作品名:自称勇者パンタロン、ずっこけ道中!
作者:ヒロ
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俺達は固唾を呑んでバッツ達のやりとりを見ていた。
バッツ達の傍らには崩れ落ちた巨大な像が見える。像はバチバチと壊れた機械のように火花を発していた。この状況から見る限り、ついさっきまでこの部屋で戦闘が行われていたのだろう。
先を急ぐ俺達はこんな所で足止めを食らいたくは無かったが、ニコルの反応といい、バッツは相当な実力者に違いない。そのバッツと一緒にいる女も同程度の力を持つと考えると不用意な接触は避けるべきだ。ここは慎重に行動しないと。
その時、俺はバッツの手に握られている杖の存在に気がついた。神々しい光を放つその杖は、明らかに他のアイテムとは違う存在感を発している。
「バッツの手に持つあの杖、ひょっとして『降魔の杖』なんじゃないか?」
「今頃気がついたのかい?間違いないよ、あれが『降魔の杖』だ。凄い魔力を感じるよ」
ニコルが振り向きもせず言う。
「さて、問題はそれをどうやって手に入れるかだが……」
メイスンはそう言いながら、俺たちに『神の息吹』を唱えた。この呪文は相手の呪文の威力を和らげる効果がある。
「さっきは先を越されて欲求不満だったけど、あの『サウザンド魔道士』バッツと戦えるなんて……これ程の獲物は無いよ、フフフ」
不敵な笑みを浮かべながら、ニコルは手に魔力を集中させている。ゼルドも背中の斧に手をかけた。こいつらに話し合いと言う概念は無いのか?
「な、なぁ、手に入れた者にはアルガニスタンから多額の報酬が手に入るんだろ?普通に話をして譲ってもらえばいいじゃないか」
戦う気満々のニコル達と違い、俺は戦う気ゼロだ。巻き込まれちゃ敵わんからな。なんとか戦闘は避けねば。
「本当バカだねパンタロンは。僕達が最初に手に入れるってことが大切なんだよ。他の奴らなんかに『降魔の杖』を先に手に入れられたってことがわかったら僕達が来た意味が無いじゃないか。それに同じ魔法使いだから分かるけど、バッツは多分アルガニスタンに『降魔の杖』を差し出す気は無いよ。僕達はね、金よりも貴重な魔法具に興味があるんだ。それをみすみす他人の手に渡すなんて愚かなことはしない」
「そんなものなのかねぇ……」
俺だったらあんな使い道の分からない杖一本よりも金を選ぶけどね。賢い連中の考えることは、よく分からんぜ。
部屋では女がバッツに近づき何かを話している。
俺達は奴らの隙をうかがい、戦闘を仕掛けるタイミングを見計らっていた。その時だった。
突然バッツがその場に倒れた。女は倒れたバッツから『降魔の杖』を取り上げニヤリと微笑む。なんだ?仲間割れか?だが、もしそうなら俺達にとっては好都合だ。襲うなら今だ。
俺はニコル達と顔を見合わせた。ニコル達も頷く。
俺達は部屋に飛び込んだ。
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