作品名:探求同盟−死体探し編−
作者:光夜
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 彼女を部屋に入れ、椅子に座らせた。さて、一体彼女は何の用でここに訪れたのだろうか。昼休みの終了までもう時間はない、軽い用事であるなら放課後にでもまた来てもらおう、と思った。
 「・・・・・」
 「・・・・・」
 「・・・・・」
 彼女は黙ったまま、僕は彼女が喋るのを待ったまま、光夜はいつものように我関せず。いい加減そろそろ何用なのかを言ってもらわないと午後の授業に間に合わな―――――
 「あの、今朝のニュースとか、見ましたか?」
 「え?ニュース?うん、毎日見てるけど、それが?」
 「その中で、昨日起こった墓荒らしの事件の報道は見かけましたか?」
 がたり、と光夜が椅子に掛けていた足を滑らせた。いや、まさかとは思っていたけれど、虫の知らせって迷惑だね本当。いや、長い人生でそういうことはよくあることなんて、思いたくはないけれど、こうまでピンポイントなのはどうかと思う。別に、ニュースの被害にあった人間が知り合いにいるというのは構わない。確立の問題だしね。でも、その事件の仲間入りをするのだけは勘弁なんだけどなぁ。
 「・・・・授業の時間だ、俺は出る」
 「あっ!?逃げるな光夜ぁ〜、都合が悪いときだけずるいよー」
 がしっ、と立ち去ろうとする光夜の袖を掴んで捕まえる。一歩遅かったと光夜は舌打ちをした。悪態ついても駄目、絶対にややこしい事になるんだから光夜もいないと何も出来ないよ。
 「あ、あの・・・・」
 「あ、うん、ごめんね。彼面倒くさがりだから、すぐに放棄しようとするんだ。でも大丈夫だから、話は聞くよ。だから、光夜も座ってっ」
 一際強く袖を握ると、光夜は息を吐いてもとの席に座りなおした。会話に参加しろとは言わない、でも一応は同好会員なんだからいないと良くない。
 「それで、あのニュースの話だね。お墓がさらわれて、遺骨が持っていかれたとか」
 「・・・・はい、あれは二ヶ月前に亡くなった父の遺骨なんです。まだお墓参りもまともにしていないのに、・・・・酷い」
 泣きそうな顔で彼女は事の顛末を簡単に教えてくれた。なるほど、彼女のお父さんのお墓だったのか、確かに一番近い身内の墓が荒らされたとあっては落ち着いてなどいられまい。だが、だからなんだというのだろう。事の顛末はわかった、彼女の心境も理解した。でも・・・・
 「具体的に、君は何が言いたいのかな?」
 「お門違いなのか知れないけど、お願い、『お父さんを探して』っ」
 彼女は悲痛な面持ちでそう持ちかけてきた。
お父さんを探して、そう言われた。

お父さんは現在遺骨

何者かに持ち去られている

校内にその犯人は絶対いない

故に・・・・

 「無理だ」
 黙っていた光夜が否定的に声を上げた。僕は予想通りの声に反応は薄かったと思うけれど、逆に彼女のはそれこそ最後通告をされたような顔をしていた。おもわず声が漏れた。
 「そ、そんな・・・・」
 「俺たちは慈善事業でやっているわけでもない、かといってこういった頼み事を聞く組織でもない、ましてや校外の出来事に至って関係する理由がないんだよ」
 「お門違いも甚だしい、光夜はそう言いたいの?」
 「そうだ」
 それだけ言ってまた光夜は黙り込む。光夜の言い分はもっともだ、確かに僕らは好きでこんな頼み事を解決するわけではない。成り行き、というのが毎回の決まりのようになっていた。だから、成り行きでそうなったのなら仕方がないと、何度か請け負ってはきたけれど、さすがに校外の事件に首を突っ込むわけにも行かない。
 そういうのは、警察や、個人が頼んだ探偵に任せるものだろう。
 「咲さんの家は、警察や探偵なんかは頼んでいないの?」
 「警察には届けています、でも窃盗罪の犯人にはあまり警察も動いてくれそうになく、音沙汰もないんです・・・・」
 なるほど、墓荒らしは大事に見えるけど結局は『墳墓発掘罪』と『死体等損壊罪、死体等遺棄罪、死体等領得罪』のいずれかに適用される。長くても五年の懲役、あまり重要性のある犯人とは思えない、か。だとしても事件には変わりない、その違いを知りながらも重要性の高い事件が重点的に捜査される、この国の悪いシステムだね。
 「探偵は、まあさすがに雇えるものでもないかな。でも、どうして僕らなんだい?そりゃあ校内の面倒ごとを何度か片付けた記憶はあるけど、だとしてもどうして僕らに?」
 「あれ?どんな事件も快く引き受けてくれるのが『探求同盟』だって言っていたのに?」
 ぴくり、とその言葉に光夜が反応した。はてこの展開、どこかで見たことがあるような気がする。いや、毎回同じだったか、ここに来る人間は必ず口にしていたはずだ。
 「えっと、それって誰が言ったの?」
 「あなたのクラスの大塚君だけど、それが何か?」
 ばきっ、と何かが折れる音が室内に響いた。直後に光夜は立ち上がり無言で出口を目指していく。
 「俺は戻る。決定権は明にあるんだ、受けるも辞めるも明が決めてくれ。俺は、面倒ごとの原因を殺す・・・・」
 扉を閉めて光夜は出ていってしまった。うーん、大塚君も学習能力がないなぁ、この間もおかしな事件を紹介してくれたおかげで光夜にボコボコにされたのに。
 「何で彼、あんなに怒っているの?」
 「ん?あー、あれ?いや、あれは怒っているんじゃないよ。なんていうか一つの受諾表現かな。根はいい人だから、光夜は」
 なんだかんだ、文句を言いながらも光夜は手伝ってくれるものね。面倒になると本当に何もしてくれなくなるけど。
 「よく、知っているんですね」
 「まあ、二年も同じことしてるしね。それで、君の依頼だけど、正直言ってすぐには決められないよ。こっちも仕事があるしね。放課後までに決めておくから、また後で来てくれるかな」
 「・・・・はい」
 時間ももうない、彼女にはまた後で来てもらうことにした。こうも急に話されても、僕もあまり即答は出来ない。時間が欲しかった。
 「それじゃあ、後でまた」
 「うん、待ってるから」
 彼女を見送って僕は扉を閉めた。残された僕は少し考えてみる、果たしてこの事件に首を突っ込んでもいいものだろうか、と。だとしても、彼女は困っている、困った人間に協力すること悪いことではない。僕も面倒くさいとは思っていないし、でも何かが引っかかる気がして踏ん切りがつかない。放課後まで数時間、その間までに決めるしかない。
 「僕も、戻ろうかな」
 昼休みが終わる少し前、僕は部室から出て行った。

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