作品名:雪尋の短編小説
作者:雪尋
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「政府の、委員会による、平和のための正義」



「治安維持委員会の者です。あなた、正義の味方ですね?」

 僕が正義の味方を辞めて一年になる。

 何故辞めたのかと言うと、敵と呼ばれる存在、人間かどうかを問わず、時には生き物かどうかさえ怪しいケースもあるような『災害』を処理するのに疲れたのだ。


『僕は便利な道具じゃない!』……我慢の限界を迎えた時のことは今でも夢に見る。


 そして今日。玄関先に立ったスーツを着た二人の男達が、僕を拘束した。


 スーツ姿の男達に拘束されて数時間後、僕は委員長の前に放り投げられた。

「くっ……何をする! 僕を解放しろ!」

「もちろんです。ただし条件があります。正義の味方をまたやってもらえませんか?」


 それは待ったなし、駆け引き無し、直球にして単刀直入な物言いだった。


 僕の脳裏に色んな表情が浮かんだ。

 感謝する者。
 救助が遅れたと非難する者。
 変身した僕に怯える者。
 逆恨みする者。

 ……倒した敵の方がまだ満足そうな顔をしていた気がする。


「…………断る」

「おや、さっきまでの勢いはどこに? まぁいいでしょう。再正義の実行拒否については分かりました。ですが貴方のような常識外の力を持つ存在を放置しておくことは出来ません。よって、その力は我々が有効活用させてもらいます。なに、心配いりません。みんないずれ通る道ですよ」


 僕は委員長を、政府を、世界を、人間を恨みながら叫んだ。


「お前等はいつだってそうだ! 僕を、僕達を利用することしか考えていない!」

「ワンフォアオール。それが世界のルールです。
 そんな簡単なことも知らなかったのですか?」


 委員長は嫌らしく笑いながら、
 僕を「改造部屋」というプレートを掲げた部屋に連れ込んだ。



「委員長、お疲れ様です。今回も無事に『敵』が確保出来てよかったですね」

「ああ。やはり怪人の素材には『正義の味方』が一番だな。モノが違うよ」


 彼らは新しく造られた怪人を前にして、満足げにうなずいた。

 過去において、彼らは一番最初に『悪の組織』と呼ばれた者達だった。その組織は正義の味方によって滅ぼされてしまったが、政府が生き残った者達を保護したのだ。


 『人類の共通の敵を作れば、皆が結束する。
 そして悪を打倒する正義の味方が現れれば、それに賛同する形で犯罪率も低下する。  怪人の被害は予想の範疇内だから、管理もしやすい』


 それは政府が用意した完璧なプラン、終わりのない出来レースだった。


 治安維持委員会の長はちらりとデスクの上を見た。そこには、新たに政府から支給された、潤沢な予算の内情が記されている。それは彼らの仕事に対する評価でもあった。


 それは委員長が悪の組織の軍団長だった頃には得られなかった、望むべき評価だ。


「今夜は銀座でパーっと騒ごう。
 例の店を予約しておいてくれたまえ……っと、その前に」


 委員長は新しい怪人に命令を下した。


「我々の予算と、世界平和のために……戦え、怪人!」


 平和のための悪。必要な悪。否、彼らは悪でも正義でもなく、役人であった。






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