作品名:自称勇者パンタロン、ずっこけ道中!
作者:ヒロ
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 俺達の目的はこの遺跡に封印されている『降魔の杖』を手に入れることだ。いつまで経っても目的を果たせない紫竜騎士団に業を煮やしたアルガニスタンの王は、黒竜騎士団に紫竜騎士団と協力するよう要請した。他国を侵略中で身動きの取れない黒竜騎士団長ネメシスは、信任の厚いニコル達にこの任務を任せた。だが、現場に着いたニコル達は紫竜騎士団など当てにせず、他の同行を拒否し自分達だけの少数精鋭で遺跡に挑むことにした、って言うのがニコル達の言い分らしい。まぁ、こんな奴らとは一緒には居たくないけど、その中で俺様を選んだってのは中々見る目があるよな。

「それにしても、役立たずをパーティに入れたおかげで大分遅れちゃったよ。本当、失敗したなぁ。パンタロンもそう思うでしょ?」

 長い通路を歩いている途中でニコルが俺に言ってきた。はて、役立たずとは誰のことだろう?俺は適当に相槌をうつ。

「我が主ネメシス様も首を長くしてお待ちだ。急がねば」

「さっさと任務を遂行して僕はメビウス様に褒めてもらうんだ」

 ニコルが楽しそうに微笑む。

 ネメシス様にメビウス様か……懐かしいぜ。

 俺は過去に一度だけ見たことある二人を思い出していた。

 黒竜騎士団の団長ネメシス、そして副団長のメビウス。この二人は若くして黒竜騎士団のトップに上り詰めた双子の兄妹だ。ネメシス様は一人で千人の兵にも匹敵するという、まさに一騎当千の実力者で、またメビウス様はその美貌からは創造もつかない暗黒呪文の使い手である。この二人が率いる黒竜騎士団は他国との戦争で一度も負けたことが無い常勝無敗の軍団で、人々は畏怖の念を込めて『戦場の黒い悪魔』と呼んでいた。

 その栄えある黒竜騎士団に配属された俺は、当時は大はしゃぎだった。だが、それはすぐに後悔と変わった。何故ならこの軍団には本当の悪魔共がいたからだ。

 俺はニコルの後ろ姿をジッと睨みつける。その悪魔が目の前にいる。

「ふん、メビウス様がお前なんかに目をかけているハズがねーじゃねーか、この勘違い野郎!」

 俺はニコルから十分離れて力強く呟いた。

「何か言った?パンタロン」

 ニコルがこちらを振り向く。

「い、いや、別に……」

 悪魔の耳は地獄耳かよ……。

「お前の事を勘違い野郎だと言っていた……」

 後ろからボソリと呟く声が聞こえた。

 俺は慌てて振り向く。そこには今まで喋らなかったので気がつかなかったが、ゼルドがいたのだ。こ、この野郎、普段は喋らねぇ癖に余計な事を……。

「ふーん、中々面白いことを言うねパンタロン。本当君は人を笑わせる天才だよ」

 全然面白くなさそうな顔でニコルが俺をジッと見つめる。

「い、いや、か、か、かん……『甲高い声やろ?』って言ったんですよ、俺ってホラ、声が高いから!ラララ〜〜♪」

 俺の喉がつぶれたようなソプラノ調の声が響き渡る。

「お前にメビウス様が振り向く訳が無いとも言っていた……」

 ゼルドがとどめの一言を言う。こ、こ、この野郎!お前が強くなかったらボコボコにしているぞ!俺は涙目で拳を握りながらゼルドを睨み付けた。

「ハハハ、本当面白いよ。面白すぎて腹がよじれそうだなぁ」

 そう言うとニコルは俺に向かって両手を向けた。そして雑巾を絞るような動作をする。

「『捻れる布の惨劇』」

 ニコルがそう言うと、俺の体がフワリと空中に浮いた。そしてギリギリとまるで何か巨大な手で体を絞られているような感覚を受け始めたのだ。その力はどんどん強くなり、俺の体はどんどんよじれていく。

「ほげええええええ!」

「パンタロンの腹もよじれば、もっと面白いと思うよ」

 光の無い目を俺に向けながらニコルはニィっと微笑む。今度こそ俺、死んだかも……。

「お前達、遊ぶのは終わりだ。静かにしろ」

 メイスンがそう言うと、ニコルは俺に向けていた手を降ろした。俺の体は自由になりその場に落ちる。し、死ぬかと思った……。

「邪魔しないでよメイスン。今からが面白いところだったのに」

 ちぇっと口を尖がらせニコルがつまらなさそうな顔をした。

「何が面白いだ!こっちは死ぬところだったんだぞ、この外道が!」

 俺は力強く目で訴えた。またゼルドに告げ口されたらたまらんからな。

「どうやら目的の場所についたようだ。先客がいるようだがな」

 メイスンの目の前には今までの部屋の扉とは明らかに違う大きな扉があった。その扉には五芒星の紋章がはめられており、かすかに開いている。

 俺達は扉の隙間から部屋を覗き込む。部屋は物凄い水蒸気に囲まれ良く見えない。白い空気が勢い良く部屋から通路に流れていく。

「トライ!これがワイの本当の姿やで!どや、驚いたか!」

 部屋から若い男の声が聞こえてきた。水蒸気が部屋から外に流れていき、徐々にその声の正体を明らかにしていく。部屋には一人の男と一人の女、そして黒ネコがいた。

「あ、あいつは……」

 ニコルが驚いたような声をあげる。

「知っているのか?」

 メイスンが聞くとニコルはコクンと頷いた。

「魔法使いの間で知らない奴はいないよ。千の呪文を持つ男『サウザンド魔道士バッツ』。シャンシャーニの塔に挑んで行方不明と聞いていたけど、生きていたなんて……」
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