作品名:トリガー
作者:城ヶ崎 勇輝
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 数十分後、鳥牙は数時間ぶりに太陽の光を浴びた。これほど太陽がまぶしく、空が青いと思わなかった。
彼は応急処置として足に包帯を巻きながら前に進んだ。チーはやはり重症なので自衛隊員の肩に支えられている。後のほうでは相変らず城崎が高笑いをしている。

    〜トリガー〜 歓喜パレード

鳥牙はふと前を見るとそこには大勢の人々で埋め尽くされていた。気が付かないうちに歓声が沸き起こっている。司令官達の呼びかけに応じた日本の人々である。もちろんそこにはテレビに出演した司令官、宮本正、神谷たみ、神谷なみ、Drハカセもいる。
人々が歓喜のあまり押し寄せてきた。鳥牙に握手を求めたり抱きつかれたりした。彼にとってこれほどうれしいことはない。
ふと、人ごみの中に鳥牙の妻と娘の姿が見えた。彼は人ごみを掻き分けて彼女らの側に行った。
「あ、パパ!ママ、ママ、パパだよ、パパが帰ってきたよ!」
なみは父の存在にいち早く気付き、嬉しさのあまりピョンピョン跳ねた。
鳥牙はそんな娘を抱っこした。娘の肌の暖かい熱が父にも感じた。
そして、長牙とたみは自然に目があった。まばたきもせずにじっと見つめあう。言葉を交わさなくとも2人の言いたいことは分かった。
(迷惑かけて、ごめんな)
(生きててくれて、ありがとう)
誰が作ったのか、紙吹雪が2人を祝福する。拍手が沸き起こった。
鳥牙は千惟が隊員の肩に支えられながらこっちに来たのを見るとなみをおろしてたみの方へ行かせた。まあ幼い子に生の血を見せるのはいけないと思ったからだ。
「ト、トリガー…いや、神谷はん、あんた、家族いたんやね」
痛々しい千惟がやってきて言った。そして、その声色は驚き――それと、これは悲しみなのか――が空気を通じてわかった。千惟はもしかして、鳥牙のことをずっと前から…。
「まあ必要以上のことを漏らすのはシューティング隊として失格だからな」
鳥牙が目をそわそわして言った。この言葉でひどく傷ついただろう…。
司令官…いや、宮本正が気がつかないうちにやって来た。
「トリガー…いや、神谷君、吉川君、おめでとう!そしてありがとう。君たちは英雄だ。これからもシューティング隊の英雄として日本を守って欲しいが…世間に公開されたシューティング隊などすでに必要などない。しかも我々3人しか残っていないとなると存続は不可能と言っても良いだろう。残念な事だ」
「ちょ、ちょっと待ってください。俺たち、この後はどう生きていけばいいんですか?」
鳥牙が慌てて言った。
「その心配はない。君たちは君たちに合った仕事があるはずだ。千惟よ、君は優秀な成績だ。何かの研究をしてみてもいいのではないだろうか。鳥牙よ、君はさまざまな事を成し遂げてきた。日本の復興に役立ててみてもいいだろう。もちろん、それ以外にも君たちに合う仕事はたくさんある。年齢だって、君たちは知名人なんだから、受け入れてくれるさ。おっと、お迎えだ。2人とも、ゆっくり怪我治せよ」
宮本はゆっくりと踵を返した。救急車が国会の正門から入ってくる。
人々は救急車を避け、それは2人の前に止まった。
救急車から白衣を着た人が数人出てきた。千惟は彼らの持っている担架によって救急車内に入れられた。鳥牙は自らの足でその中に入った。付き添いとして、たみとなみと、Drハカセも乗り込んだ。
人々の歓喜に包まれて救急車は動き出した。


 クラックエイジは滅びた

  平和なる日本よ永遠なれ
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