作品名:奇妙戦歴〜ブルース・コア〜
作者:光夜
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「後一つ上か」
シンはついに屋上の下の階に着いた。ここには本当に何も無くシンが隠れたのと同じ曲がり角がある以外は教室も無かった。
「造りが同じなら行き止まりだな・・・・・・あそこが屋上へ行く階段だな」
階段を見つけて歩き出した時下から声が聞こえた。
「後はこの上だけだ追い詰めるぞ!」
「げ!」
声が聞こえて走ろうとしたとき前からも声が。
「何てこった!・・・・くそ」
結局さっきと同じように曲がり角に隠れた、代わり栄えも無く掃除用具入れがあるだけだ。
「よしくまなく探せ!」
一人が指示を出し五人が向かってきた。
(万事休す・・・・・ん?)
シンは突然何かに吸い込まれた。
「・・・・・いないな」
曲がり角を確認した五人は行ってしまった。そこにはいるはずのシンが消えていた、一体どこへ?見ると掃除用具入れから声が聞こえた。
「よかった、間一発だね」
シンの目の前には葵がいた。
「・・・・・・え?」
シンは何が起こったのか理解できていない様子だ、そんなシンに葵は手を振って呼んだ。
「お〜い、起きてる?」
「え?あ、ああ・・・・じゃなくって葵・・・どこだここ、俺は用具入れに吸い込まれて」
呆然とするシンに葵は笑って説明した。
「あはは、ここね私たちの秘密の部屋」
「秘密の部屋?」
「うん」
葵は頷いた。そうここは葵が造ったこの学校の隠し部屋だった。
「どう言うことだ?この部屋は何だ?」
声は冷静だが頭では状況が整理できていなかった。
「ここね、もう使わないっていうから貰ったの」
「誰から?」
「校長先生」
この答えにシンは目が点、まさか管理職ともあろう校長が一生徒に教室をあげるわけが無い、しかも改造を許すとは。
「最初からこうなのか?」
シンは入り口を見た。用具入れの板に白で塗装されていた、見ただけでは密室にも見えた。
「まさか、入り口と中を改造したんだよ、前までは他と同じように扉があったけど」
「それで用具入れをカモフラージュ代わりに?」
「うん、だって普通じゃつまらないし」
関心ついでに更にシンは質問した。
「さっき『達』って言ったよな?他にも知っている奴が?」
「うん、唯と孝太」
そうかと納得して改めて中を見渡した。壁には窓も無く白い塗装がしてあるだけ、部屋の中心には大きなテーブルが一つ広さは普通の教室と同じぐらい。
「良く出来ているなここは」
「えへへ」
誉められたと思ったのか葵は頭を押さえて照れた。
「昔から葵は隠れ家が好きだったもんな」
「うんでもすぐに壊れちゃったけどね」
昔を思い出していた。公園に作った秘密基地シンと葵と唯で作った、次の日雨で崩れていた、他の奴に見つかって壊された、いろいろと思い出す。
「でももう壊れないよ」
葵がシンに言う。
「そうだな、それに本当に隠れるには丁度いいなここは・・・・」
シンは葵に感謝した、助けてくれた事も、友達をつくる事を進めた事も。
「ありがとう」
口からその言葉が自然と出た、葵は黙って笑った。
残り十五分
外ではシンを見つけられずに慌てている部員達が走っていた。
「どこだどこだ!早く探せー」
あちこちで声が飛び交う、そんな様子を窓辺で見ている影が。
「葵うまくいったかな?」
唯と孝太だった。二人は自分達の教室に戻っていた。
「この様子だと大丈夫だよ、今ごろあの部屋でくつろいでるさ」
「・・・・そうだね」
孝太に言われて唯は安心した。
「後で様子でも見に行こうぜ」
「うん!」
そのとき屋上に黒い影が降り立った。
「ん?」
シンは持っている袋から違和感を感じた。
「どうしたの?」
シンは袋の口を開け中身を出した。
「な!」
見るとブルース・コアの欠片が光っていた。
「これってもしかして・・・・」
葵がシンを見た。
「この学校にブルース・コアが来ている!」
シンは走り出した。
「シン君!」
呼び止められてシンは葵を見た。
「がんばって」
シンは頷いて扉を開けた。
「屋上か!」
扉(と言っても用具入れ)を出たシンは屋上に走り出した。階段を上がると何かが聞こえた。
バタン
扉を開けるとそこには両手を上げて唸っている怪物・・・・『ブルース・コア』がいた。
「こんなところにまで・・・・覚悟!」
刀を取り出したシンは鞘をつけたままブルース・コアに殴りかかった。
ドゴ!
見事に命中相手はふらつきながらも怒りに身を任せて腕を振ってきた。
「グアアアアアアアアアアア」
ブン、ブン、ブン
乱れ打ちでもスピードは速かった。
「くっ・・・おっと・・・ぐあ!」
乱れ打ちがシンの肩に一発食らわした。肩を押さえながら体制を立て直した。
「はぁ、はぁ・・・・やはり打撃は無理か・・・・」
シンは鞘を抜いた、刃は夕日に当たって反射した。その光をもろにブルース・コアは見てしまった。
「グアアア!」
目を押さえながら後ずさりする、その気を逃すほどシンは鈍くない。
「隙在り!」
走り出し刀を横一線に振った。
「散り花の弐・『イチョウ』!」
ズバ――――!!
振りぬき終わるとその場の時間が止まった。
「ギャヤヤヤヤヤヤ」
断末魔の声を上げたブルース・コアは葉のように細かく散った。散ると同時に破片は消えていったまるで溶けるように。
「終わった・・・・・痛っ!」
肩に痛みが走った先ほどやられた傷が腫れていた。
「葵に診てもらうか」
そう言うとドアに歩き出した。
「見つけたよ、斑鳩君」
「こんな所にいたのね!」
ドアの方から二つの声が。銀と薫だった。
「今度こそ捕まえるわよ!」
そう言って薫はダッシュした。
(逃げられないな・・・・)
シンは目を瞑った、今度こそと思われたそのとき銀が薫を止めた。
「待った!薫!」
シンを捕まえる手前で薫は止まった。
「何で止めるのよ銀!」
薫は不満をぶつけた、銀は近づいてシンの肩にポンと手を置いた。
「うっ!・・・」
痛みに反応して唸った。
「あ・・・・・肩、怪我してるの?」
「そうみたいだね、薫はどうする」
銀は薫を見た、しばらく考えた後頭をかきながら言った。
「仕方ないね、怪我人に勝ってもあたしのプライドが許さないよ」
銀は頷いた。
「そういう事でこの勝負はまた今度、怪我が治ったらだ」
「ありがたいな」
口ではそう言っても顔は『もうごめんだ』という顔をしていた。
「じゃあな、怪我速く治せよ」
「ああ」
「治ったらリベンジマッチだからね」
「考えとくよ」
二人はそう言って下りていった。
ピンポンパンポン
『終了です、スタートして一時間が経ちました・・・・が結果斑鳩君は誰も捕まえられませんでした。よって勝者なし、斑鳩君は帰宅部・・・・・失礼しました、今斑鳩君から新しい部活を造ると言う申し出がありました、本人の意思で斑鳩君は『図書部』となります』
この放送に部員達はブーイングの嵐、疲れただけと文句を言う生徒も。放送室にはシンから預かった紙を見ながら放送を終えた唯と孝太がいた。
「これでいいの?」
「ああ、斑鳩の提案だからな、それにしてもあんな怪我しておいて『秘密の部屋』を部室にするって言い出してよまいったぜ」
「それぐらい必死なんだよ、それでシン君は?」
「部屋で傷の手当て、行くぞ」
「あ、待ってよー孝太!」
唯は機械のスイッチを切って放送室を出た。
二人は『秘密の部屋』・・・・今は『図書部室』に向かっていた。
「どのくらいの怪我なのシン君?」
「たいした事無いよ、ただ肩が青く腫れてるだけ」
唯の心配を孝太は軽口で流した、無責任ではなくちゃんとシンの体の丈夫さを考えての言葉だった。
ガチャ
掃除用具入れの形をしたドアを開け唯が先に入った。
「あ、し――、孝太」
何かを見つけた唯は孝太に向かって口の前に指を立てた。
「何だよ・・・・・ああ、そうゆうこと」
テーブルを見て孝太は納得した。
治療を終えたシンと葵がイスに座って寝ていた。肩を寄せ合いながら。
「ス―――、シン・・君・・・ご苦労・・・様・・・」
葵が寝息を立てながら寝言を言っていた。
夕日は沈みかけていた。
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