作品名:マリオネットの葬送行進曲
作者:木口アキノ
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 深夜も過ぎ、朝に近くなれば、大抵の店が、看板を仕舞う。
 しかし、いつだって夜が明けるまで開いている店、それが、「ホロウウィンド」であった。
 普通の飲み処から怪しげな夜の店まで、雑多に並ぶ通りの隅に、「ホロウウィンド」は所在する。
 樫の木で出来た扉を開け、それから今度は、西部劇に出てくるみたいな、腰までの扉を開けて店内に入る。
 店の中は、至って普通のバーである。
 照明は暗く、左手側は全面カウンター席になっており、右手奥にステージがあり、ほとんど誰も弾かないピアノが乗っかっている。
 その他は、適当に10卓ほどのテーブルが設置され、これまた適当に、形まで不揃いの椅子が置かれている。
 さすがにこの時間になると、客は全くいなかった。
 しかし、きちんと営業はしているらしく、
「いらっしゃいませ」
と、カウンターの中にいる従業員が、リオンに声をかけた。
 女性の1人客は珍しいのか、頭の天辺から足のつま先まで、じろじろ見られている。
 しかし、リオンはそれには構わず、カウンター席に座りつつ、
「ロイ・バトゥーは?」
と、訊ねる。
 従業員はリオンに蒸しタオルを手渡しながら、
「少々お待ちを」
と、店の奥に引っ込む。
 リオンが熱い蒸しタオルで両手を温めていると、同期のロイが、
「こんな所にまで来て、どしたの?」
と、姿を現す。
 若年のG.O.Dメンバーは、しばしば、「社会勉強の為」と言って、副業を持つ事がある。
 このロイ・バトゥーは、「ホロウウィンド」で、バーテンダーとして働いている、という訳だ。
 リオンにしたって、手の空いている時には、保育士として働く事がある。
 皆に、「似合わない」と言われるのが、心外なのだが。
 リオンは、蒸しタオルをテーブルに置くと、改まってロイを見上げ、
「お願いがあって来たのよ」
と言った。
「見返りは?」
 内容を聞く前に、ロイが言う。
「もちろん無いわ」
 リオンのその答えに、ロイは肩をすくめ、しかし目は笑って、
「だろうと思った」
と言った。


 リオンが「ホロウウィンド」に滞在していたのは、ほんの数分であった。用件が済むと、すぐに自宅に帰った。
 余計な装飾などが一切ないシンプルなマンション。この最上階が、リオンの自宅だ。
 玄関扉の脇にある、黒いゲル状のパネルに、掌を押しつけ、指掌紋照合を済ませてからカードキーをリーダーに通す。これでやっと、鍵が開く。
 20帖ワンルームの部屋に、広いベッドと、大きめのソファがある。
 そのソファに座り、ミューズが、自分の腕をメンテナンスしつつ、
「お帰り〜」
と、リオンを迎える。
「その格好、他の人には見せられないわね」
 リオンは、壁にバッグを提げ、ミューズに言う。
 上半身は下着のみで、左下腕がまるで魚のひらきのようにぱっかりと開き、中から機械類がのぞき、コードが飛び出す。そしてそれを、自分でメンテナンスしてしまっているんだから、あまり上品な姿とは言えない。
「男の人の家ではやんないもん」
 丁度メンテナンスは終わりだったらしく、コード類を中にしまい込み、ぱちん、と腕を閉める。その上を、液状化した人工皮膚が覆い、つなぎ目を隠すと、あっという間に、液状から皮膜へと変わる。
「まあ、充分にメンテナンスしておくといいわ。それと、盗品手配のヒューマノイドの製造番号、メモリーしておいてね」
 外出着から部屋着へと着替えながら、そう言うリオンを、ミューズは、きょとんとして見上げた。
「武器の手配もなんとかなりそうよ」
「それって……」
「行くでしょ?アストログローバル社の輸出を邪魔しに」
 着替えを終え、リオンはミューズに向き直る。
 ミューズが、表情を輝かせ、
「もちろん!」
と、頷いた。  

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