作品名:奇妙戦歴〜文化祭〜最終版
作者:光夜
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あと、五つ。いや、まだ六つだ。そのうちの一つは今シンの目の前に居る。
「イリス、答えを出すのは構わないがそれでどうする。見たところそいつでは俺を倒せそうに無いが」
そう、イリスが答えとして出したコアは見た目も去ることながら強さというものを感じなかった。人の形をした粘土細工と言わんばかりの形だ。
「そうだ、怒りに任せて出したがそいつは出来損ないだ。斬るなら斬れ」
どう言う事だと首をかしげる。
「だがな、こいつは俺の作った特注品。たった一つだけ特技があってな。死んだ身内の能力を取り込むことができるんだよ、たとえばさっきお前の仲間が殺した四体目のヤツとか」
そう言って腕を伸ばし手のひらを空へと向けた。
「ふふ、ちょうど風もいい感じに集まってきたぜ」
そう言うと見る見るうちにイリスの手のひらには何かのチリが集まってきた、それは徐々に球体を模していきやがて完全な灰色の球体となった。
「なるほど、継承能力の視覚化ですか。それならその木偶(でく)人形が媒体だと言うことも頷けますね」
何がいいのか、首を立てにふり頷く。
「つまりは、お前たちの仲間の能力を持っていると言っても過言ではない。さあ、始めろ、擬似の仲違いをな!」
人形に灰色の球体を背中から射れ腕を抜いた。
粘土と言ったがまさにその通りだ、身体を軟体動物のように崩していき背丈を整え体を整え、そして顔をも整える。
「おやおや、あれではまるで藤原君の蝋人形ですね」
傍観するローゼンにも人形が孝太だと言う認識をさせるほどの擬似変体ぶりは目を疑うものだった。
「―――――――」
片手に持った斑匡然り、反対の腕のギプスもまた類似するものだった。
「孝、太………」
シンは思わず名前を口にしてしまった、見事なまでの変身は細部に至るまでが孝太そのものだった。
だが――――――――
にやり、と笑う顔は歪んでおり、孝太とは似て非なるものだった。そのおかげか、シンは目の前の人形を孝太とは認識できなくなった。中身が違うのであればあれは孝太ではない、コアだ、と。
「まずいですね、今になってやって来ましたか」
ローゼンの溜息は階段を上がる音が聞こえてくるのとほぼ同時だった。
「え?――――」
振り返れば、見慣れた二人が息を切らして階段を上ってきていた。
「はあ―――、はあ」
「つ、着いたあ」
力なく膝から落ちた葵と唯はそれでもすぐさま立ち上がりシンを視界に捕らえる。
「あ、シン君、追いついたよ」
だが呑気に挨拶をするほど彼も暇ではない。
「葵、下がっていろ!」
安堵の声とは裏腹にシンの声は強張ったものだった。理由がわからず、疲れも無視してどうしたのと問い掛ける。と、その原因に唯が気づいた。
「あ、れ?孝太…………なんで?」
シンの奥にいるのはイリスと肩を並べる孝太の姿だった。状況が把握できない二人はどういうことかと目を疑った。
「だって、さっき孝太と別れて、孝太は逆に走って、私たちが来た時も誰にも追い越されていないのに、孝太がいるはず無いのに」
「落ち着いてください、あれは人形です。細かいことは後で言いますから二人とも早くこちらへ」
ローゼンも慌てた様子で二人を自分の所へ移動させようと声をかける、その一連の流れが慌てた人間を酷く表現しすぎていたのか、イリスが笑った。
「ク、ク……はははははははは、あーっはっはっはっははははは!滑稽だな、滑稽だ、何て顔してんだよお前ら、ちゃんと考えれば解る事を似た人形があっただけでそんなにも慌てるなんて滑稽すぎるじゃないか」
「な、何がおかしい。単に似た者があるだけで頭の中は冷静だ!」
怒気を強める声は更にイリスを楽しませた。
「いい、いい、そうこないと人間ではないなあ。なんだ、たったそれだけじゃないか、俺は何だったこんなことを気づかないでいたんだろう」
イリスは何を確信したのか指をくるくると回して思考を働かせる。その行動は不快でいて酷く予想が立てやすい物だった。
「よし決めた、死んだモノの能力の継承なんか捨てよう。その代わり死んだ奴らが見た藤原孝太という人間を再現してやるよ、人形としてな」
「な――――――――――」
それは、孝太が戦えば戦うほど、勝てば勝つほど、この孝太(人形)が孝太に近づくことになる。擬似と言えども仲間同士の戦闘を楽しむ気かイリスは。
「ほら、何をしている、急いで倒さないと、こっちが倒されてまたこいつは強くなるぞ。それでいいのなら人形と夜明けまで踊るといい」
「フザケルナ、この場で切り捨てる!」
言い捨てて、シンは人形へと走った。
初撃は見事に刀同士をぶつけ合った、曲がりなりにも相手は孝太だ、シンとの剣戟など何度も体験した孝太に言わせれば考えなしの行動は受け止めるに値しないだろう。だが、それは孝太の考えだ。
目の前の人形は孝太の形をしていても人形に違いは無い、孝太が避けると考えるのならば人形は真っ向からの受けにはいるだろう。
剣戟を流すことも無く、何度も打ち付けあう。すでに交わりは数十合に及んでいる、感情を露にするシン、まったくの無表情で力も無く受け止める孝太。
異常なまでの剣戟は、されどどちらも引くことも無い火花の散りあいになっている。
だが、この孝太はあくまで先刻の孝太の技をトレースしたに過ぎない。
ならば相手の出方はすぐにでも把握できよう。別段、孝太が使った技をそのまま使うわけではない、頭で考え完璧と確信を持った技でさえそれはコピーに値する技の一つだ。ならば、あの回転でさえ論外ではない。
その隙、シンが真っ向からの勝負をするのなら、剣戟など意味をなさないように容二十数合目で孝太は弾く事をやめつばぜり合いへと持ってきた。
(何を、突然っ――――――――)
シンとてこのままの状態がまずいことは把握している、鍔迫り合いなど考えもしなかった、孝太は力比べが好きかどうかなどはもとより知るはずも無く、やむなくそうせざるを得ない状態だ。
弾けろ――――――――
それは人形の声なのか。
孝太は迫る刃を視点に脚で回転をし、そして容易にシンの後ろへ踵を持ってこれた。安易な考えはこのままの衝撃をもろに受けることになる、この技もいつか見た技と酷似しているのは見て取れる。ならば、と後ろへ飛ぶ。
がす、と孝太の踵は見事にシンの背骨を強打した。
「シン君!?」
その光景は完全なシンの不利を物語っている。葵の叫ぶも聞こえたかどうかは定かではない。だが、普通だったら前方へよろける位の蹴りにもシンは動じず、その場に留まっている。
「痛いな。だが、それだけだ!」
既に孝太の刀は榊に触れておらず、それでも孝太を斬るには体制が悪い。ならばやはり蹴り飛ばすしかないだろう。
「はっ!―――――」
一歩退いてそして数秒前同様、孝太の腹部を蹴り飛ばした。
「―――――――――」
人形は孝太よりやや軽めな感じがした、屋上の端へと飛ばされ段差に肩をぶつけた。曲がりなりにもコアなのだ、痛みの一つは感じているだろう。それがどの程度なのかは知らない。けれど予想以上に頑丈らしい、ゆっくりと起き上がり肩の調子を見ているあたり一応は効いたらしいが。
「はは、それでも問題は無さそうだな」
シンはこれは良くないな、何て感想をもらした。イリスは口元を歪めてその戦いを、いや、今は地上の孝太の方か。そちらを意識しているようだ。
「ん、五つ目ももうすぐ」
小声で呟いた。
「え、じゃああれは孝太じゃないの」
シンの戦闘を見ている傍ら、避難した二人はローゼンから目の前の人形の説明を受けていた。
「はい、あれは出来損ないのようですが、何でもお仲間の経験した知識を吸収する擬似変形態(メタモール)らしいです。いまは四体目の倒されたお仲間の藤原君を模しているようです」
「ん?じゃああれは孝太であって孝太じゃないの?あれ?でも孝太本人と同じなら孝太は二人いるの?えっと、あれ?」
少し、唯には話が難しすぎたのかどうやら混乱してしまったようだ。
「落ち着いてください水野さん。いいですか、確かにあれは藤原君です。ですがあなたが知っている藤原君は昔から知っている藤原君のことでしょう、あれはまったくの別物です。容(かたち)や戦い方は同じでも、人間としての藤原君はあそこにはいません。それが証拠に彼は死んだ目で友達と殺しあっているじゃないですか」
「え、あ。うん………そうだね、あんなの孝太じゃないね」
「はい、ですから今は本物の到着を待ちましょう、何分彼もがんばっているのですから」
ローゼンはいつもの笑みで言って見せた。だが、そんな確信のもてない言葉は第三の傍観者としてはただ耳に邪魔なだけのものだった。
「ふふ、ずいぶんおめでたいヤツだな。不可能を口にすることがいかに無駄な行為かという事を知らないとは」
イリスはあざ笑って三人の会話は崩した。
「どういうことでしょうか、失礼ですがあなたは自ら継承能力を止めたのでしょう?ならば地上の藤原君は危険が無いと言うことです。三流のダイムでは彼の行動を止めるようなことはできないという言うのが私の見解ですから」
と、イリスを睨む傍らまた剣戟が開始された。
「くっ………」
人形の剣戟はいまだ先ほどと同等の力、ならばこれは致命的なミスが無ければ起死回生はありえなさそうだ、これ以上の不利を誘うのは避けたい。いったん間合いを取るべきだろう。
(なら、下がるか!)
シンは剣の交わりの中大きく振って自分を後ろへ飛ばす。が
表・刃迅――――――――――
また人形の声、しかも今度は孝太の得意とする表・刃迅を難なく片手で撃ってきたのだ。
地球の法則上、放物線を描く物質は空中での移動は不可能、それが前方だろうと後方だろうと同じだ、孝太と同じ動きならばシンが着地するタイミングと刃迅の通過時間はぴったりと言える。このままでは、シンは黎と同じくして二つに分かれてしまう。
「避けてシン君っ!」
不可能なことを叫ぶ葵、シンだってそうしたいのは山々だがこればかりはどんなにもがいた所で変わることは無い、だが最大の幸運は刃迅が表だと言うことだ。これならば榊で食い止められるかもしれない。ならば、とシンは屋上の地に向けて榊を向ける。刃迅が目前に来た。そして
ガシュンッ、と聞いたことの無いような音を立てて刃迅が分断された。どさどさ、と転がりながらかなりの距離をとるシン。自分の分裂は免れたがかなりの傷を負ってしまった。
「あ――――、はあ、ああ、かはッ、っ、あは…………」
大きく息をしてシンは立ち上がる。いくらなんでも無茶が過ぎた。打開策はこれしかなくとももう止めようと心の中で固く誓った。
「防げ、よう、と思えば。何とか、なるな………あは、―――――」
たったあれだけの攻撃でこれほどのダメージを追うとは予想外だったのか、シンは無表情の人形を睨んだ。
「ははは、なんだ、これじゃあ他の情報をもっても意味は無いな。この状態でも死にかけているじゃないか。じゃあいいや、もう消えろよ、六つ目も死んだみたいだし」
「え、?――――――――――」
イリスの言葉があまりにも唐突だったためか口から出た言葉はかすれていた。だが彼は待ってはくれない。もう一つの灰色が手に収まっているのだから。
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