作品名:RED EYES ACADEMY V 上海爆戦
作者:炎空&銀月火
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「あ、小牙、お帰り!」
門から入ってきた小牙を見て、麗香は小さな違和感を覚えた。
(なんのにおいだろう…)
彼の身体から僅かに匂う鉄の香。そして出て行く時には身に付けていなかった帽子。その下からこちらを見上げる眼を見た瞬間、彼女は思いっきり後ろに飛んだ。
「誰だっ!?」
咄嗟に避けたところに突き出される、鋭い凶
器。―否、ただの小指。勢いで帽子が外れ、床に落ちる。そして中から黒い長髪があふれ出した。
「…小牙じゃ、無い…」
騒ぎに気づいた団員達が、ゾロゾロと寄ってくる。その人混みに、虚ろな銃口が向けられた。
「…動くな」
「なんの騒ぎだね」
後ろから顔を出した金に、彼女は笑って言った。
「目標、全て確認」
そして氷のような無表情で、告げる。
「殲滅、開始」
同時に建物のガラスが一斉に割れる。外から飛びこんできた銃弾の雨が、無防備な団員達に襲いかかった。
―紅が、溢れた。
「…お前も、化け物か…」
「……」
化け物、という言葉が凛の心をえぐる。
―私は、化け物…。
「…なら、仕方がない。親父と母さんの、敵だ!」
冷たい刃が、神速で振られた。
「…くそっ…」
しかし、神速と言えどもオリジナルには叶わない。錘を外した凛の身体は、鞠のように軽く弾み、ギリギリで斬撃をかわしていく。司乎の口から、悲痛な叫びが漏れた。
「どうして、何故親父達は殺された! お前達のせいで、麗香は…!」
その言葉一つ一つが、心に刺さる。傷口から血が溢れ出すように、苦しいほどの哀しさが心を満たしていく。
斬撃の一つ一つが凛には、しっかりと見えていた。
―悲しいほど、はっきりと。
そして。
ザグッ。
鈍い衝撃が、脇腹に走った。着ていたTシャツが軽く血に染まる。傷口はそんなに深くないようだ。
「説明しろ、化け物!」
斬撃は容赦なく彼女を追いつめる。身体のあちこちにみるみるうちに傷が増えた。
そして。
「何とか言え、小牙!」
白い光が目の前に走る。
“バケモノ…”
その言葉が、心に刺さった棘が、取れない。心臓が膨らむように苦しい。
―動けない…
スローモーションのように、刀が迫る。見開いた凛の眼に、涙を浮かべた司乎の眼が映った。
―斬られる…
ギィィイイイイン…。
何も、感じなかった。響いたのは、痛みではなく金属同志の不協和音。
目を開けると、抜刀しきった体勢のまま、司乎が固まっていた。そして、彼の前に転がるのは小さな弾丸。―細長い、射撃用の弾。
「誰だ!」
凛の声に、初めて感情が宿った。それは、友を狙撃された、怒り。
そしてそれと等しい感情を持った人物が、凶行を行った銃を抱え、天井の梁から姿を現す。
あまりにも意外なその人物に、思わず凛は絶句した。
「…う…そ…だろ…」
そこにいたのは、1年前より伸びた長髪を持つ、金髪の少女だった。
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