作品名:闇へ
作者:谷川 裕
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後方のロータリーエンジンとはかなり距離が開いた。それほど運転が上手いという印象は受けなかった。ただ、ロータリーエンジンを相手にした場合、直線で距離を詰められる可能性は否定できず南は出来る限り曲線的に目的地まで急いだ。
「最終的には駅まで送れば良い事になるんだよな?」
南は助手席の女に声を掛ける。女は手を震わせながらシートベルトを握り締めていた。その表情は緩む事がなく全身に恐怖を背負っていた。
南は返事の無い女に代わり自分の頭の中でシナリオを完成させようとしていた。長野が携帯で伝えてきた。<Y駅>そこまでのルートは何本かあった。高速を使うという事も出来た、しかし、その場合乗り場と降り場を何らかの形で封鎖されてしまうと身動きが取れなかった。直線的には確かに早い。南は下道を選んだ。曲線的なルート。南が最も得意とする走りだった。時間的な限界も長野は指定してきた。Y駅からの最終便。それまでに<送り届ける>事。それに何の意味があるのか? 考えてはいけなかった。少なくとも今はだ。
「だいぶ距離が開いた、このまま走り続ければ後続車は撒けると思う。まさか君の友達じゃないよな?」
南は冗談のつもりで言ったが助手席の女は顔を引きつらせ強く首を横に振った。
「なあ、今のはほんの……」
「分かってる。でも今はそんな余裕が無いの」
女の表情は依然硬いままだった。南だ。ウインカーを出さず直前までブレーキングを避けコーナーを攻め続けながら南が名乗った。幹線道路に戻るとまだ交通量は多く、南の減速の無いコーナーへの入り方の為か後続の車両から何度もクラクションを浴びた
「何も話す必要は無いと言われたわ。ただ、仕事をし待っている車に乗れと」
「長野か?」
「長野?」
「まあ、名前なんて何とでもなるか。爬虫類みたいな目をした黒服の男だよ」
南がそう言うと幾分女は表情を和らげたようだった。仕事、女はそう言った。女を待つ間、二発。闇を切るようにそれが響いた。
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