作品名:奇妙戦歴〜文化祭〜最終版
作者:光夜
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 視点、斑鳩

 「また、か―――――」
 言い様、榊に思い衝撃が走る、人形からの剣戟だ。孝太の形を模した人形は無表情でそれでも狂ったような剣戟を与えてくる。数分前までは以前同様俺と人間は互角だった。何時からだ、いや、なぜが正しい疑問の持ち方だろうか、なぜ人形の力が上になったのだろうか、どの時点で―――――――――
 考えはそこから剣戟に挟まれた、金属同士のぶつかる音。雑音とも取れる戦いは幾数十合に及んでいる、俺は防戦一方で追い詰めたはずの人形に五歩も後退させられている、決定的な隙が無ければこの差は埋められない。
 どうして、こうなった、やはりあの時か、イリスが二つ目の記憶を取り集めて人形に入れた瞬間から立場は逆転したのかもしれない。いや、そうなのだだからこそ飛び掛られて剣戟を交わしているのではないか。
 「ははは、なんだえらく驚いているな。お前考えすぎると痛い目を見るぞ」
 イリスが俺に何か言った、痛い目を見る。そんなの当の昔に見ている。かなり痛かったぞ夏の戦闘は、だが引き分けで持ち込めたのは単に運が良かっただけで今回の冬の戦闘は己が全て、痛いことなど我慢して前を見るのみ。
 「そうですね、斑鳩君は考える必要は無いでしょう。考えるのはこの私に任せてあなたはその人形を壊してください」
 ローゼンの中では役割分担が成立しているのだろう。ならその言葉に甘えさせてもらうとするか。
 「笑うほど余裕があるのでしたら手助けはいりませんね」
 「そうだよ、シン君なら必ず勝ってくれ。絶対」
 葵の声が聞こえた。何を言っていたかも判らないのになぜか元気が出た。なら、ちょっとのハンデもいいかと余裕の考えも浮かぶ。そう、これはハンデだ。俺が人形よりも優れているから人形には有利な状況に居るだけで地質何も変わってはいない。なら考えないで身体を動かせ、剣筋はどう頑張ったって線でしかない。避けることぐらいどうということは無い。
 「――――――――――」
 隼のような俊足、刀は重力に逆らうことなく俺に向けられた。それでも避ける速さよりやや遅い。
 しゅん、と紙一重で人形の刀を避け後ろへ回った。決定的な隙が生まれた。
 「もらった!」
 横一閃、確実な切断技を俺は放つ。が――――――――――
 がちん、聞こえてきたのは。
 「――――――――――な」
 金属音。
 人形はあの一瞬、背中に刀を回し榊と刃を交えた。震える手はぶつかっているからなのか恐怖からなのか。
 「―――――――――――おかしい」
 そう、おかしいのだ。俺が放った横一線は確実に防げるほど軟な速さじゃなかった。なのに人形は横の動きより遅い縦の動きで時間が遅れたにもかかわらず追いつき背中越しの鍔迫り合いをしている。おかしすぎる、孝太の複製なら筋力だって孝太のはずだ。
 だと言うのにこの人形は孝太以上の速さで俺の攻撃に間に合わせた。これは、著しくルールを破っている。いや、そもそもゲームと言ったのはイリス本人か、ならばこの異常もイリスの考えなのだろう。基よりこの戦いにルールは無い。
 「そうですね。あれはもう藤原君のコピーではありません。ただの狂者です」
 「え、そうなの?格好はまだ孝太みたいだけど」
 「そうですね、姿かたちこそ藤原君ですが中身が違います。多分二つ目の灰色のダイムが原因です」
 「でも、あれは孝太のコピーなんでしょう?ならなんで性能に違いが出るの、普通強くなるって言ったら技とかそう言ったものでしょ?」
 葵の見解は的確だった。そうだ、あくまでベースは孝太なのだ。なのにあれは技のキレと共に筋力が向上しているように思える。
 「ええ、その通りです、複製はあくまで複製、まったく同じモノを造るということは絶対にできません。どんなものでも似た物ならば本物よりも精度は落ちます。複製は精度が落ちるからこそ複製であって。オリジナルと同じかそれ以上の能力では世界に矛盾が生まれてしまう。ですから最初に作られたアレは間違いなく精度の悪い複製品でした」
 「なら、今もそうじゃないの?」
 「はい、厳密に言えばそれは先ほどまでで今のアレは複製品ではなく完全にオリジナルを超えています」
 ローゼンの説明にやっと気づいたかと言う笑いが聞こえてきた。だがやはり判らない、ならば何処で孝太(オリジナル)を超える孝太(複製品)が出てきた。
 「先ほどのダイムでしょうね。複製品では戦闘力に落ち度がある、ですからイリスはオリジナルが倒したダイム記憶をかき集めて容とし、出力と言う画面に埋め込むんです。ですからアレは藤原君の戦闘力の二倍と言うことでしょう」
 「う〜ん、まだ判らないよ。もっと詳しく教えて」
 「はい、つまりはダイムを倒したのは藤原君です。その倒されたダイムは体で孝太君の力を知っています。足の速さ、腕の力、小さな癖、技。実際に戦ってわからないことはそう言った方式で知るんです。でも複製するときは少し精度が落ちます。だから世界がアレの在り方を許す。けれど藤原君は続いてもう一体ダイムを倒しました。ですから同じ服製品を作る情報がもう一つ加算されるんです。つまり足し算ですね。
 最初の複製品が1として、もう一つの情報を加算することで同じ1を足すんです。
 すると複製品は実際2となります。こうなると純粋な足し算ではないですね。本物の藤原君が2で複製が1で精度の落ちた藤原君です。でも更に複製品が加わって2になり追いつきます。そして更に追加されると3となりオリジナルを超えることになる。純粋な力の上乗せだから世界は拒否をしませんし藤原君が痛手を負うわけではない。ですからあの人形は完全に藤原君と同じ能力となっているんです」
 「ちょ、ちょっと待て、だったら何で俺の攻撃が防がれたんだ?本物の孝太なら無理だぞっ、ってわあ!」
 話してみたが完全に言い終わる前に人形がけしかけてきた。鍔迫り合いは終わった。また剣戟が始まる。
 「そうですね、じゃあ私の計算違いです、複製品は1.5倍と言うことです。それなら今のソレは孝太君より1だけ強いと言うことです。ええつまり、オリジナルの1.5倍ですね」
 なんて簡単に言った。なんてことだ、あまりに簡単に言うものだから全然危険に感じないぞ。でも現実の人形は孝太よりも強いんならこれ以上の攻撃はさせてはいけない。もし孝太が下で裏・刃迅を使っていてソレがさっき入れられたコアの情報にあったら一発KОだ。なんとしてでもこれ以上の強化は、って何でイリスはもう一つの情報(コア)を持っているのかな?
 「ははははははは、なんだよ仕掛けの解決だけで危険の切り抜けは出来ていないじゃないかお前ら、そんな状態で三つ目を入れたらどうなるんだろうな」
 あれは完全に動物解剖をして楽しむ悪魔の顔だ。ためらいも無く人形を呼び戻して手に持っている情報を取り入れるに違いない。
 「そうだな、十回だけ攻撃を防いだら止めてやるよ」
 「――――――――――え?」
 「楽しみだな、十回逃げられるかな」
 そう言った瞬間、一撃目が俺を襲った――――――――――――――――





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