作品名:自称勇者パンタロン、ずっこけ道中!
作者:ヒロ
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「賞味期限が切れているって?ぬか喜びもいい所だよ。パンタロン、君ってば本当に人を笑わせるのが得意だね」

 ニコルはニィっと口を広げ笑った。もちろん目は笑っていない。

「宝箱の中身まで保証できねぇよ!」

 俺がそう言ってもニコルは聞く耳持たず、静かに呪文の詠唱を始めている。も、問答無用かよ……。

 俺は後ずさり、その場から逃げ出そうと駆け出した。だが、すぐ後ろの何かに当たり、その場に倒れる。またこのパターンか……。

 見上げると見知らぬ三人の冒険者達がたたずんでいた。ごつい鎧を着た大柄な男、皮鎧を着込み身軽な服装をした長身の男、白い白衣を着た小柄な僧侶のような格好をした男。

「お兄さん達は誰?今ちょっと僕達忙しいんだよね」

 ニコルがにこやかに話しかけるが、そいつらからは返事が無い。フラフラと体を左右に揺らし、生気の無い目で俺達を見つめる姿は、まるで死人のようだった。

「ア、アイテムを……置いて……いけ……」

 ごつい鎧を着た大柄な男がボソリと言った。

「こんな役に立たないアイテムなんてお兄さん達にあげるよ」

 そう言うとニコルは三人の男の前を通り過ぎ部屋を出て行こうとする。

「お、お前達の命も置いていくんだぞ〜!!」

 突然長身の男が鋭い牙と爪を剥きニコルに飛びかかってきた。

「アハハ、ちょうど良かった」

 ニコルは笑いながら男の攻撃をかわすと、素早くその男の顔を掴みギリギリと締め上げる。

「なんだかムシャクシャしていたんだよね」

 そして、ニィっとあの悪魔の微笑みを見せた。まさか……。

「『煉獄の炎』!」

 その手から突然炎が噴出し、一瞬にして長身の男を包んだ。

「ぐわああああああ!!」

 断末魔の叫び声をあげながら男はのたうち回り、そして動かなくなった。炎は男の体内に吸い込まれるように消え、そして後には人型をした黒い消し炭だけが残った。ニコルの奴、や、殺りやがった……。

「お、お前、よ、よくも!」

 それが大柄な男の最後の言葉となった。一瞬してその男は鎧ごと頭から股間まで真っ二つになり、そして横一線に切られ四つの肉片と化した。ゼルドは大斧についた返り血を振り払うと、床に落ちた男の頭を踏み砕く。脳漿がぶちまけられ、一瞬にしてその場は血の海と化した。

「あ、あ、あ、ゆ、許して……」

 残された小柄な男はペタンと膝をつくと、神に祈りを捧げるような格好をする。メイスンは静かに男に近づくと額に手を当てた。

「神は慈悲深い。きっと汝をお許しになる……」

「ぼ、牧師様……」

 男は安堵の表情を見せると涙を流した。

「せめて安らかな死を……『覚めない悪夢』」

「え?」

 メイスンの手から放たれた黒く禍々しい光が男の頭を包む。

「うぎゃあああああああ!!」

 部屋中に響き渡る叫び声を上げ、男はビクンと天井を見上げた。そして目、鼻、口、耳から血を噴出すと、そのまま動かなくなった。

「どこが安らかな死なの?その呪文って悪夢を見せて狂乱死させるヤツでしょ?相変わらず酷いなあメイスンは。その性格直さないと、いつか地獄に落ちるよ」

「私の信仰する神は破壊神だ。破壊こそが救い、破壊こそが我が望みよ」

「それ同感」

 ニコルはケタケタと笑った。

 俺は青ざめた顔でニコル達を見た。人を殺しても平気でいるこいつらはマジでイカれている。

 そんな俺を見たニコルは、ははーんとバカにしたような表情を見せた。

「もしかしてパンタロン気がついていなかったの?」

「……あいつらはアンデッドだ」

 メイスンがボソリと答えた。

「へ?アンデッド?」

 アンデッドって、あの死体が動くって言うあれのことか?

「一度死んだ人間が何者かに使役され操り人形と化し人を襲う。それがアンデッドだ。モンスターと何も変わらん。あいつらからは死臭がしていたからな、すぐにわかった。それに、もう一度殺してやらないと一生魂が囚われたままになる。俺達にしては慈悲深いことをしたものだ」

 珍しくメイスンが長い台詞を喋った。確かに奴らは様子がおかしかった。それは俺も感じていた。だがアンデッドだったとは……。俺は全然気がつかなかった。それをこいつらは一瞬で見抜いていたなんて……。

 俺は改めてこいつらの凄さを思い知った。

「まぁ、あいつらがアンデッドじゃなくても、僕達に逆らう奴らは皆殺しだけどね」

 そう言いながらニコルは部屋から出て行った。メイスンとゼルドも後に続く。

 残された俺は無残な死体を見ながら一人つぶやく。

「やっぱりあいつらは無茶苦茶だ……」
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