作品名:奇妙戦歴〜ブルース・コア〜
作者:光夜
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 キーンコーンカーンコーン

 「ああ、終わったーと言ってもまだ二時間目か、次は体育だな斑鳩は運動とか得意なのか?」
 だるそうに言う孝太がシンに声をかけた。
 「どうかな?そんなに得意じゃないと思う」
 「そうか、まあいいやさっさと着替えようぜ」
 女子が全員出て行ったところで男子は着替えを始めた。
 孝太はシンを見た、体中生傷だらけだった。
 (苦労してんだな・・・あいつ)
 シンが孝太に気づいた。
 「どうしたんだ孝太」
 「ん?ああ・・・なんでもない行こうぜ」
 「ああ」
 全員校庭に移動した。
 「ああー日差しが強い・・・・」
 日を見ないように孝太は手をかざして空を見た雲ひとつ無くいい天気だ。
 「日差しも暑いが足元も熱いな」
 「ああ、まあな」
 この学校の校庭は土ではなくアーバンコートでできている、そのため夏場は熱がこもりコートが砂浜のように熱くなる。素足で歩けば火傷をしそうだ。
 「今日は何をやるんだ?・・・・」
 授業内容を聞いて来たシン。
 「今日はな・・・短距離走だよ・・・五十メートルの記録取り」
 見ると孝太は個人で準備体操をしていた。
 「それよりも・・・お前も運動しとけよ・・・筋痛めるぞ」
 「解った」
 孝太に言われてシンも準備体操を始めた。
 「これくらいでいいかな?」
 集合場所を見ると体育教師が来ていた。

 ピ―――――――――

 教師が集合の笛を吹いた。ぞろぞろ生徒が集まる。
 「今日は短距離の記録を取る、二回の練習を設けるから全員番号順でコースの後ろへ行け」
 簡単な説明の後全員コースに移動し始めた。
 歩いている途中で女子達が目に入ってきた。ここの体育は男女別に授業を行うのだ。
 「女子はソフトボール投げだってよ、いいよな楽で」
 親切にクラスの男子が教えてくれた。
 「トロトロ走るなよお前ら、よし行け!」
 教師に言われて先頭から軽く走った。全員二回づつ走った後笛がなった。

 ピ―――――

 「これから記録を取る、一度しかできないから気を抜くなよスタートはクラウチングだ」
 先頭から二人がコースに並んだ二人いっぺんに計るらしい。
 「よーい、スタート!」
 勢い良く二人はクラウチングで走り出した。
 「よーし次」
 何人か終わった後このクラスで一番と思われる記録が出た。
 「すげーな!青山の奴七秒ジャストだってよ」
 それを聞いたシンが孝太に聞いた。
 「孝太、青山って?」
 「あいつだよ」
 と言って先の方を指差した。
 「青山 銀(あおやま ぎん)は陸上部のエースでよ、この間記録会で二位に入った実力者だあいつより足の速い奴はこの学校に居ないかもな・・・・お前を除いて」
 「え?」
 孝太に言われてシンは振り返った。
 「どう言うことだ」
 孝太はシンに言った。
 「だってお前が走った所を見たこと無いからな転校したばっかで、期待してるよ」
 そう言われてシンはコースに向き直った。
 (そういう事か)
 はっきり言ってシンはそんな事どうでも良かったただ記録を計るのだから普通にやればいいそう思っていた・・・だが
 「よし次、斑鳩と藤原」
 言われて二人はっコースに立ちクラウチングのポーズをとった。
 (アーバンコートはゴム製・・・・いきなり走れば転ぶな)
 走り方を考えながらスタートを待つシン。
 「よーい、スタート!」
 「行くぜ!」
 勢い付けて孝太は走ったがそれよりも早く横切る影が・・・シンだ、勢い付けて走った孝太をグングン追い抜いていった。
 「何だ早いじゃねえか」

 ヒュン

 風のようにゴールに入るシン、少し送れて孝太もゴール。
 「記録は?え!おい見てみろ」
 ストップウォッチを止めた生徒が記録係を呼んだ。
 「どうしたんだよ、どれどれ・・・マジか!」
 シンと孝太はそのやり取りを見ていた。
 「先生、先生!斑鳩の記録五秒です、五秒五〇です」
 「本当か!?」
 授業が中断して男子は記録に群がった。それを遠くから女子達が見ていた。
 「どうしたんだろ男子?」
 丁度記録取りが終わった葵が騒ぎに気づいた。
 「大変だよー葵!」
 唯が慌てて駆け寄ってきた。
 「どうしたの唯、そんなに慌てて」
 「どうしたもこうしたもないよ、斑鳩君が五十メートル五秒だって」
 それを聞いた葵は耳を疑った。
 「それ本当!」
 男子と同じく女子も騒ぎ出した。
 「斑鳩、早いじゃねえか足」
 「そうか?俺は普通に走っただけだが」
 「普通に走ってあれなら上出来だよ」
 記録の群がる男子とは逆に二人は離れて見ていた。それにしてもいい加減にはしゃぐのを止めたら・・・・ん?男子の群れの中でシンを見る目が一つ。
 「ん?」
 シンもそれに気づき向いた。
 (青山・・・)
 見ていたのは青山 銀だった。銀は視線に気づくと顔をそむけた。
 「なんだ・・・・」
 「どうした斑鳩?」
 孝太の声にシンは我に返った。
 「い、いや何でもない」
 皆で騒いでいると終業のチャイムが鳴り授業は延期された。

 昼休み――――
 教室中・・・いや学校中がさっきのシンの活躍で持ちきりだった。
 「斑鳩すごいじゃないか」
 「知ってるか、短距離で五秒出したってよ斑鳩」
 「誰だそれ?」
 「昨日来た転校生だよ」
 こんな感じだ。
 「はは、目に見えて大人気だな斑鳩」
 「やめてくれ、これでもこまっているんだ」
 ため息をついて眉をひそめた。
 「でも結構うるさいよ、あれ」
 教室の入り口では女子達が叫んでいた。
 「キャ―――斑鳩君」
 「こっち向いて――――」
 「かっこい――――」
 黄色い声援を聞いてシンはますますため息が大きくなった。
 そんな四人に近づいてくる影があった。
 「ん?なんだ青山じゃねえか、どうした?」
 近づいてきたのは青山 銀だった。
 「孝太にじゃなく僕は斑鳩君に用があるんだ」
 銀はシンを見た。
 「なんだ?」
 「斑鳩君はもう部活には」
 警戒していたシンだが質問の内容を聞いて警戒を解いた。
 「いや、入っていないが」
 それを聞いた銀は両手を合わせ頭を下げてシンに言った。
 「たのむ、陸上部に入ってくれ!」
 なぜ?と聞こうとしたシンを葵が耳打ちしてきた。銀はまだ頭を下げている。
 (何だ葵?)
 (銀君はね、陸上部なの)
 (知っている)
 さっき孝太から聞いた事を思い出して頷いた。
 (シン君の足が速いから誘ってるんだよ部活に)
 (しかし俺は・・・)
 部活に入る気は無いと言いたいらしい。
 (解ってるよ、だから断った方が良いよって言おうとしたの)
 (ああ、そういう事か)
 耳打ちが終わるとシンは銀に向き直った、銀もようやく顔を上げた。
 「どうだ、入ってくれないか?」
 「え、あ・・・いや、あーその」
 たじろいでいるシンに更に困らせる者が。
 「ずるいよ銀、自分だけ斑鳩君を独り占めにする気?」
 「進藤か」
 突然の乱入者にシンは更に慌てた。
 「彼女は?」
 とりあえず葵に聞いた。
 「進藤 薫(しんどう かおる)ちゃん、アメフト部のマネージャーだよ」
 「はぁ」
 シンはとりあえず状況を整理した。
 つまりは足の速いシンを部活に入れたいのだ・・・・簡単だなこの説明。
 「ちょっと待てよ進藤、僕が斑鳩君に声をかけたんだぞ早い者勝ちだ」
 「いいえ、彼はまだ陸上部に入ると言っていないわ」
 かなりの大声でシンの取り合いをしているので教室中が注目し始めた。
 「どうしたんだあの二人」
 「斑鳩を自分の部に入れたいんだってよ」
 当然この会話は入り口にいた生徒たちにも聞こえていた。
 「そうか、あの足があればサッカーで活躍できるかもしれな」
 「なるほど、野球をやらせれば甲子園に・・・」
 この日に限って部員連中が話を聞いていたため教室中がシンを部活に入れるため騒ぎ出した。
 「斑鳩、陸上部へ・・・」
 「いえ、我がアメフト部へ来てもらうわよ」
 「サッカーだ!」
 「野球だ!」
 「茶道部!」
 「漫験部に」
 「サーフィン同好会へ」
 ああもう教室中が生徒であふれ返りシン達四人は窮屈な場所に追い込まれていた。特にシンは持っている刀を必死に掴んでいた。
 「唯!こっちだ」
 孝太は唯の手を引いて人だかりから逃げ出した。
 「おい!二人とも」
 「頑張れ斑鳩」
 そう言って非難していった。
 「どうするシン君?」
 葵はシンと背中を向け合った状態で聞いた。
 「どうするもこうするも無いだろ・・・・・皆!俺は・・・」
 部活には入らないと言おうとしたが悲しいかな別の声がその場を制した。
 「ちょっと待て!皆僕に考えがある!」
 口を挟んだのは銀だったこのままではラチが開かないと考えた銀はとんでもない提案をした。
 「このままじゃ斑鳩君に迷惑がかかる、そこでこんなのはどうだ」
 「いいから早く言いなさいよ」
 じれったい銀を薫が急かした。
 「今日の放課後各部から一人ずつ代表を出して逃げ回る斑鳩君を先に捕まえた部に入ると言うのはどうかな」
 「つまり鬼ごっこね・・・私はいいわよそれで」
 「な!」
 「俺もいいぜ」
 「おい!ちょっと」
 「私も」
 「なに!」
 何か言おうとしているシンを尻目に勝手に勝負方法が決められた。
 「と言う事だ」
 銀がシンに言う。
 「さっそく皆に報告だ」
 皆それぞれのメンバーに報告に行った。
 「・・・・・行っちゃった」
 「大変な事になったね」
 「そうだな・・・・がんばれ・・・」
 孝太はそれしか言えなかった。
 「クソ」
 対するシンは身勝手な生徒達に怒りを発していた。
 「怒っちゃだめだよシン君、みんな引退した先輩達のために必死なんだよ」
 葵になだめられてシンは落ち着いた。
 「・・・・そうだな、それに逃げ切れば俺の勝ちだし」
 「そーそー、あでもピンチの時は助けるからね、二人とも」
 「そうだよ小さい頃からの知り会いだもの、ね孝太」
 乗り気の唯に対して孝太は。
 「え、俺も?」
 「当然」
 そんなやり取りを見てシンは笑った。
 (戦いとは違う喜び・・・・絶対に危険にさらしてはいけないな)
 そう固く心に誓った。


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