作品名:探求同盟 −未来編− 桐夜輝の日常
作者:光夜
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「さ、さっきから、訳がわからないよ、君」
「やっぱり理解できない、か。じゃあ見本を見せるよ。手ごろな瓦礫は―――――ああこれがいいね」
輝君は少し離れたところに落ちていたレンガを一個拾い上げた。ほとんど壊れてない直方体の赤茶けたレンガは、見るだけで硬そうだった。
「まあ、普通はこのレンガ、硬いよね」
がん、がん、と何度か打ち付けるレンガ、中身もしっかり詰まったレンガは何度叩いても割れることなく硬い音を響かせていた。
「さて、じゃあこの格闘技の怖いところを見せるよ」
「・・・・」
輝君は小さく呼吸を整える、そして特になにか道具を使うことも無く、ぱん、とレンガの表面を叩いた。ただ、それだけだった。
「さて、この見た目には何も変わったように見えないレンガ、だけどこうして軽く叩くと―――――」
こん、と同じようにレンガを叩きつける、すると先ほどまで音を聞くだけでも硬そうだったレンガが鈍い音を立てて豆腐のように割れてしまった。そして、割れたレンガの中からサラサラと赤茶色の砂が零れ落ちた。
「なに、それ・・・・」
「見たとおり、先ほどまでは詰まっていたレンガの中身を、内向の攻撃で中の一部を粉砕したんだ」
ほら、と持っていたほうのレンガを見せると、その中身はくりぬかれたように空っぽになっていて、中身だった物は砂のように粉々になって足元に散らばっていた。ああ、そういうことなんだ。
「父さんは、なぜかこういうことが出来る人間なんだ。僕もその才能を受け継いでいるからこそ、この格闘技は本当の意味で一子相伝。ちなみに、普段していないこの手袋はお守りだよ」
「お守り・・・・それの、どこが」
「別に、僕は手袋をしていなくてもこの攻撃は出来るんだ。でもね、この手袋をしていないと、簡単に壊してしまう。どうも父さんの才能を色濃く受け継ぎすぎたみたいで、この母さんお手製の抑制用の手袋をしていないと―――――」
す、っとおもむろに手袋を外して何度か手を握り、この部屋の壁に手を突いた。輝君が不適に笑った。
「こうなるんだ」
まるで何かの絵を見せるように言って、ボーリングの球が大量にぶつかるような音が一度だけ響いて、壁に巨大なクレーターが出来上がった。輝君の手を中心に完成されたクレーター壁の中心よりも下から出来たから、上は天井に届かず、下は足の床を削っていた。絶句、しかなかった。
「あ、ああ、ああああああああ・・・・・っ」
田島君はそれで、ナイフをむける気力がなくなってしまったのか、力なくナイフを落として床に膝を突いてしまった。
「内向への攻撃だって言うのに、僕が本気を出すと内も外も関係なく、壊しちゃうんだよね。だから、そうして降参してくれると嬉しいよ」
田島君はもう立ち上がることも出来ず、ただただ震えるばかりだった。上には上がいるっていうけれど、これは普通の企画で考えるのは違うと思う。とはいうものの、ボクも怖くないというと嘘になる。すきなった人に、こんな秘密があったなんて、正直ビックリ過ぎてしまう。
「真、鎖外すよ」
「あ、うん」
と、言うが早いか片方の腕が重力で下へと落ちた。あれ、こんな簡単に外れる物なんだっけ鎖って?ふと見上げると、鎖は蝶番を軸にした腕輪みたいになってるけど、鍵のところが不自然に穴だらけになってる。あれ、もしかして殺気ので壊したのかな。
そう思っていると反対の腕も下がった。
「すこし、腫れてるね・・・・」
「あ、あげたままだったから、力が抜けたときに食い込んだのかも―――――あ」
輝君は少しボクの腕をさすると、腫れた部分に舌を這わせた。突然のことにボクは変な声が上がってしまう。というか、くすぐったい。
「あ、輝君・・・・」
「真をなんだと思っているんだか、綺麗な腕が真っ赤になって、まったく」
文句を言う輝君は反対の腕の腫れた部分も舐めてくれた。なんだか、妙に嬉しくなってしまう。そんなにも心配してくれていたと思うと、ボクの胸は満たされた気分になった。
「さて、と。母さんたちも心配してるし、警察に連絡して田島君を―――――」
と、振り向いた瞬間、輝君の頬にナイフが掠れた。田島君が、恐怖を無理矢理押しのけて、こっちまで近づいていたらしい。輝君が振り向かなかったら、今頃頭にナイフが刺さっていたかもしれない。
「あ、輝君っ」
「おちついて真。田島勝、まだやるのかい?」
つー、とナイフが掠れたところから血が流れてくる、それを意に介さず輝君の視線は田島君を捕らえていた。田島君は手元が震えていた、勝てるはずがない、判っていても反抗心が奮い立ち、こういう行動に出てしまったのかもしれない。
「ナイフ、離したほうがいいよ」
輝君はナイフの背から刀身をつまんで、田島君を制した。でも、田島君は収まるわけがなかった。
「うるさい、うるさいんだよ君は!人の邪魔ばかりして、人生の楽しみ壊しやがって!だから普通の連中は嫌いなんだ、何でもかんでも他人に依存して自分で動かないで、こっちは人生の最初から這い蹲ってきてるんだ、ちょっとは楽しい思いをしたっていいじゃないかあああああああああ!」
「それが間違いだよ」
くだけろ、輝君はつぶやいて、目を強く見開いた。次の瞬間、田島君が握っていたナイフの柄が、手の中で弾けた。
「ぎゃ、ああああああああああああああああああああっ!!!」
手の中で弾けた柄の破片、それらは余すことなく田島君の掌に襲い掛かり握り続けることもできず―――――というか柄が壊れたから刀身も固定できずに落ちてしまった―――――手を開放せざるを得なかった。
自分の手を握り締め再び床に膝をつくことになった田島君、でも輝君は今度はそれで終わらせるつもりはなかった。
「その根性があるなら大丈夫だよ。しっかりと罪を償って、もう一度やり直しなよ。そしたら今度は、友達になってあげるよ」
そういって、輝君は田島君の顔を強かに殴りつけた。田島君は防御を取ることもできずそのままその場に倒れ伏してしまった。田島君は、もう動くこともなく失神してしまったようだった。
「ふぅ、ちょっと危なかったかな」
「あ、輝君・・・・頬、切れてる」
「ああ、うん。ナイフが掠ったからね―――――って真」
「じっとして、今度はボクがするから」
このままだとばい菌が入ってしまう、ボクの腕の腫れはほうっておいても直るけど、傷は違う。ボクは輝君の頬に下を這わせて滴る血を丹念に舐め取って、傷口もしみらない程度に舐めてあげた。
なんだか、ドラキュリーナになった気分だった。輝君の血、鉄の味というより、ちょっと甘く感じたのは気のせいだったのかな。
「ありがとう、真。でも、僕の血は返してもらうよ」
「あ、んぅっ」
変な理屈を口にして、輝君は僕の口に吸い付いた。ちょっとビックリしたけれど、助かった安心感と、妙な嬉しさで、ボクは輝君の好きなように扱われてしまった。彼の唇が僕のと重なって、彼の舌がボクの舌と絡まって、数秒の間だけ幸せに浸ることが出来た。
その後は結構あっさり終わってしまった。外に待たせていた輝君のお母さんのつてで昼間にも会ったあの警視総監の大塚さんが部下を連れて待っていて、田島君たちは連れられていってしまった。
翌日は教室内がとても大騒ぎだった。城ヶ岬君はしばらく自宅謹慎、田島君は罪を重ねたので少年院に送られた。残った佐々木君はなんだか微妙な感じで教室にいたのを印象的に感じていた。
でも、これで入学当初から起こっていた沢山の問題が解決したことになった。転校してきた桐夜 輝という一人の請負人の手によって。
そして、ボクは今日も桐夜、いや、八神君の家に遊びに来た。なれた物で、輝君がいなくても家に通してもらってお茶を出してもらって待っていたり、輝君の部屋で待っていたりと、とても自由気ままにしていた。
「あ、待たせたかな、ごめんね」
「ううん、そんなことないよ。今日はどこに?」
「猫探しだよ。近所に逃げたから捕まえにね」
と、こんな感じで学校が終わっても請負の仕事はそれなりにあったりして、けっこう毎日忙しかったりする。でも、二人きりになると、輝君はボクだけを見てくれて―――――
「あ、お邪魔だったかしら?」
いつの間にドアが開いたのか輝君のお母さんが除いていた。
「突然は困るよ、ノック、お願いね」
「あはは、ごめんね。ちょっとお母さん出かけるから」
「父さんは?」
「いるけど、たぶん精神統一してるから防音室に篭るとおもうわ。たぶんこっちにはこないから、ごゆっくりねー」
「へ、あ、えっ!?」
ボクの狼狽振りに楽しさを覚えて輝君のお母さんは扉の向こうへ消えていってしまった。ごゆっくりって、どういう意味でしょうか・・・・。
「ごめん、母さん僕に彼女が出来て喜んでるみたいなんだ。跡継ぎがどうのっていうかんじで」
「あ、跡継ぎって、えっと、その・・・・あぅぅぅ」
「あ、いや、そうじゃなくて、まあそれは追々というかゆっくり話し合ってというか、決して真の期待していないわけでもなくて―――――なんか、なんで僕がうろたえてるんだ?」
首をかしげる輝君、ボクもある決意をして今日までこの家に通ってきたのも事実である。だからボクは、輝君に話を持ちかけた。
「輝君、ボクも輝君を手伝っちゃ、ダメかな?」
「真?」
「輝君に助けられたとか、そういうのもあるんだけど、でも今まで自分で行動できなかった自分がいて、でも輝君とあって行動を一緒にしてるとボクも何かがしたくなるんだ。だから、輝君を手伝いたい。それに、その、手伝いが出来れば一緒に、いられると思って」
最後のは自分の都合、でも嘘じゃない。輝君と、一緒にいたいんだもん。輝君は少しだけ考えて、そして、ボクの腕を取って抱き寄せてくれた。
「あ、輝君・・・・」
「考えてなかったわけじゃないんだ。ちょっと言い出せなくて、でも、本当に真さえよかったら母さんに話してみようと思う。本当に、僕に付いてきてくれる?」
「うん、輝君とならどこにだって、ボクはついてくよ」
「真」
「輝君」
「輝、少しいいか」
と、今度もなんの予兆もなく輝君のお父さんがやってきて、僕らは少し離れてしまった。
「父さんも、ノックくらいしてね」
「・・・・なんだ、いまさら遠慮することもあるまいに。まあいい、少し出る、近所の迷惑にならないように」
な、何が近所の迷惑になるのでしょうか・・・・。そして、輝君のお父さんも扉を閉めて行ってしまった。
「まあ、一応これで家には誰もいなくなったわけだけど?」
「あ、うん、えへへ」
結局、ご両親も公認だとこういうこともあるわけで、でも、これが今後からの日常なんだと思うと、それでもやっぱりイヤじゃなくて、輝君が再び手を取ってくれて、ボクと輝君は、これからも一緒にいられるんだと思った。
この日から、探求同盟には新たに人間が増えました。
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