作品名:マリオネットの葬送行進曲
作者:木口アキノ
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 ヒューマノイドの部品の組み立ては、狭いコンテナ内で行える筈もなく、それから察するに、コンテナの外に出て、その作業を実施したのだろう。
 貨物室には、何体ものヒューマノイドがうろつく結果となった。
 その中の一体が、室外に通じる扉に手をかけた。その時はまだ、リオンがキーロックシステムを操作する前で、扉は動かなかった。
 そのヒューマノイドは、しばらくその場にじっとしていたが、ふいに、もう、自分の力が制御などされていない事に気づき、扉に自分の拳を打ち付けた。
 がごん、と音が響き、扉が凹む。それを2度、3度と繰り返すうちに、とうとう扉はひしゃげて、外側に向かって倒れた。
 彼は、自分の拳を眺め、それから扉に目を向ける。
 そうしてから、初めて扉が破壊されたのに気づいたかのように、室外に、第1歩を踏み出した。


 リオンは、先程覚えた道筋の通りに艇内を進んだ。
 警備員が配置されている場所に来ると、身につけていた物入れから、通称「ネズミ」と呼ばれる小型爆弾を取り出す。
 掌の4分の1程の大きさのこの「ネズミ」に、距離と方角を入力してやれば、その数値の分だけ廊下の端を高速で走り、そこで爆発を起こす。破壊力は低いのだが、陽動に使うには最適である。
 ぼん、と爆音がし、警備員達は、その方向へと走り去る。
 そして、人のいなくなった廊下を進む訳だが、こんな物を使えば、艇内に侵入者がいるのは、阿呆でもわかる。
 ミューズを救出した後は、強行突破で救命用脱出ポッドへ走るつもりだ。
 眼前に階段が見えた。記憶によると、これを降りて、1番始めの、右への曲がり角の向こうに、警備員が3人いた筈だ。
 リオンは、慎重に階段を降りる。そして、その、警備員がいる筈の通路から、血液が、流れて来るのを目にした。
「……え?」
 何があったのだろう。この血液の量は、相当だ。
 リオンは足早にその場へ近づき、曲がり角を覗き込んだ。
 今まで、いろいろな現場を見てきたリオンでも、流石に息を飲む。
 腹に穴を開けられた死体が、首を引きちぎられた死体が、頭を磨り潰された死体が、そこには転がっていた。
 そしてその中心に、全裸の幼女が座っている。所々肌の色が違い、継ぎ目が見える所から、この幼女がヒューマノイドだと判った。
 そして彼女は、死体から、手足を引きちぎっては弄ぶ。まるで、粘土遊びでもしているようだ。
「一体、何があったというの?」
 リオンに気づき、幼女のヒューマノイドは、眼球だけを、ぐりん、と動かし、こちらを見る。そして、よろよろと立ち上がり、引きちぎって持っていた人間の肩から肘までの部分を、その場に落とす。
 ここにいては、いけない。
 リオンは咄嗟にそう判断し、その場から後退すると、廊下を先へ先へと走り出す。
 走りつつも、先程の光景が頭から離れない。なぜ、あんな行動をとるヒューマノイドがここに居る?
 継ぎ目。そうだ、あのヒューマノイドには、継ぎ目があった。不良品?それにしたって、あんな、別々のものを組み合わせたような、不自然な……。
 組み合わせた?
 この宇宙艇で運んでいるのは、何だ。
 ヒューマノイドの、部品。
 組み合わせた?
「誰だッ」
 突然、声がして、思考が打ち切られる。
 しまった。リオンは軽く舌打ちする。
 あまりの出来事に気を取られ、警備員の配置されている場所まで、走ってきてしまった。
「お前、どこから入ってきた?」
「あら、こんにちは」
 リオンは唇の端をあげて笑ってみせつつ、相手を観察する。
 相手は、2人。武器は、リオンのものより更に小型のハンドレーザー砲だけ。
 リオンは相手が武器を構える前に、素早く当て身をくらわしつつ、2人の間をすり抜ける。そして、自分のハンドレーザー砲を高い位置で水平に構え、くるりと振り返ると、それは丁度、2人の警備員の顔面を直撃する。
「悪く思わないで」
 リオンは、警備員の肩と脚を撃ち抜いた。
 これで、相手はこちらを攻撃できないし、追っても来られまい。
 その場から立ち去ろうと、リオンが警備員に背を向けた時である。
 ごしゃり、と硬い物体が破壊される音がし、その後に、警備員のひきつった叫び声。
「何?」
 リオンは、弾かれたように振り返る。
 破壊され、穴の空いた壁から、ぬぅ、っと腕が伸び、躰が現れる。
 今度は、幼女ではなく、成人男性の姿のヒューマノイド。ずっと笑顔でいるのがまた、不気味である。
 彼は、自分の足元にいる警備員に目をやり、そして、その腰に、ハンドレーザー砲を見つける。興味の対象が、そこにいったらしく、腰を落とし、ハンドレーザー砲に手を伸ばす。
 警備員は、尻と怪我をしていない方の脚でずりずりと後退し、逃げようとするが、狭い廊下での事、すぐに壁に背をつく。
 ヒューマノイドはしかし、警備員に危害を加えるつもりは、今のところないらしく、ホルスターからハンドレーザー砲を抜き取ると、それをしげしげと眺めた。
「わぁ、本物だ」
 電波の悪いラジオの様な声で、彼はそう言った。
「こういうの、欲しかったんだ。ねえ、これ、ちょうだい?」
 警備員は、がくがくと頷き、
「あ、ああ、やるよ。そんな物はお前にやる。ただし、俺たちは撃つな。そのまま、どこかへ行ってしまってくれ」
 と答える。
「本当?ありがとう」
 彼は、ハンドレーザー砲を大事そうに持ち、立ち上がる。その拍子に、右脚の膝から下が、外れ、がしゃんと音をたてて床に転がる。
「あぁあ、やだなぁ。もともとの僕の脚じゃないから、やっぱり取り付けが悪いや」
 そう言い、彼は、こともなげにその膝下を拾い、再び自分の膝に合わせて、ぐいぐいとそれを取り付ける。
 やっぱり、あのコンテナの中にあった部品を使って組み立てられたヒューマノイドだ。
 リオンは、そう確信し、ミューズの無事を祈りながら、貨物室へと急いだ。
 突き当たりにある扉の向こうは小部屋になっていて、そこの左側にある扉から出て……。
 頭の中で、もう1度道順を思い返す。ああそうだ、その小部屋から出た所にも、警備員が居るんだった。
 リオンが小部屋に入ると、そこでは、警備員3人と、ヒューマノイドが対峙していた。
 そのヒューマノイドは、左腕と首が無かった。それでもしっかりとした足取りで歩き、警備員達を脅かしている。
 首が無い、ということは、もちろん口も無い訳で、そうなると、このヒューマノイドの希望が何であるのか、さっぱりわからない。
 先程のヒューマノイドのように、欲しいものがあるのか、それとも、その前のヒューマノイドのように、殺戮を楽しみたいのか。
 ミューズであれば、この様な状態のヒューマノイドであっても、意思の疎通が可能であっただろうに。
 ヒューマノイドは、何かを伝えたそうに手足を動かす。そして、自分の意見が相手に通らないとわかると、苛ついて八つ当たりをするように、ぶん、と腕を振る。すると、その手首から先が外れて飛び、警備員の1人の頬に当たる。
「ぐぁ!」
 警備員は、頬を押さえてうずくまる。その頬は、ありえない形状に凹み、ほお骨が折れた事が一目瞭然であった。
「こいつ!」
 他の2人が、ヒューマノイドに向けて、ハンドレーザー砲を撃つ。
 ヒューマノイドの体に黒く焦げた点ができる。が、その動きを止めるまではいかなかった様だ。
「そこからできるだけ離れなさい」
 リオンの声が部屋に響く。そして、ひゅん、と空気を切り、何かが床上を滑るように移動する。「ネズミ」だ。
 「ネズミ」はヒューマノイドの足元で爆発し、ヒューマノイドはその場に崩れるように倒れた。手首から露出したコードが、バチバチと火花を発している。おそらく、もう動かないであろう。
「お前は……」
 警備員がこちらを見るが、
「少しでも恩を感じるなら、私を先に進ませる事ね。私なら、この状況を何とかできるかもしれないし」
と言い置いて、リオンは、先へ進む扉を抜ける。
 この辺りに来ると、もう廊下はあちこち穴だらけであった。
「どこに繋がっているのかしらね」
 その内の一つを覗き込み、リオンは呟いた。もちろん、穴の中に入っていって、どこに繋がっているかを確かめる気はない。
「そのうち、外壁まで壊しちゃって、宇宙空間に流出するかもね」
 などと悠長な事を言ってはいるが、心中は穏やかではない。
 リオンは、貨物室の空きっぱなしの扉を見つけると、走り出した。
 中に入ると、そこには、数体のヒューマノイドが、それぞれ、座り込んだり、歩き回ったりしている。
「ミューズ、ここに居るの?」
 リオンは、周囲を見回す。しかし、ミューズの姿は見えなく、返事もない。
「ミューズって、あの子のことかなぁ?」
 ふいに、コンテナの上から、声が聞こえる。リオンが顔を上げると、そこには、ミューズが来ていた作業着を着た女性のヒューマノイドがちょこんとコンテナに腰掛けて、脚をぷらぷらさせていた。
「この服くれた子、ミューズって言う?」
 彼女は、作業着を摘んで引っ張り、リオンに訊ねる。
「ええ、そうよ。どこに行ったか、あなた、知っているのね」
「うん」
 彼女は天井を見上げ、指をさす。
「操縦室」
 リオンも一緒に見上げると、そこには穴が空いていた。そしてそこは、操縦室の様だ。
「行きたい?」
 問いかけられ、リオンは一瞬躊躇してから、
「そうね」
 と頷いた。すると突然、リオンの両足が宙に浮く。
 後ろから、体の大きなヒューマノイドが、リオンを抱き上げたのだ。
 リオンは驚いて、顔だけ振り返る。無表情のヒューマノイドが、じっとリオンの目を見ていた。
「私は誰かに必要とされて生きていたい。あなたは今、私を必要としてくれますか」
 そのヒューマノイドは、平坦な口調でそう告げた。
「もちろんだわ。ありがとう」
 リオンはそう言って微笑んだ。そしてリオンの体はコンテナの上に上げられ、そこから天井の穴に手をかける事ができた。
「ところで、どうしてこういう状況になっているのか、誰かわかる?」
 リオンは訊いてみた。すると、ミューズの作業着を着たヒューマノイドが、
「気が付いたら、体があって、プログラムが無くなっていたの。『自由』って言われたけど、あたしよくわかんなくて。とりあえず、この服着てみたいな〜、って言ってみたの」
「そう。わかったわ。ありがとう」
 リオンはそう言って、天井の穴に手をかけ、彼女の
「頑張ってね〜」
の声を背に、操縦室へ登った。

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