作品名:トリガー
作者:城ヶ崎 勇輝
← 前の回 次の回 → ■ 目次
この穴を滑り落ちて何分が経ったか…。2人が闇へと滑る坂の角度は徐々にゆるやかになってきた。しかし、滑り降りるスピードは増している。
トリガーはこれから起こるだろうことを予測した。
出口はもうそろそろだろう。そして、そこには城崎の親衛隊がいて、2人に向かって集中攻撃をするだろう。
「チー、銃は構えておけよ」
トリガーは後ろを向いてそう言った。チーは真っ暗でどこにいるかわからなかったが「準備OKやで」と言う声は聞こえた。
彼は前を向くと、何となく白い点が見えた。そして、それは1コマ1コマ進むにつれ大きくなってゆく。
ついに2人は、城崎のいる部屋へと突入する。
〜トリガー〜 城崎勇一
2人は城崎の部屋へ猛スピードで入ってきた。幸い床が滑りやすい金属だったため火傷をしたり骨折をしたりはしなかった。ただ、止まることなくスーッと滑ってゆく。
チーは辺りを見渡した。国会議事堂の地下深くにこんな空洞があるなんて…。それにしても、親衛隊らしき集団はいない。チラッとトリガーの頭の上辺りから玉座に座った城崎の頭が見えた。
滑りにすべり、そして徐々にスピードは落ち、城崎の前で2人は止まった。2人とも大体同じくらいの重さだからだ。
2人は瞬時に立ち上がり、銃を構えた。しかし、城崎の威厳は保たれたままだ。
「君は私を殺す気かな?いいだろう。殺すのなら殺せ、文句は言わぬ」
玉座に座り、微動だにせずに落ち着きを払いながら言った。
「私は銃どころかナイフすら持っていない。無防備の私を傷つけることは私の部下が許さんぞ。言っておくが…感づいていると思うが、この部屋には143人の武装隊員がいるからな」
微笑すらせずに淡々と言う彼の口調はまるでロボットのようだが、ロボットには無いオーラが漂っている。
「城崎、お前はなぜこんな事をしたんだ」
トリガーが城崎を睨んで言った。
「それを答えるにはまず君の名を聞かなくてはな。何事も自己紹介が必要だって小学校で習わなかったか?」
と、城崎が言うと何となく口元が動いている気がした――おちょくっているのか?
しかし、シューティング隊員である神谷は真の名を言ってはいけない。今までずっと、そしてこれからも。
「…俺はトリガーだ。これが今の俺の名だ」
「アタシはチーや」
チーがそう言うと城崎は彼女を見下した。そして、怒りに満ちた目で睨んだ。
「キサマには言ってはいない。我が部下よ、殺れ」
城崎が強く、しかしクールにそう言った瞬間、チーの左右から銃弾が発射されそれらは彼女の左手首と右横っ腹に命中した。そして、銃弾はチーの皮膚をつらぬき、肉に食い込み骨に接触した瞬間、驚くことに爆発した。
チーの左手首及びその周辺は衝撃で粉々に吹っ飛んだ。横っ腹に突き刺さった弾丸は内部で四散し、激痛が走る。明らかに普通の弾丸ではない事がわかる。
トリガーの背に生暖かい物が付着した。トリガーはあえてそれを見ずに怒りと憎しみを込めて城崎を見た。
チーは悲鳴すら出さずにバタリと音を立てて倒れた。トリガーは我慢できなくなってチーの元に駆け寄った。
「チー、チー!返事をしてくれ!」
トリガーはぐったりしたチーの傷口を見た。…普通の人にはわからないが、詳しい人には傷口を見るだけでどんな弾で撃たれたのかがわかる。そして、チーに発射された銃弾は人体に残酷な被害を与え、急所でなくとも被弾すると激痛が走り、まともに動けなくなる、長く苦痛を与える殺傷力の高いダムダム弾であった。
「な…ダムダム弾は戦争で使ってはいけないはずだ!なのに…なんで…チー…」
トリガーの目下に熱いものが溜まる。そして、チーの服にそれが染み込む。するとなんとチーは残った右手でトリガーの手を握った。
(アタシの分まで頑張り)そう言っているようだった。
「トリガーよ。これは戦争ではない。反乱の鎮圧だ。そして私は君とだけ話がしたい。邪魔者は排除する、それがクラックエイジの思想だ」
トリガーはゆっくり立ち上がった。拳が怒りで震えている。
「貴様の…貴様らの汚ねえ血…全部抜いてやるよ!クラックエイジも城崎も、そして日本の汚ねえ血をな」
「血か…我々クラックエイジに汚ない血などない。そもそも、我々は今の君たちのように汚い日本をきれいにしたのだ」
威厳のある城崎の声が金属の部屋に響く。
「日本がどんな汚い事をした?クラックエイジが暴れなどしなかったら日本は平和だったはずだ」
ジワジワと靴が濡れてきた。これは…血だろうな。
「日本は外国の手によって滅びる運命だった。だが、我々クラックエイジはその恐怖から救った。そして、連合軍の脅威からクラックエイジの軍隊は追い払った。日本は世界から独立したのだ」
「その独立は何を意味するのか、城崎、お前はわかっているのか?日本を滅ぼそうとする敵が増えるんだぞ」
「そんなもの力でねじ伏せればいいのさ。力のない日本が何も起こせずに滅びるよりましさ。うまくいけばアメリカの後を継げる」
城崎は異常なほどの強さで叫んだ。
「そんなことは憲法が許さないはずだ!」
トリガーも負けじと叫んだ。
「ハッハッハ、残念だったな、トリガー。ここはどこだか知っているのか?国会だ。私が首相だ。クラックエイジが議員だ。憲法などすぐに変えられる。…そう、前の日本は憲法改正を渋っていた。米国が作った憲法ではなく、我が国が憲法を作らなければ日本の憲法とはいえない。そうだろ?」
「城崎、それは間違っている!なぜアメリカが作成した憲法だからダメなんだ?問題は中身じゃないのか?あんないい憲法、国民が支持している憲法を改正しないといけないんだ!?城崎、そんな言い訳は通用しない。ただお前は軍隊を自由に動かせるようにしたいだけなんだろ?」
トリガーが言うと城崎の口が微かに引きつった。怒りが丸出しだ。
「将来日本のリーダーとなる人がこんなに感情的では日本はどっち道滅びるだろうな」
トリガーは続けざまに皮肉った。
「うるさい…うるさい!!そんな奴は、死ねばいいのさ!」
城崎が叫んだ瞬間、トリガーはバック転をした。トリガーが『いた』場所で銃弾―きっとダムダム弾―が宙を飛び交った。
トリガーが着地した瞬間、クラックエイジの集団が姿を現し、銃撃戦が開始された。
彼は不規則な動き―前後左右の動きはもちろん、ジャンプやローリングなど―をしながら引き金を引く。
もう後には引けない。そして、目の前には勝利の光が見えている。が、その周りには敗北の闇で覆われている。今のトリガーの状況は比較的敗北の確率が高いのだ。
それでもトリガーは必死に、必死に銃を構え、応戦している。
しかし、それでも右太股にダムダム弾が命中した。爆発はしなかったものの、銃弾の破片が太股内部に散らばり、立っていられないほど、更に言うと拳銃すら持てないほどの激痛が足から頭の毛先まで伝わった。
じりじりとクラックエイジ武装隊員が近づいてきた。
もう…おしまいだ。
トリガーはそう思った。
← 前の回 次の回 → ■ 目次
Novel Collectionsトップページ