作品名:探求同盟−死体探し編−
作者:光夜
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 「桐嶋さん」
 「ん?あれ、君達は・・・・」
 昼休み、光夜でも探しに行こうかと席を立とうとしたとき、呼び止められた。しかも、先ほど僕に文句を言ってきたあの三人だ。どうしたのだろうかと僕は首をかしげる。まさか、去り際の物言いが気に食わないとまた何か言われるのだろうか?
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
 しかし、呼び止められてから向こうの言葉がない。僕は向こうの言葉がないと何も言えないので結局二人でだんまりしてしまう。気まずい空気、ともうのは向こう側で僕としてはただの沈黙だった。何もないのならこのまま去ろうと思っていた。
 「えっと、その、さっきの事ですけど・・・・・」
 「さっき?あ、僕への不満だね。もしかして、まだあったりするの?」
 「そ、そんな事ないわっ!た、ただ、謝りたくて・・・・」
 謝る、だって?何だってそんな事をする必要があるのだろうか、僕の周囲への振る舞いが彼女達の不満を溜めた原因だと言うのに、どうして彼女達は僕へ謝るのだろう。
 「謝るって、それはおかしいよ。僕が君達に不快感を与えていたのは明確なのに、それに対して怒られたのは当たり前。でも、なんで君達が謝る必要があるんだい?何に対して?」
 「あなたの、その、全部に対してよ・・・・」
 「全部?」
 全部とは、如何なることだろう。まず考えられるのは僕の見た目に関してだろうけれど、顔、体、部位で言えば手や耳、腕や足・・・・しかし彼女達がそれらに対して意見を述べることこそありえない。だとすると、内面的なことだろうか、僕の性格による振る舞いに彼女達は不快感を感じていたと言うことであるのなら、それらに対する謝罪だろうか?
 「そう、全部、よ。私達、あなたのこと何も知らないのに、一方的に気味が悪いとか、見ていて不快だとか言ったから。・・・・だって、知らなかったから、あなたが話し下手だなんて。こっちも話かけるべきだったのよね。だから、謝ろうと思って・・・・・無理だろうけど」
 罰が悪そうな顔をして彼女は俯いた。後ろの二人も申し訳なさそうな顔をしていた。むむ、こうなると話がおかしな方向に向いてくる。もしかして僕の話を聞いて罪悪感を持ってしまったのだろうか。こっちは昔から人間単位に興味がなくてコミュニケーションを避けていただけなのに、まるで僕が無実のように取られている。
 「え、あ、いやそれは違う・・・・訳じゃないけれど。あー、ええとね、別に僕は気にしていないよ、うん。慣れたって言うのは信用に欠けるから言わないけれど、少なくとも僕が原因なんだから謝るのはむしろ僕の方。だから気にしなくていいよ」
 こう言う対応は初めてだった。まさか、僕に謝罪を入れてくる人間がいるなんて思わなかった。僕のことを気味悪がったり面倒くさく対応させられたりで、ここまで人間らしい会話なんていつからしていなかっただろう。
 「き、気にしなくて良いだなんて、そんな事言われる筋合いないわ。あなたは、気にしてないって言葉で済ましているだけよ。本当なら何も悪い事をしていないあなたが怒るべきなのに、何もしてこないから余計に自分勝手不快になって・・・・・あなたが、そんなつらい生活をしていたなんて知らなかったから・・・・・ごめんなさい」
 ごめんなさい、と彼女は自分の意思を言葉にして僕に向けた。言われてしまった、相手に非を認めさせてしまった。もう後戻りは出来ない、言葉によって発せられた意味はもう取り留められない。故に、罪は彼女達にあり僕はそれを咎めるか、許すかの選択を強いられてしまった。
 「・・・・うん、いいよ、怒ってもいないし。許してあげる」
 「え、そんなあっさり・・・・いいの?」
 彼女はありえないという顔で僕を見ていた。ならばどうしろというのだろうか?
 「いいよ。だって結局お互い様じゃない、なら許す許さないって言うのも必要だけど、大切なのは分かり合うことだと思う。だから、この話はここまで。それでいい?」
 「え、ええ、もちろん。・・・・ありがとう」
 いまだ驚いたような、嬉しいような顔で彼女は言った。うーん、これでよかったのだろうか?
 「どういたしまして。さて、と、ちょっと僕は用事があるからこれで」
 おもむろに僕は席を立つ。こっちもこっちで用事があるんだよね。
 「ええ・・・・・また後で」
 「・・・・後で?」
 はて、と僕は振返る。聞きなれない言葉だった、人と別れる時はそれきりで、また後などと時間を置いて顔を合わせるようなニュアンスを僕は用いたことはなかった。
 「そう、教室でね。だって・・・その、あなたは友達、だから」
 「友達、僕が?」
 思わず自分を指差す。彼女は照れているのかそっぽを向いている、が後ろの付き添い二人は笑って頷いてくれた。友達?それってあの友達?一緒に笑って、遊んで、過ごす、あの・・・・・僕に、僕が、友達?
 「えっと、うん、また後で、ね」
 僕は焦る気持ちを落ち着かせながら教室を出る。早足で廊下を歩き、自分の教室が見えなくなってもまだしばらく歩く。ようやく、教室すらないところまで来て立ち止まった。知らず、手が震えていた。
 「僕に、友達が出来た・・・・?まさか」
 これは夢だろうか、幻だろうか、何かありえない並行世界を僕は見ているのだろうか?けれど、平衡感覚も、脳に伝わる情報も、これは現実だと僕に認識させている。
 変わりたい、そうは思ってきた。でも、明確にどうしたらいいかなんて考えていなくて今日までずるずると来た。棚から牡丹餅を期待していたわけじゃない、むしろそんな物こそ無いものだと思っていた。けど、切欠はとても些細なことだった。そんな小さな事で、五分ともかからない言葉のやり取りで、人生ではじめての友達が出来てしまった。こんなにも、単純で簡単だったなんて、何で僕は今まで、これを避けてきたのだろうか・・・・
 「―――――はは、あははははは」
 しらず、笑いがこみ上げてきた。自分に対する愚かさと、友達が出来た嬉しさに。変われた、いや変わり始めている。僕は、もう昨日までの僕とは明確に違う。なんだ、人間って楽しいじゃないか。
 「光夜を探そう。なんか、無性に誰かと喋りたいや」
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