作品名:雪尋の短編小説
作者:雪尋
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「世界がある奇跡にも終わりがくる、そんな微妙な物語」
地球に巨大な隕石が墜ちてくる。
そのことを世界で最初に知った僕は、とりあえず全速力で銀行を目指した。
天文学が好きで、好きすぎて、やがてそういう関連の仕事についた僕。
宇宙の果てには“無”じゃなくて、神様がいるんだと信じてきた僕の人生。
そして神様がやってくる。
善人も悪人も等しく『運命』というレールに乗せる、直径百kmの神様だ。その神様の到来を誰よりも早く知った僕は、躊躇いなく今までの人生を斬り捨てた。
僕は全財産を握りしめて、短い余生をどう過ごそうか悩んだ。
「とりあえず……飲みにでも行こうかな」
親しい友人がいない僕は、一人寂しく夜の街にくりだした。
適当に入った店でシャンパンを2本空けると百万円の請求書を叩きつけられたので、現金を叩きつけ返してやった。
「ありがとうございます! また来てくださいね!」
「二度と来ないよ」
僕はそう笑う。
そして酔った勢いで風俗に行き、帰る途中のコンビニでプリンを買い占めた。
そんな生活を三日続けると、飽きが来た。余生の長さを把握しているせいか、無気力になってしまったのだ。物欲も一切消えたし、ここ数日で食欲も性欲も枯渇するくらい使い果たした。だから僕に残ってるのは睡眠欲だけだった。
しかし寝て終末を待つというのも残念な話しだ。
どうせ死ぬんだったら、特別な事がしたい。
「……そうだ。旅に出よう」
無になる前に、想い出を。
僕は売れる物を全て売り払い、世界一周旅行に出かけた。
アメリカでは自衛のために拳銃を買い、衝動的に乱射したくなった。
カナダのグランドキャニオンに出向き、搭乗していたヘリから飛び降りたくなった。
南アフリカでは強盗にケツを掘られたけど、病気なんて怖くなかった。
むしろ新しい境地を見た。
世界のありとあらゆる所を見て、色々な経験を積んだ。
この星は宇宙よりも美しかった。
「そろそろ政府が隕石について情報を公開するころかな……」
達観という大きな器を身につけた僕は、残り少ない財産で新聞を購入した。
そしてそこには、大きな見出しでこう書いてあったのだ。
「隕石の発見があと1日でも早ければ、地球は滅びずに済んだ」
「さぁ、旅を続けよう」
隕石が全てを打ち砕いてくれるその時まで。
……あれ? 僕の残り少ない財産が減ってるぞ?
(何か買ったっけ? ……まぁいいや)
そう笑って、僕は荒れ始めた街を陽気に歩き始めた。
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