作品名:ワイルドカッター
作者:立石 東
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 協会を出たのは深夜だった。
 繁華街に向けて歩いていると、爆発音が響いた。
 向こうの通りをやじ馬の集団が走っていく。
 なぜか興味を覚えたカズマはその後について走った。

 『連邦政府銀行』と看板がある3階建てのビルの前に人が集まっている。
 軍の25mm機関砲を装備した装甲車が一輌、銀行のシャッター前に横付けされている。さらに東西に走っている道路の両端に一輌ずつ道を塞ぐように配置されていた。
「戦争でも始まるってのか」
「ああ、戦争だな、ハラダが来たんだ」となりの男がつぶやいた。
 カズマは軍の武装を見て、10人以上のゲリラが銀行のビルに立てこもったにちがいないと考えた。突然、シャッターがベリベリと大音響と共に破られ、中から大型バイクが飛び出してきた。装甲車から降りた装甲兵士が自動小銃を構えてバイクの前を塞いだ。
 バイクに跨った厚い胸板の男は、不適な笑みを浮かべると、片手でマグナムを連射して、装甲兵士5人を次々に吹き飛ばした。通常弾ではほとんどダメージを受けない強化スーツを、男の弾丸はやすやすと突き破った。
「スゲー、スーパーマグナムだぜ」
 カズマはマグナムの威力と男の手際良さに舌を巻いた。
 男はサングラスこそしていたが、カズマは男がハラダだと確信した。
「あいつがハラダか?」
 カズマは隣の男に聞いた。
「しっ。黙っていろ。やられるぞ。奴の耳は普通の人間の100倍も感度がいいらしい」
「まさか・・スーパーマンじゃあるまい」
 カズマが笑ったので、やじ馬は不機嫌な顔で睨んだ。
 男は、マグナムの弾を撃ち尽くすと、ガソリンタンクの脇につけたホルダーからショットガンを取り出し連射した。
 銃声が響く度に確実に兵士は倒されていく。
 兵士たちは自動小銃で抵抗したが、バイクは悠々と彼らの頭上をジャンプした。
 装甲車の砲手が、慌てて機関砲を連射したため、弾丸が周辺の建物の壁やガラスを粉々に砕き、その破片がやじ馬たちの頭上に降り注いだ。
 ハラダは後輪を激しく回転させながら滑らせ、方向転換すると装甲車に向かって急発進した。
 ハラダは装甲車にぶつかる瞬間、高々とジャンプして、空中で小型爆弾数発をばら撒く。
 着地と同時に閃光を上げ装甲車が吹き飛んだ。
 兵士はその一撃で全滅した。ハラダは再び方向回転して、炎上する装甲車を眺めてから、バイクを発進させた。 
 ハラダのバイクはカズマの目の前を猛スピードで走り去った。
 たった一人で3台の装甲車と3小隊を殲滅した。
 あらかじめシナリオがあるかごときの鮮やかな戦闘だった。
「世の中にはスゲー奴がいるもんだ」
 カズマは全身に鳥肌がたつほど感動した。
 一幕の映画を何度も思い出すように頭に浮かべながら歩き、夜のうちに城壁を出て、スクラップ置き場のねぐらに戻った。

 翌朝、カズマは野営地のテントで目を覚ました。晴れ渡った空が眩しい。
 カズマはあれから何度もハラダの動きを思いだした。
 昨夜のハラダはマシーンのように正確で冷徹だった。
「大丈夫、きっと奴に勝つ方法はある」
 カズマは、うれしくてたまらないという表情で元気に立ち上がり、朝飯の前にコンバットロボの様子を見に行くことにした。

 ボディーの砂を払いエンジンをかけ、燃料、バッテリーをチェックした。
「燃料が少ないな。どこかで仕入れなくちゃ」
 カズマはコックピットの計器を見ながらロボットの調子を確かめた。
「くそ、このメーターまた動いてないな」
 カズマは油圧メーターの上を指先で叩いた。
「この2〜3日、ハードワークだったからな。砂から出して整備しないともたねーな」
 チェックを終え、再びロボットを隠すと、城壁の町に向かった。
 町に連なる道には、貧しいテントや小屋が点在している。
 朝市がたち、屋台や食料品が並んでいた。
 カズマは焼きたてのパンを20アセア分買った。

 この時代、城壁に囲まれた自治国家に住めるのは市民権のある、つまり税金をきっちり払える富裕階層のみで、人口の大半を占める貧しい人々は城壁の外で身を寄せあうようにして生活していた。
 集落の中心部に小さな広場があり、真ん中に井戸がある。
 井戸には粗末な東屋が架かっていた。
 カズマは遠慮も無く水を浴び、シャツを洗った。
 シャツを屋根に干し、朝市の屋台で買ったパンをかじって、シャツが乾くのを待った。
 しばらくすると3人の子供が珍しそうに集まってきた。
 彼は黙ってパンを半分差した。
 小さな手がわずかな食料を奪い取り、さらに小さく3等分すると子供たちは先を争って一気に飲み込んだ。
「おい、チビども」
「なんだ」
 一番、背の高い年長の少年が少し構えて答えた。
 精一杯、つっぱる姿がやけにかわいい。
 カズマは、真面目な顔で言った。
「頼みがある」
「・・・・」
「この先のゴミ捨て場に、俺の大事なものが隠してある」
 三人は互いに目配せをすると、
「大事なものって、あのポンコツロボットのことか」
 と少年が答えた。
 カズマは少し慌てた。というのも念入りに隠したつもりだったのに、簡単に見破られていたのだ。
「知っているのか」
 子供たちは笑い出した。おかしくてたまらないようだ。
「当然さ。あそこはオイラたちの基地だからな」
 そう言われてカズマは合点した。どうやら子供たちの遊び場を無断で占拠してしまったようだ。
「そうか、勝手に使ってわりいな」
「いいよ、朝飯おごってくれたから」
 丸刈りの少年が答えた。
「本当はね、もし、お兄ちゃんがイヤな奴だったら、キンちゃんとカッちゃん、攻撃するつもりだったんだよ」
 リボンをした少女が背伸びして言った。
「マイ、余計なこというな」
 キンちゃんと呼ばれた年長の少年が慌てて口止めする。
「攻撃って?」
「おしっこ攻撃!」
 マイと呼ばれた少女が答えた。
「こら、マイ、言っちゃ駄目だ」
 丸刈りの少年がマイと呼ばれた女の子を追いかけた。
 カズマはおしっこ攻撃を受けずにすんだことに胸をなでおろした。
「頼みってなんだい」
 丸刈りの少年が好奇心に満ちた眼で聞いてきた。
「頼みというのはな、そのロボットのことだ。俺は今から町に行く。留守の間、見張ってくれ」
 三人は顔を見回した。
「もちろん、ただじゃない。これは仕事だ。お礼に飯をご馳走する」
 三人はニコニコして、
「いいよ、お兄ちゃん。任せといて」
 と、声をそろえて言った。
「お兄ちゃんは、なんて名前。わたしはマイよ」
 二人の少年は、それぞれキンイチとカツと名乗った。
「俺はカズマだ。賞金稼ぎだ。悪い奴をバンバン捕まえて金を稼ぐんだ」
「かっこいい」
 マイは心からカズマを尊敬した。ほかの二人も声には出さないものの同じ気持ちだった。 
 カズマは貧しいが人懐こい子供たちを見ていると、トモジ、ケン、ヤスを思い出し「いつか、あいつらの村を訪ねてみよう」と考えた。

 3人と別れ、城壁をくぐった。あれほどの騒ぎの後だと言うのに、門番は昨日と同じ人数だった。
 昨晩ハラダが襲った銀行の前を歩いた。
 大工やガラス職人が破壊された壁や窓ガラスを直していた。
 連邦政府銀行は何事もなかったように営業していた。
「あのくらいの騒ぎは日常茶飯事っていう訳か」
 カズマはつぶやき、雑踏を歩いた。
 協会に着いたのは9時すぎだった。カガリはまだ出社していない。
 カズマは協会の玄関前の階段に座り、時間をつぶした、カガリを待った。

 10時、小型バイクに乗ったカガリが到着した。
「あら、カズマ、早いわね」
 ヘルメットを脱ぐと長い髪が落ちた。
 革のつなぎがカガリの豊満な胸とスリムなボディラインを際立たせていた。
 歩きながらカガリは、
「きのうの夜、ハラダが現れたわ」
「ああ、観た」
 ロビーを歩きながら好奇心に溢れた眼をカズマに向けた。
「良かったわね。どう?相手にとって不足なし?」
「まあな・・・うん、素晴らしい腕だ」
 カガリはカズマを待合室に待たせ、奥に消えた。
 昨夜と打って変わり待合室は一癖も二癖もありそうな賞金稼ぎがたむろしていた。
 男たちは受付から名前を呼ばれると、立ち上がり、窓口に顔を出す。
 窓口の中年の女は札束を無造作に手渡す。
 ポケットに入りきらないほどの札束を貰うものもいれば、小銭しかもらえない男もいた。男たちは賞金を受け取ると黙って出て行った。
「あんた、新入りだね」
 待合室のソファーに座っていると、隣の男に声をかけられた。
 皺だらけの顔をしたその男の年齢は80を超えているかもしれない。
「ああ、昨日、協会に入ったばかりだ」
「担当はさっきの女かい?」
「ああ、そうだ」
「気をつけろよ。あの女に殺された奴は多いぜ」
 右目が潰れ顔には大きな傷が無数にあった。皺の中から鋭い眼光の左目がカズマを睨んでいる。しかし、殺気はない。ひどく酒臭い息をして話した。
「どういうことだ?」
 相手にしたくなかったが、カガリのことに多少興味があった。
「あの女は若い奴に実力以上の相手を、さも簡単そうに言ってあてがう。そういうのをわしは何人も見た。いいか、世の中には当たり前の法則がある。自分の実力以上の相手には絶対に勝てん。分かるな」
「あたりまえだ」
「だがな、人間はすぐに過信する。あの女はそこにつけこむ。自分ができるような気になって、気がつけば、そこは地獄だ」
 カズマはそのじいさんの顔を見た。
「いいか、新入り、教えといてやる。賞金稼ぎが長生きするコツは自分の実力を知ることだ。自分より常に弱い奴を狙え。夢を見るなよ。長生きしたければな」
 そう言うと、老人は目を伏せた。カズマの後ろにカガリが立っているのに気が付いたのだ。
「長老。つまらないこと言って、若い子を脅かさないで。カズマ入って」
 カガリは革のつなぎからスーツに着替え、髪を昨夜のように束ねていた。老人は怯えるような目つきですごすごと出て行った。
「カズマ、お待たせ」
「長老なのかい、あのじいさん」
「まあね、この道50年の大ベテランよ。あの年になるまで賞金稼ぎを続けているのは、まあ、それなりの才能があるって言うことかしら」
「あんたを悪く言っていたよ」
 カズマが言うと、カガリはにっこり笑った。
「さて、ハラダの逃走経路が分かったわ」
 カガリはモニター前に座ると、キーボードを叩き、カワゴエの地図を映し出した。地図上に光の点が点滅している。
「ここがハラダの潜伏地点よ。ハラダは城下で、ほとぼりを冷ましてからアジトに向かうつもりよ」
「この点がハラダか?」
「そう。軍はあらかじめハラダの動きをキャッチして、連邦政府銀行の金塊と財宝に小型発信機を付けて、ハラダを泳がせたの」
「どうして居場所を知っているのに、軍はハラダを捕まえないんだ」
「手段を選ばないハラダを人口密集地で捕らえるのは危険すぎるわ。それにこの町はハラダの庭よ」
「今、軍はどんな動きをしている」
「特務部隊の機甲師団がカワゴエに通じるルートの封鎖を始めたわ」
「ハラダがたどるルートの可能性は?」
「ルート16を南下する可能性40%、北上の可能性25%、その他のルート10%、データーなし25%。どのルートも確実ではないわ」
「どうすればいい?」
「一番可能性が高いルート16の南で待ち伏せして、もし、別のルートに出た場合は、ハラダが軍と接触している間に追いかけるのが、最も効率的な方法ね」
「4割の確率か」
「21世紀に流行した、ベースボールというスポーツでは、年間4割を超えた打者はほとんどいなかったと聞くわ」
「ベースボール?古臭いたとえだな。わかった。40%にかけよう。軍の動きは?」
「軍も同じことを考えている。勢力の半分をルート16の南に裂いているわ」
 ルート16は、関東砂漠の外周に半円を描き南北をつないでいる街道だ。カワゴエを出てしばらくは砂漠や荒地などの平地をいくが、南に20キロのあたりから、300年前の地殻変動でできた巨大クレパスを避けて山岳地帯に入っている。
「軍はルート16が山岳地帯に入る前に展開するつもりだな」
「そうね、山岳では大規模な機甲部隊を展開しにくいからね。それに山岳でのゲリラ戦はハラダの得意分野だわ」
「俺は、この渓谷でハラダを待ち伏せしよう。ハラダが軍と戦った後、必ずここを通るはずだ」
 カズマはモニター上の地図を指を差して言った。
「そこだと二つ問題があるわ。第一はハラダが軍にやられる可能性。第二にこのポイントはカワゴエから遠い。ハラダが別のルートを行った場合、間に合わない。カワゴエ近郊で軍とハラダが接触する前に戦う方が順当よ」
「確かにその通りだが、平地では接触できずに逃がす可能性が高い。先に軍がハラダを倒したら、それはそれまでのこと。もし、ハラダがほかのルートを行ったなら、その時は仕方がない。今回はあきらめるさ」
「わかったわ」
 カガリは微笑み、
「がんばってね」
 と、優しく言った。
「ところで、あんた、俺にハラダを倒せると思うかい?」
 カズマはふとさっきの長老の言葉を思い出して聞いた。
「運が良ければね」
「厳しいな」
「でも、ハラダだって元から強かったわけではないわ」
「どういう意味だ?」
「誰でも戦って強くなるの。私は戦う男の子が好きよ」
 カズマはカガリが自分を子ども扱いしていると感じたが、腹は立たなかった。ただ、ここでは勝たなければ誰も認めてくれないということを痛感した。
 最初、カズマはゼンじいの言いつけ通りただ会うだけのつもりだったが、昨夜、目の間でハラダの戦闘を見たとき、ある確信が生まれた。ただ会いに行くだけでは、ハラダは相手にしてくれないということだ。
 対等に話をするには、自分の力を証明しなければならない、そのためにもハラダに勝たなければならなかった。
 カズマは必ずハラダに勝つ方法があると信じていた。
 そして「俺は誰にも負けない」と心の中で繰り返した。
 カズマは、モニターのデーターを見ながらハラダとの戦闘をイメージした。
「武器が欲しい」
「何が必要?」
「コンバットロボ用の対戦車ミサイル一発。あとは燃料2缶」
 カガリはキーボードを叩いた。武器の在庫を調べたようだ。
 モニターに武器の在庫状況が打ち出される。カガリはモニターを見ながら言った。
「すぐに用意できるわ。ただし、あなたはクレジットを持ってないから。現金が必要よ」
「いくらだ」
「手数料込み300万アセアでいいわ」
「現金はない。バンスで頼む」
「ごめんね、ここはバンスきかないの」
「どうすればいい?まさか素手では戦えないだろう」
「おすすめは人体保険ね。。ボディーを担保にする保険よ。死んだら骨の髄まで保険会社が面倒見てくれるわ」
「ああ、そうするよ」
「あなたなら350万アセア位になるわ」
 カズマは承諾して、書類にサインした。
「ロボットはどこにあるの」
「砂漠に隠してある」
「武器は、あとでエージェントが届けるわ。地図を書いておいて。出発はいつにする」
「今日、武器が届いたら出発する。変わった動きがあったら知らせてくれるか」
「いいわ」

 カズマの足取りは軽い。
 協会を出ると、繁華街を歩きながら食料品屋を捜し、パンや肉、缶詰を適当に買った。カガリから仮払金を貰ったので、懐は暖かい。
 城砦を出て、スクラップ置き場に戻った。
 チビたちはカズマの姿を見ると、喜んで駆け寄ってきた。
「カズマ、早かったね」
「ああ、異常なかったか?」
「隊長、異常ありませんでした」
 カツが軍人の真似をして敬礼した。
「ご苦労であった」
 カズマも口調を真似て敬礼を返す。
「みんな、腹減っただろう。飯買ってきた。食おうぜ」
「わーい」
 マイが飛び上がって喜んだ。
 パンをかじりながらカズマが聞いた。
「おまえら、父ちゃんと母ちゃんはどうした」
「父ちゃんは戦争で死んだ。兵隊だったんだ。母ちゃんは町で働いている。帰りはいつも夜だ」
 キンイチが答えた。ほかの二人もうなずいているところをみると、似たり寄ったりの境遇なのだろう。
「カズマの父ちゃんと母ちゃんは?」
 マイが聞いた。
「俺には父ちゃんも母ちゃんも初めからいなかった。父ちゃんと言えば、育ててくれたゼンじいが父ちゃんかな」
「二人とも、死んだの」
 マイが心配そうに聞いた。
「わからない」
「きっと、どこかでカズマが来るのを待ってるわ」
「そうか。そんな風に考えたこと無かったな。初めから居ないから、気にもしてなかった」
「写真とかないのかい?」
 キンイチが聞いた。
「ああ、見たことないな」
「きっと戦争で焼けてしまったんだな。俺は父ちゃんの写真持っているぜ、ほら」
 キンイチは、首に吊るしたロケットを開きカズマに見せた。軍服を着た20代の若い男の写真だった。カズマはそれが、遺跡からたまに発掘される大昔、人気があった俳優の写真だと気がついたが、知らないふりをした。
「カッコいい親父だ。それに強そうだ」
「だろう。俺も大人になったら父ちゃんみたいな兵隊になって闘うんだ」
「キンちゃんたら、自分の話ばかり。少しはカズマの気持ちを考えてよ」
 マイが大人びた口調で怒った。キンイチもマイに言われて気が付き、顔を伏せた。
「気にするな。俺は今まで自分の父ちゃんや母ちゃんのことなんか、考えたこと一度もなかったよ。だから寂しいなんて思ったこともないんだ。育ててくれたゼンじいやゼンじいの仲間がとても優しかったから、全然、平気なんだ」
「ゼンじいは、今、どこにいるの」
 マイが聞いた。
「今、悪い奴らに捕まっている。だから早く助けに行かなければならない」
「戦うのか?」
 キンイチが目を輝かせた。
「かもしれん」
「俺たちも、その時は手伝うよ。なっ、カズマ、いいだろう」
「ああ、その時は頼むぜ」
 カズマは立ち上がった。
「さて、戦闘準備だ」
「カズマ、出撃かい。父ちゃんを助けにいくのか?」
 カツがカズマの後を追いかける。
「いや、ゼンじいを助けるにはまだまだ準備が必要だ。今日は、賞金稼ぎにいく」
 振り返って優しく微笑むと、カズマは一人、コンバットロボの元へ向かった。
 カズマは、ロボットをカモフラージュしていたガラクタを取のぞき、コックピットに砂が入らないようゆっくりとシールドを開けた。
 シートに座り、セルを回す。爆音が砂漠に乾いた音を立て、排気ガスの白煙が砂を撒き散らした。
 コンバットロボが立ち上がると、砂が滝のようにボディーを流れ落ち、あたりが埃に包まれた。
 計器に異常はない。
 カズマは砂の中からトマホークを拾い上げ、右肩のマグネットホルダーに装着した。
 チビたちは目の前に太陽の光を浴びてそそり立つ、コンバットロボをうっとりと見上げた。
その後ろに「酒の三河屋」とボディーに書かれたトラックが停まった。
「ああ、ここだここだ。やっと見つけたよ」
 眼鏡をかけた優男が降りたった。
「こんちわ。お届けものです」
「ごくろうさん、早いね」
「うちは迅速な配達が売り物でね。ふーん。いいロボットだね。今時この形はなかなか手に入らないよ。さて、何から渡そうか?」
「まず飲み物だな。ガスをくれ」
「あいよ」
 カズマはビール瓶ほど大きさの携帯燃料を受け取るとコンバットロボの左肩にある給油口に突っ込んだ。
「もう一本いくかい」
 男が下から怒鳴った。
「ああ、貰っとく」
 男が投げた燃料をカズマはキャッチして座席の下に置いた。これは予備だ。
「注文の品を見せてくれ」
 男が荷台のシートをはがすと、巨大な筒型をした対戦車誘導ミサイルの発射機が置かれていた。
「初めて見る型だ」
「最大射程2000m。赤外線補足システムで目標をロックオンして、発射すればいい。ミサイル本体に赤外線画像システム装備されているから、あとはミサイルが目標を認識して命中してくれる。射ち放し方式だ」
 カズマは、大筒をロボットの後部にあるマグネットホルダーに装着した。
「ミサイル砲の本体のスイッチをオンにすれば、コンバットロボのモニターにミサイルの照準が自動的に連結されるようになっている。
もちろん光学照準器もついている」
 カズマは右肩に発射機を担いだ。大筒の中央部に付いている光学照準器が目の前にくるように設計されていた。カズマは誘導装置の自己テスト装置をオンにした。電源が入り、ブルーのライトがついた。異常はない。
「ミサイルは装填ずみだ」
「了解。扱いやすそうなミサイルだ」
「あと、迷彩塗料スプレーね。ここにおくぜ。ご注文の品物はこれだけだったな」
「ありがとう。代金はカガリから貰ってくれ」
「ああ、聞いているよ。お買い上げ、ありがとうございました」
 男は軽く頭を下げるとトラックに乗り込み、去っていった。
「さて、ぼちぼち行くか。キンイチ、カツ、マイ、世話になったな」
「そうだ、カズマ、私の水筒貸してあげる」
 そう言ってマイが花柄の水筒を差し出すと、キンイチがそれを掴みコンバットロボのボディーをよじ登る。
「カズマ、戻ってきてね、きっとだよ」
 コックピットのカズマに水筒を手渡しながら、寂しそうな声で言った。
 短い付き合いだったがチビたちが自分を慕ってくれることが、カズマにはうれしかった。
「わかったよ。じゃな」
 カズマは3人に手を振ると、コンバットロボを南に向けた。
 子供たちは関東砂漠の地平線にカズマの乗ったロボットの長い影が消えるまで見送った。
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