作品名:奇妙戦歴〜文化祭〜
作者:光夜
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「あれ、まだ帰ってきてないな…」
誰もいない部屋を、いや、キックンしかいない部屋を見渡した。
「ま、すぐに戻るだろうから待っているとするかな」
孝太は席へと歩くが唯は立ち止まってポケットを探った。
「じゃあ、待っている間トランプしようよ孝太」
唯はポケットから取り出したものを孝太に見せていった。
「二人でか?何ができるんだよ」
孝太は旅行とかが結構好きだったりする。修学旅行だって喜んで参加するタイプだが何せ部屋割りはいつもペアだったので話すことも少ない。他の部屋の連中が来ればそれなりに楽しい時間になりもちろん誰かの一言でトランプをはじめたこともある。だが、いくら人数がいようともババ抜きは子供っぽい、ポーカーは現金不可、七並べはよく知らない。何てこともしばしば。メジャーなところでダウトになった―――が、これがメビウスゲームの始まりだった。ダウトはプレイヤー全員にカードを全て配りスペードのAを持っている人から右回りにはじめていく。スペードのAを持っている人は表にして出し次の人からはマークは無視で「2」と宣言して裏向きで重ねて出していく。このとき本当に「2」が出されたかどうかは本人しか知らないので次の人はそれを信じて「3」とつなげるか「ダウト(嘘)」と宣言して前の人が出したカードを表にする権利が生まれる。もし違うもの出していたのならそれ以前に出された全てのカードを偽者を出した人が受け取り。本物を出していたのならあて間違えた人がカードを全て受け取ると言うことになる。手札を全て出し切った人から抜けて最終的に最後まで残った人が負けとなる。一番効果的なのは最後の手札が頭のキレるやつ意外はだいたい偽者を出して乗り切ろうとするので、最後の一枚で「ダウト」と宣言してそれまで貯めたカードをあげればかなり楽しいゲームになる。コツとしては早めに宣言してカードを出す奴は大抵が偽者を出している確立が高い。時にはわざとそう言う行為をしてはめる人もいるが。
けれど、そんな楽しいゲームも最後の二人になるとかなりうんざりしてくる。このゲームは三人以上でカードの表がわからないから悩むのであって。一対一の場合自分の手札を小さい数からまとめていけばお互いに相手が何の数字を何枚持っているかが判る。だから相当な間違いを犯さなければ確実にドードー廻りを繰り返すことになるのだ。そしてその悪夢がここでも再現させられようとしていた。
「ババ抜きは?」
「子供っぽい」
「じゃあ、ポーカー」
「賭けるもの無しじゃあ詰まらないな」
「七並べ…って私も知らないや、じゃあダウトなんかどう?」
「………」
孝太は何で人はトランプでダウトをしたがるのか何て哲学的なことを思い浮かべた。
「まあ、良いけど……」
孝太はどうせ二人が帰ってくる間のときだけなんだから付き合っても良いか、と思いトランプを受け取った。カードを配り終わると広げてみる。単純にジョーカー抜きの五十二枚を二人で割って、一人二十六枚。扇形に広げたくても結構な量で均等に広げられないでいる。それでも孝太は数字をまとめて小さい順に並べた。この時点で唯のカードが何かははっきり判る。
「(まずいな八とスペードのAが無い、唯から始まるから八は俺に当たるわけだし、確実にダウトだ)」
ついてないなと思いながらも孝太は聞いた。
「スペードのAは唯だな、それを出して俺から行くぞ」
かかってきなさいと唯は自身たっぷりに言った。
「まずは、2だな」
孝太は手札から宣言どおりの2をだした。
「私は3だね」
唯も宣言して出す。まあ、最初の一周あたりはダウトは無いのだが。今回孝太に八が無いので一周目からのダウトとなる。はずだ。
「俺は4」
孝太は順調にカードを出す。
「はい、5」
唯も出す。
「6(そろそろやばいな)」
孝太の八まであと一枚。
「7」
ついに来てしまった。孝太は無いと判っているのであえて躊躇はしない。唯にばれているのに躊躇うのは何か恥ずかしい気がするからだ。
「8」
孝太はあえて強調するように言って見せた。だが。
「えい、9」
唯はそのまま次のカードを出した。
「(は?)」
孝太は一瞬どう言うことかと思った。ダウトを言わない。唯だって馬鹿じゃあないんだ、自分が八を持っていないことぐらい判っているはず。だから孝太はこう考えた。三週目の八で宣言するつもりだ、と。ダウトは二人でやる場合当然奇数のカードと偶数のカードを交互に出すことになる、一周に出すカードは全部で十三枚、当然一に戻ると前回とは出すカードが代わることになる。孝太は八を持っていない、次に八が孝太に回ってくるのは三週目と言うことになる。そのときダウトといわれれば出したカードは十三+十三+八=三十四枚だ。なかなかやるなと孝太は唯を誉めた。トランプゲームを知り尽くした孝太としてはこういう唯みたいなのが彼女でいてくれるのは正直うれしい限りだった。と、思えたのは三週目までだった。
「7」
唯は二回目の7を出すと孝太をチラッと見た。かなり自信のあるようだ。当然だろ う、計算上今出したのは本当に7なのだから孝太はダウトとは言えないのだ。言ったところで八を出す手前なのだから枚数に変わりは無い。あえて正面から討たれる覚悟だった。
「8」
ついにそのカードを出してしまった。孝太はいつでも来いと言うように目を瞑る。ダウトと言う宣言はまだかと耳を済ましていると。
「9」
なんて間の抜けた声が聞こえてきた。いや、間が抜けたように聞こえたのは孝太の空耳だろうがそう聞こえざるを得ない状況だった。つまり唯は……………
「(ああ、馬鹿なのかあ)」
天を仰いで見た。
「どうしたの孝太、早く出してよ」
唯がせかす声で孝太は手札を見た。と、孝太はまた気がついた。そういえば自分は9を三枚持っていたんだ、詰まり唯が出したのは………
「唯、ダウト」
孝太は出されたカードを指差した。
「え、え、え!?だ、ダウト?」
唯は慌てふためいている。
「(なんて判りやすいんだろう)」
孝太は慌てる唯を見て少し笑ってしまった。
「そうダウト、めくるぞ」
孝太は笑いをこらえながらカードをめくった。
「あ……れ?」
目を丸くする孝太、それもそうだ、期待しながら孝太がめくったカードは「2」だった。
「やったー!孝太が引っかかったー!」
考える孝太を唯は楽しそうに茶化している。
「え、お前、8で引っ掛けるつもりだったんじゃ……」
それは自分で否定しておいて聞き返す孝太。かなり混乱しているようだ。
「へへへ、孝太は8がないから潔くダウトを待っていたんでしょ」
先ほどまで唯の事を馬鹿だなんだと言っておいた孝太がかっくんと首を縦に振った。
「で、一周だけじゃあ物足りないから三週目で引っ掛けることにしたの」
それは自分も考えたとそこで唯を誉めたことも覚えている。
「でも、8のときお前は……ああ、そうか」
孝太は気づいた。唯はあえて8を流して自分の気をそらしたのだ。そして一周目に9とは違うカードを出して三週目で一枚多めで俺に返したのか。
「ああーやられたー!もうやめだやめ」
孝太は手札を放り投げて机に深くもたれた。なんで二人のダウトでこんなに頭を使ったのかと厭になってしまった。
「たく、無知な顔してこう言うときはキレるんだな」
孝太は降参のポーズで言った。
「当然だよ、じゃなきゃ孝太の相手なんてできないもん、それよりも孝太にトランプで勝ったのって私だけかな?」
唯は何を突然と言うようなことを口にした。
「ああ、まあ、そうじゃないか?斑鳩は知らないけど」
孝太は中学校のころの戦歴を思い出したが負けた記憶は皆無だった。
「わあい、初勝利は私にけってーい、賞品は何?」
手を差し出してくる唯。おいおいと孝太は起きあがる。
「なんだ、チャンプに勝つと賞品て、どこの三流番組だよ」
孝太は手を振って何も無いことをアピールした。
「別に物じゃなくても良いもん」
隣まで来た唯は何が言いたいのだろうと孝太を悩ませた。
「で、実際に何がほしいいんだ?」
孝太は核心に迫るために唯にはっきりと聞くことにした。
「えっと、孝太は暗いところのほうがよかったのかなって……」
唯はほほを染めて言った。
「はい?どういう……」
孝太も何がなんだかと言う感じで尋ねなおそうとしたが自分で考えることにした。孝太は暗いところのほうがいいか、唯はこう言った。ここから導き出される答えは「(って考える必要も無い、か)」
孝太は頭を掻いた。
「そうだな、どっちかと言うと顔が確認できるほうが良いかな」
確信を突くと唯が息を飲んだ。
「つうか、なんかお前、大胆になったな。前はそんなそぶりは無かったのに」
孝太は唯の頬を触ってみる。
「あ……ん」
火照った顔が孝太を見上げる。
「唯……」
孝太は黙って顔を近づけた。そしてお互いが重なる。
「(結局、目を瞑るなら明るくても意味が無いな)」
孝太はそれでも長く行為を続けた。まあ、こう言う日もいいなとふと思った。
「はあ、青春ですね」
と、愛を育む二人の横から声が聞こえていた。
「―――――!」
目を開くとテーブルの上にいつの間に起きていたのだろうキックンが腕を組んで納得するように頷いていた。
「いやあ、実に仲がよろしいことで」
気づいているのは孝太だけで唯はいまだに目を瞑っている。気持ちの高ぶりの所為でキックンの声は聞こえていないようだ。孝太もこんなことぐらいで慌てるような奴ではないので唯を満足させるまで何も見なかったことにした。
「なんだ、無視か」
詰まらなさそうにゴロンと横になりまた寝てしまった。
数分後、シンと葵が紙を貼り終え戻ってくると何事も無かったかのようにトランプをしていた孝太と唯がいたので混ざることにした。
「孝太、ハートの8止めているだろう」
シンが孝太に目配せをすると「どうだか」と言う返事が返ってきた。一応ダウトだとキリが無いと言うことで唯に七並べのルールを教え四人でやることになった。「あ、葵、クラブの5持っているんでしょう」
唯が指摘すると葵は手札を隠して「あ、見たでしょう」と、言い返す。
「違うもん、見えたんだもん」
しらをきるように唯は明後日のほうへ目をやった。準備も万全整い後は本番を待つのみで四人は楽しい時間を過ごしていた。
「おや、何やら楽しい声が聞こえると思ったらトランプでしたか」
入り口のほうから勝手に喫茶店の役に回された哀れな転校生の声が聞こえてきた。「おう、ローゼン。戻ってきたのか」
孝太は手を振って答えるとローゼンが近づいてきた。
「ええ、楽しそうですね、混ぜていただいて良いですか?」
ローゼンはニコニコと尋ねた。
「ああ、構わないぞ」
シンは快く仲間に入れると最初から配りなおし始めた。
「七並べなんだが、わかるか?」
一応外国人という事なので聞いてみた。
「はい、基本的なことは知っています。支障は無いかと」
ローゼンの丁寧な言葉に頷いてシンはカードを配り始めた。午後五時ごろのことだ。
「よし、上がり」
孝太は手元にカードがないことを教えるため手のひらを広げて見せた。
他の四人は目を向けずにカードをにらむ。緊張の面持ちでにらむ四人、盤面は結構珍しいことになっている。四人が持っているカード、どれか一枚でも出れば連続で次の人が出るようなつなぎ止めになっている。だが、このゲームにはパスが設けられていて一人三回までできる、シンはあと一回、葵はあと二回、唯は二回、ローゼンは三回だ。現在最後の一列で9まで出ている。唯が一回目のパスをしたところで見てみる。実は唯が10を止めているので唯が出さないと誰も出せないのだ。
「くっ、パス」
シンは最後のパスを宣言してしまった。ルール上パスを使い切って自分の番になってもカードが出ないとき、最下位となる決まりが在る。現時点で唯がパスをすればシンは最下位となってしまう。
「私もパス」
葵、あと一回。
「私もパスです」
ローゼンあと二回。そして唯は「パスだよ」唯がここでパスを使い切った、シンは。
「…………」
手札を見て固まっている。一応自分からパスと言わなければ次に行けないので。シンの頭の中では言うか言わざるかを検討中だろう。
「なあ、ローゼン」
孝太はシンの考えが長くなると判断しローゼンに話し掛けた。
「なんでしょう」
ローゼンは自分の最下位が無くなったのを知りカードをテーブルに置いた。
「最近妙に何所かに行くことが多くないか?」
孝太は最後の一列以外を片付けながら聞いた。
「そうですか?」
ローゼンも完全にゲームを無視しているようだ。孝太はカードを重ねて横に倒す形にまとめていく。
「ああ、この一周間サボりと早退が目立つが、やっぱりコアのことを調べているのか?」
カードを重ねそろえるカードを見ながら孝太は訊いた。
「いえ、違います。もうマスターが見つかった瞬間に調べは終わっていました」 それを聞いて孝太はふ〜んと興味無さ気に言った。
「じゃあここ最近は何をしていたんだ?」
やっぱりローゼンはわからないと言った口調で孝太は尋ねた。同時に手札から繋ぎのカードを出す。
「そうですねえ、結果から言いますと、明日、イリスは決着をつけるそうですよあなた方と」
隠すことなく続きのカードを出す、だが次がくる事は無い。ローゼンを除く四人は目を見開いた状態でローゼンを見ているからだ。
「……おかしいな、何だって敵の考えがわかるんだ。余りにもおかしすぎるなローゼン」
あくまで探る声のままシンは尋ねた。カードを置かない所を見るとこのままゲームを続けるつもりらしいのだが孝太は既にそんな状態ではなかった。
「簡単です、敵の考えは敵から聞くしかないでしょう。私はイリスと接触していました」
がたん、三人が驚くより先に椅子が倒れる音が響いた。
「どう言うことだローゼン!」
怒鳴り声は孝太の物だった。ローゼンは自分の言った事がどれだけ重要な事か理解しているのだろうか。
「イリスに会っていた!?なんで敵のあいつとお前が会っているんだよ!」
孝太はローゼンに怒鳴りつけた、机が邪魔で胸座を掴むまではいかない物の殺す勢いで睨みつけている。いや、掴みかかったとしても孝太に彼を捕まえる事は出来ないと本人もわかっている。今はそれよりも混乱に近い怒りが頭の中を占めているに違いない。
初めて知る情報にしては大きすぎる、仲間が敵と会っていた、この言葉には十分信頼を崩す材料がそろっている。それがこの間まで疑っていたのが相手であるのなら尚の事。
「落ち着いてください」
ローゼンは孝太を静めようと冷静に言うがその言葉はかえって孝太を挑発してしまった。
「落ち着けだと!コレが落ち着けるか!お前はコアを、ダイムを消すためにここに来た、そう言ったはずだ!もちろんイリスだって例外じゃない、なのになんであいつと会っていたんだ」
孝太、とシンも静めようとしたが存外孝太の声が大きく自分の声でシンの声が掻き消えたことを気づいていない。
「答えろ、ローゼン!」
孝太はさらに声を上げる。机を回って本当にローゼンに掴みかかろうと歩き出した、だが―――
かちゃり、と金属めいた音が目の前から聞こえてきた。
「なっ――――」
その正体を知って孝太は詰まった声を上げ立ち止まる。
音の正体はいつの間にか孝太の下あごにひやりとした感触を与えていた、一瞬にして熱くなった頭が冷やされる感じ――――銃口。
「……ローゼン」
孝太は次の行動を冷静に考えながら背中が冷えていくのが判った。
撃たれる。
だが孝太の思考が戻った事を確認した時ローゼンは息を吐いた。
「別に撃ちません。ただ、落ち着いてほしかっただけです」
ローゼンは腕を下ろし懐に銃をしまう。
そうして孝太の目を見た。
「聞いてください、私はあなた達を裏切るつもりはありません。ただ話の内容を聞いてほしいんです」
目は泳いでいない。
向けられた瞳は紛れも無く真実を言っている事ぐらい孝太は理解している。だから腹立たしいまま孝太は席に音を立てて座った。
「ありがとうございます」
ローゼンも一息ついて体を伸ばした。沈黙が訪れる。
「私が…」
タイミングがあったのだろう、ローゼンはゆっくりと話し始める。
「私が彼と接触をしたのはつい最近ではありません、皆さんと会う前から彼とは知っている中でした」
話の入り口でずいぶんなことを口にした。また孝太が怒りださないかとシンはもとより唯が眉をしかめる。
「何から言えば、困りましたね」
いつもの困ったようには見えない顔で苦笑した。
「何からでも構わない、ともかく俺たちは現状を整理したいんだ」
落ち着き払った様子でシンは言った、既にカードは手に持っていない。
「解りました、ではコアについて話しましょう」
少し、間があった、ローゼン自身も話し方の整理をしているのだろう。
「まず、私たちが戦っているコアと言うものですが……正しくはコアではありません、もちろんダイムと言うものでも」
シンを除く三人が小さく声を上げた、期待通りの反応にローゼンは話を続ける。
「正式名称はヘルツ・ベクター・ドール、通称HVDと言い、言うなれば人工生命体です」
「人工生命――――じゃあアレは人間が作ったっていうのか」
やや荒げた声、孝太は全てを理解しようと努力をした。ローゼンに対しての怒りはある、けれど―――――
「その通りです、悔しくも私の所属機関が作った殺人兵器です」
そんな、言い出そうとしてやめた。ローゼンの手がかすかに震えている。
「……コアはもっと頭のいい存在です。我々がダイムと名づけましたが意味合い的にはコアで通るところを考えると斑鳩君とは相性がよさそうですね」
そうしてまた苦笑した。
「じゃあ、コアって何なの。あの怪物は何なの」
葵の声、確かに話はいまだ入り口だ。もっと詳しく知る権利が今の四人にはあった。
「コア、それは『精神意思中心核』と呼ばれる生き物です。他の生物に取り付き己の体を手に入れる数少ない未確認生物。それを材料としたのがHVDです。さしずめ生態だけで言えば夏の陣とでも言いましょうか。あの頃のHVDがそれに近かったですね」
「コアは、解った。でも俺たちが戦っているのがコアじゃなくてそのHVDだって言うなら話は別だ。HVDを知る必要がある」
「ええそうですね、先も言いましたとおりHVDはコアを材料とした人工生命体です。生産過程では人類を助ける力有る者でした、けれど材料が悪かった。ちゃんとした研究もなしにコアを用いて結果、暴走しました。あの製造プラントにイリスが生まれたのです」
「やはり、イリスもHVDか」
一人納得した声に皆が振り返った。
「斑鳩、お前「やはり」って、知っていたのか!」
こくん、と首だけで返事をした。
「すまない、もう少し落ち着いてから話そうと思っていた。けれど機会を逃してしまったようだ」
驚きで立ち上がった孝太、何か言いたくも巧く言葉に出来ず座った。
「ローゼン、続きを話してくれ。俺も細かい所までは解らない」
「はい、暴走過程で誕生したイリスは当然破壊のみを望む生物です、いくつかのプラントとHVDを持ち出し力としました。最近では強化剤みたいなものを作りましたが」
「ああ、あの針か」
ローゼンの言う夏の陣、そこでイリスは針らしきものでコアもといHVDを強化したのを孝太は思い出した。
「ええ、イリスについては正直何も判りません。ですが今の彼はあなた方二人の排除以外考えていません」
それで、ローゼンの話は終わった。
「コアはHVDとか言う人工生命でイリスはそのHVDで、俺たちを殺したがっている。ってことか……………っは、結局あまり変わらないな」
孝太は背もたれに深く預けて言った。
「そのようですね、ただ別情報があります。そのHVDの製作には斑鳩君のお父様も関わっていました」
がたん、先ほどの比ではない位の音が響いた。
「先ほども言いましたが、落ち着いてください藤原君」
「…………判っている」
不満げに孝太は椅子を戻し座った。見れば孝太は既に怒ってはいなかった、熱しやすく冷めやすいのが孝太の性格なのだろうか。
「ちゃんと聞いてから怒るかどうかを決めてください。斑鳩君のお父様はHVDを作る事を善しとはしていませんでした。ですから万が一の為に破壊の術を立ててたのです」
うん、とシンが頷いた。それはあの説明書じみた紙の束に書かれていたことだろう。
「当時、彼のお父様は刀作りの刀匠でした。なぜ彼が機関に入ったかなどは不明ですがHVDを倒す武器を作っていたと言う事は事実です。
「おい、それって………」
孝太は自分が握っている物に力を入れた。
「お察しの通り、『榊』と『斑匡』です。その刃はHVDを有効に消滅させられる唯一の武器、そしてマスターコアを使用する事によって『榊』は歯切れを最大にすることが出来るのです」
そこまで言うと唯が思い出したように手を叩いた。
「そうだ、そのマスターコアって何?コアじゃないの?」
三人もはっとしてローゼンを見た。
「勘のいい人ですね。ええ、あれは純粋百%のコアです。ただアレに取り付く能力は存在した時から無かったようですが、それにどこぞのばかが箱に詰めて生み逃がした挙句雲隠れしましたし」
感情の入ったローゼンの声。どうもそのばかと何かあったらしいが聞くに値しないようだ。
「斑鳩君のお父さんは見事ですよ、まともな研究もなしに刀とマスターの力を同調させたのですから。まあ失敗は五分五分でしたけど」
「無鉄砲だな、おまえの親父」
「……………昔から、遊び好きだったからな。賭博とか」
家庭の一面を知られたシンは少し恥ずかしかった。
「私は、未来のためになると言うから組織に入ったと言うのに、暴走したHVDに対して組織は対策をとるのを焦らし、結果はみての通り。各地に散らばったHVDを討伐するために色々な人間が派遣されました。私もその一人です。最近では今の組織を壊そうと別な方々も動き出していますがそれは別な話しですので止めます。必要なのは目前に居る親玉を倒す事ですから」
決意の様な言葉と共にローゼンは言った。
「お前の考えは判ったよ、それでイリスは何て言ってきたんだ?こうなったら行く所まで行かねえと気がすまない、教えろよ」
決して中途半端な声ではない、孝太の意思をローゼンも了承した。この終わりの近い戦いに向けてローゼンは今日あったことを話し始める。
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