帰ってしまったり。先生の雑用をわざわざやって、先に帰ってて等と、できるだけ当たり前に二人っきりになれる場所は、二人っきりにさせた。 帰りだけだと思っていたはずが、いつのまにか昼も一緒になるようになった。 彼氏サンと有凪は、相変わらず私がいるときは会話が無い分、彼氏サンが私に話し掛けてきたりというのがあった。 有凪と私が二人っきりになったとき、私は思い切って言ってみた。 「ねぇ、私がいて邪魔だとか思わないの?私と有凪はいつでも二人っきりになれるんだし、少しは二人っきりになったら??」 と言ったときは、何かがまずかったのか、しゅんとさせてしまったが、言ってしまったものは仕方がないものだ。 「やだよ!!」 「え??」 「朝がいてくれないと恐いんだもん」 「何が恐いの??」 いまにでも泣きだしそうな顔に、少しばかり焦りを感じてくる。 「なんか私と二人っきりの時旭くんこわいんだもん!!」 「視線が??」 「雰囲気が!!」 見た目は確かに少し恐気だし、恐いというのもわかるけど、私が話しているなかでは、結構おもしろい人だし、やさしかったりもする。 「私が一肌脱いでやろうじゃないか」 にっこりわらって裾を捲り上げた。
「あぁさっひくん♪」 クラスへ堂々と入っていった。 「厚狭乃どうしたんだ」 いつもどおりの彼氏サンが、近寄ってくる。 「ちょっといいかな?」
連れていったのは屋上。 多少風があって寒いが、いまは仕方がないと思ってみよう。 「ねぇ、有凪と二人っきりに何でなろうと思わないの??」 とても直球なことくらい百も承知だ。 「別に理由はないし、別に二人っきりがいやなわけでもない」 無表情で言う彼に、少し私はホッとしていた。 「じゃぁ私の勘違いってことね??」 すっとほほえんで私がいうと、彼氏サンもやさしくほほえんだ。 「厚狭乃って本当に友達思いなんだな」 「えっ!?あっうん…‥親友だしね」 にっこりと笑うと、何かうれしそうに近寄ってきた。何をするのかと、ボーッと見ていると、急にキスをしてきた。 驚いたせいか、何が起きたのかが理解できずに、驚いた顔のまま。 顔が離れたと同時に、理解ができ、思いっきり肩を押しはなす。 「なっ!!なにすんのさ」 片手で口を押さえながら怒鳴り付ける。 「だって。俺本当はおまえが好きなんだ」 「はぁ??だってあんたから有凪に告白したんでしょ!?」 パニくっていて、冷静な彼氏サンにメチャクチャに怒鳴り散らす。 「そのほうが厚狭乃と話すチャンスがあると思ったんだ」 「人のいい有凪を利用したっていうの!?」 「確かに人がいいな」 「有凪はね!!前からあなたのことが好きだったかもしれないのに、有凪でもてあそんでたってこと!?私はそんなやつとはゴメンだわ!!この薄情者!!」 私は怒りに任せてこの最低な彼氏サンを打っ叩いた。 だが、その時視界に入ったのは、いまにでも泣きそうに、屋上の扉の前にいつのまにか立っていた有凪だった。 「ゆう…‥な…‥」 叩いた時の私の手が、無意味なのか、ジンジンと痛んできていた。 「旭くん…‥いまの…‥本当??」 死にそうな目をして、有凪はのっそりと近づいてくる。 「…‥」 無言の彼に、違うよね??と何回も聞きなおす。 「聞いてたんだろ??本当さ」 冷たい目で、見下ろすように言った。 「どうせ知ってたんだろ??」 当たり前のようなセリフが、見下す彼の口から出てきた。 「しって…‥たの?」 私がゆっくりと有凪にきいた。 「知ってたよ。厚狭は興味ないだろうとは思ってたけど…‥旭が厚狭のこと好きだってことは付き合う前から知ってたもん!!」 涙を流しながらも、力強い口調で睨み付ける。 少し睨み合うと、有凪から目を放し、私の腕をつかんでさっさと屋上を出ていった。
「厚狭…‥」 しばらくして、廊下の隅っこで有凪が口を開いた。 「ん?」 「あんた旭と付き合わないの??」 「そんな有凪こそ。いいの??私が旭と付き合っちゃって」 「やだ。あんなくそ野郎に厚狭を預けられるか」 「ははっ。私は有凪さえいればいいもん。有凪が幸せになったら彼氏作るよ」 「なら、私たち一生彼氏できないかもね??」 「えっ??」 「わたしも厚狭が幸せになるまで彼氏もうつくんないきだし」 プーッとふくれて有凪がいう。 しばらくそれをキープして、急に私は笑いたくなり、いつのまにか二人で爆笑してた。
私たちは、たぶんまともに当分彼氏はできなかったが、世間一般で言う、友情が深まったというのだろうか。
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