作品名:奇妙戦歴〜文化祭〜最終版
作者:光夜
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「……………………………………おかしいな」
黎との戦闘を終えた孝太はすぐさま六体目を見つけた。だが孝太は細心の注意を払い斑匡の故、一刀両断した。だが敵を倒した孝太はかなり腑に落ちない状況に在っている。六体目は黎とは比べることすらおこがましいほど汚い動きだった。言葉を解さない上に単に凶暴なだけで裏刃迅を使ったことがかなりの自己嫌悪にまでなりそうだった。
「絶対変だ、何だっていきなりこんな弱いやつが出て来るんだよ。ああ、あまりに不快だ。くそっ!」
がん、と道端に落ちている石を蹴飛ばした。なのだが、その蹴った石が以外と柔らかかった、しかも「ぎゃっ」なんて叫んだ気もした。
「はい?」
前方に目をやって蹴った石かもしれないものを見る、とぴくりと動いて起き上がった。
「いたたたたた、酷いじゃないかあんた、頭の中身が出るところだったぞ」
と、かなり小さなそいつはなぜか甚く怒っていた。おかしいことはこれで二つ目、なぜ部屋において来たこいつが居るのだろう。
「き、記月記?何で、お前がここに………」
突然の出現者に孝太は驚いた、そりゃそうだ、この場に絶対ありえないことが起こったのだから。トランプで言ったらゲームの最中に引いたカードが説明書きのカードだったぐらいありえないことだ。
「何でって、起きたら誰も居ないからこの小さな身体でがんばって追いつただけだ。もう少し起きるのが遅かったら今頃あんたらの町でさ迷っていたんだろうな」
なんて当たり前に言った。
「それよりもさ、いま有り得ないなんて顔したよな。確かになんだって俺みたいな人形がこんなところに居るのかなんて誰もが想像できることじゃあないよな。でもな、有り得ないことは有り得ないんだ。だから俺が姐さんを心配してここに来たのも必然なんだよ…………って、何か身体が浮いているような」
下を見ればなぜかものすごい勢いで地面が流れる。
「って、おい!何で俺を抱えてんだよ。女に抱かれるならまだしも野郎の腕なんて誰が……」
そう言ってもがくが孝太の力は緩まない。
「静かにしていろ、今考えてんだ。それにな葵に会いたいんだろ。だったら大人しくしていろ、みんなが居るところに連れて行ってやるからさ」
次のコアの場所を探しながら孝太はそう言った。記月記はそんな孝太を見上げるとほうっと息を出した。
「お前、いい奴だな」
なぜか、そんな言葉が漏れた。
「ん、この角か。よし!」
勢い勇んで孝太は路地裏へと入った。
「キ、キキ、キキキキキキキキ―――――――――」
なんと、それは孝太を視界に捉えるやすぐに飛び掛ってきた。蟲のような声はもはや知性などないただの生き物で飛びついて食いちぎるぐらいにしか行動を起こしていないと言うほど粗末な動きだ。
そんな、獣じみた動きで捕らえられるほど孝太は弱く無い。驚きはあったがそれも一瞬の出来事ですぐに身をかわして避けた。やはり獣か、音も無く四つん這いで着地したそれは往復で孝太に飛び掛った。一歩下がろうとも考えたが入り込んだ路地は袋小路。孝太の背には家を守る塀があたっている。
「キキ、ッキキキキッキキキ―――――――」
今度こそもらったと言う笑みは勝利の証か、そんな小さな勝利は孝太の嘲笑いで消し飛んだ。
「………?―――――――――」
孝太は余裕のある再度へ移動した。慣性の法則は人外でもその断りを受け入れ素っ頓狂な顔をしたそいつは見事に顔から塀にぶつかった。
衝突と同時になにやらうめく声が聞こえたが孝太の耳には届かなかった。倒れたそれをみて溜息をつく。
「……………なんかだかな。だんだん弱く、と言うよりも頭が少なくなってきているような、まさかな」
よろよろと立ち上がる様を見ながら塀の上に記月記を置いた。
「少し待っていろ、苛立っているから話し掛けるなよ………」
背中腰の柄に手を添えてなにやら怒っているそいつを睨む。
「苛立ってんのか?何だってまた」
記月記は黙って居ろと言う言葉にも応じず訊き返した。む、と孝太は唸った。やはり何かが孝太を苛立たせていることぐらいは解った、これ以上話すと孝太の怒りがこちらに向きそうだったので黙ることにする。
「キキキキキキキキキキ―――――――――――――!!!!」
やられた事を怒っているのか、それとも避けて莫迦にされたことを怒っているのか、ともかくかなりのご立腹で地団駄を踏むと威嚇のように牙を見せて叫んだ。
「屑が、消えろ」
孝太は斑匡を構える。攻撃されるとわかりいきなり狭い路地の端から飛び込んでくるコア、鋭い牙を向けて孝太に口の中を見せる。消えろと言ったがそう片手ではそう簡単に斬れる速度ではなかった。つまりは知性がからっきしの曲に生存本能は何よりも重視しているだけ、野生の獣がいたらこの様なものなのだろうか。
金属音が響いた。と同時に孝太は牙をはじく、いきなりの突進は孝太に斬る機会を与えず一歩後退させた。牙は勢いが無いと使えないのか、その場に留まったコアは次に腕を振りかざしてきた。ごす、と重たい音がして孝太は来た道へ飛ばされた。「―――――っ、この馬鹿力が!考えも無く討ってきやがって、ちょっとは考えて動けよなっ」
なぜか孝太は相手の攻撃方法が雑だと指摘をした。なぜに指導戦闘のような会話が飛び出すのだろう。普段物事を深く考える孝太は苛立ちの仕方が常人とは違うのだろうか。
いや、それよりもそんな孝太の指摘など一切気にせずコアは近づいてまた拳を振ってきた。いくら相手に武器が無いとは言え気を許すことは命取りになる。なにせその拳はどう見ても岩のような歪さで殴られたら顔の形が変わるかもしれないほど堅そうに見えるからだ。
「キキッ―――――――」
もらったとばかりに拳を孝太の右米神向けて振る。拳に当たった後は飛ばされて壁に顔をぶつけるだろう。
「冗談っ――――――――」
座っていた体制だった孝太は体中の力を抜き自然と仰向けに倒れた。その上を岩が左へと通過していった。岩は勢いのまま弧を描きコンクリートの壁へと吸い込まれていった。がらがら、と壁が崩れる。
「―――――じゃねえっ!」
孝太は仰向けの姿勢をすばやく起こし振られた腕を一刀した。
「―――――――――――!?!?」
考えの無い行動は自らの右腕を代償に脳に刻まれるのだろうか。いや、そんな知識が無いのだからこのような状況が起こるのだからこのコアに学習と言う言葉はもはや世の理を蔑にしていると言うのもだろう。それよりも孝太は気になることがあった。
今の音はまずい。近隣は住宅地なのだ、この騒ぎを聞きつけて住人がやってくるかもしれない。そうなったら人目をはばかって戦っている意味がなくなってしまう。いや、警察やら野次馬やらが出てくるのなら仕方が無いがあの人だけは絶対にこの騒ぎを聞きつけてほしくは無い。一瞬、孝太の脳裏にリポーターマイクが浮かび上がる。ともかく、この場は片腕を失った生き物を消滅させるのが最優先事項だ。
「……つっても、こんな狭いところじゃあ表だろうと裏だろうと刃迅は使えない。かといって」
このまま延長戦に入ったら人が来るやも知れない。事実、この誰も居ない空間に人が近づく気配を孝太は感じている。距離的にはかなり遠くだろうがすぐにでもやって来てしまいそうなほど孝太の感覚は敏感になっていた。
「いた仕方ない、か。こうなりゃ斬って斬って、斬りまくる!」
未だ右腕を見ているコアに向かい二歩踏み出す。
「キキキ?―――――――――」
その速度、振り向いたときには既に懐の中にいる孝太、苛立ちは拳を避けるときの必死さで掻き消えている、標的を捕らえたのならばすることは一つ。斬る前に当てる。
がつん、と刀の反対でコアがガードに使った最後の一本をたたく。斬れるわけが無い、これはただの挑発だ。いくら考えなしでも冷静な頭で戦われるのは不利だ。ならば、挑発をかけてこちらを優位に持ってくるだけの話。本能の己向くままのコアになら孝太の安い挑発にも簡単に乗ってくれるのは明白。
「――――――――――キッ」
にやり、と口元を歪めるコア、予想通り簡単に挑発に乗ってくれたようだ。
「キ、キキ、キキキキキッ―――――――」
斑匡を弾かれ孝太は後ろへ引いた。その行動に隙を見たのか、腕を大ぶりに振ってきた。
拳と刀の争いは何十と言う音が演奏を奏でる様、だがそれを先導しているのはあくまで孝太。あの獣が先導を切ったのであればこの演奏はただの雑音と化しているだろう。剣戟に聞こえるのは孝太が岩を叩いているからに他ならない。
さらに剣戟を重ねること数十合。いい加減孝太も同じ立ち位置での鬩ぎあいに飽きてきたころそれはやってきた。先ほどから体力の続く限り大振りに振っていた腕が時間とともに体力が落ちてきたのか最初と違い上下運動が真っ直ぐになった。
本能の塊に規則性は無く腕を振るときだって軌道は歪んでいた、これも本能だろう。体力が衰えれば自然と使う体力の消費を抑える、結果無駄な動きの少ない上下真っ直ぐな動きになるのだ。それでも攻撃の型を変えないのは単に頭が少ないからだ。
「――――――――、は」
孝太は既に拳に力が無いことを知っている、ならば誰かが来る前にさっさと終わらせようとタイミングを計る。
「キキキ―――――――キキキキキ」
コアはまた、上から斑匡目掛けて拳を落としに来た。この絶好の機会を孝太は逃さない。
「もらった―――――――」
かちり、と持っていた刀を百八十度手の中でまわし刃が空を向くように構える。夜の風と共に一段と刀の光沢は増したかのように見えた次の瞬間―――――
「邪道剣戟―――――滝登り」
シュンッ、とコアの腕を感覚も無く通過した。動きは一瞬、孝太はコアの後ろに現れ斑雅の刃先は後頭部と逆を向いている。だが気持ち的にその刃はどこか重かった。
「キ―――――――――――?」
一瞬何が起こったのかもわからずコアは振り向こうと首を動かす、が。
どさり、どさり、サア――――――
左腕の間接、果ては首の二つが零れ落ちた。そのまま何事も無かったように砂へと還る獣の死体は哀れみさえも貰えない、酷く苦しい消え方だった。残り四つ。
「……たく、頭も無いくせにでしゃばりやがって」
苛立ちからか居ないコアへ罵声を放つ、そのまま斑匡を収め塀へ近づいた。
「ほら、今おろしてやるよ」
孝太は記月記へ手を伸ばす、が。
「止めてくれ、これぐらい降りれる。殺気だらけの人間なんかに触れてほしくない」
呆れたように言って、とん、と地面に降りる。
「殺気……なんだって俺がお前に殺気を振りまかなきゃならないんだよっ」
強めた声は自分の状況が理解できない子供のように聞こえた。
「知るかよ、お前が苛々しているいる理由なんて関係ないし。自分で見つけろよ」
突き放す声はこのまま戦ったら死ぬぜ、と投げかけているようにも取れる。孝太自身意味も無く苛立っていることぐらいは把握している。なのに、その苛立ちには理由があるかもしれないという考えからみいでない答えを求めてまた苛立ちが大きくなる悪循環を生み出している。
「くそっ!――――――――」
どん、と壁を殴る。解らない、何だって俺は苛立っているんだ、何だって敵を倒すたびに苛立ちが大きくなるんだ、何だって俺はこんな戦闘をしないといけないんだ、何だって――――――――
一番初めに在ったあいつが悪い。黎の口は達者で人間くさい生き方をしていた、生まれて一時間も生きていなかったのに孝太は黎を人間以上の礼節を弁えていると感じた。
それが逆に不快だった。彼は人間のような喋りで、人間のような考えで、人間のような礼儀を持っている。
なのに結局、黎はコアだった。戦闘でしか物事を判断できないタイラントの分身。そんな黎に少しでも関心や興味、果ては話し合いまでを持ち込もうとした自分が許せなかった。普段の自分ならそれぐらいのことで苛立ったりはしなかっただろう。 だが自分は約束をした、一番信頼の置ける男に敵を倒すと言う言葉を残したはずだ。だが戦闘で自分は言葉を解する敵と話し合いで解決しようとした。
孝太の感情は純粋だ、約束必ず守るし感じ方の上下も激しい。それ故に約束を果たすと言って話し合いで解決しようと微塵でも考えた自分が恨めしく苛立たしい感情を生み出していた。それが一つの理由。
だが、それを吐き捨てたところで孝太の苛立ちは解決できるものではなかった。もう一つの理由もまた黎の所為だった。最初に孝太が倒した黎は口が聞けるからだろうか、それとも言葉が達者で武士じみていたからだろうか、どちらにせよその行動と戦い方はやはり剣士を思わせていた。
戦い方も然り、孝太は自分のできた考えを最大に生かし不服ながらも黎を叩き伏せた。だがそれがいけなかった。その結果イリスは孝太を面白がりシンへ孝太の複製を向けた。地上のコアは孝太のデータ引き出しでしかあらず孝太にとって取るに足らない敵となっている。
苛立ちの大半はこれだった。最初の敵があまりにも腕が立つため孝太は次の敵もあれ以上なのかもしれないと期待してしまったのだ。強い敵が居れば居るほど孝太は不謹慎にも楽しみを覚える。だが、敵は倒しても弱く孝太の期待を裏切り失望させた、なぜ最初より強い者が居ない。
張り合いが無い。
詰まらない。
孝太は敵二体と交わる間知らずにそう考えていた。苛立ちは殺気にも似て自分自身を混乱へ落とす。それでも苛立ち程度で済むのは孝太自身最後の望みに賭けているのだろう。残りを倒せば屋上へ行って苦戦するかも知れないシンを助けてタイラントと交戦する。
いや、シンが苦戦することは孝太の中では有り得ない事だ。だが、誰かが言った。孝太は聞いていない。
有り得ない事は有り得ない。
その言葉が真実なら孝太は苛立ちをタイラントへぶつけてそのまま自滅となる。
答えは―――――――――刀の重み。
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