作品名:奇妙戦歴〜文化祭〜
作者:光夜
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「俺に考えがある、まずは職員室だな」
孝太は一人部室を後にして職員室へと向かった。
「孝太の機転に任せるしかないな」
そうだねと葵は頷いた。
「確かあの時は各クラスに用紙を渡して厳選三十人、一般客を合わせてだけど、それを予定していたよな、いまからじゃあ全員に紙も回らないし、集める事も不可能に近いな」
それでも孝太は考えがあるのだろう、シンは信じて待つことにした。
数分後。
「今帰ったぞ〜」
孝太はなにやら重たい物でも引きずって来たのか背中から中腰で中に入って来た。
「お帰り孝太、早速だがその「がさがさ」いっているのは何だ」
シンは孝太が引きずってきた物を指差した。
「職員室にな、無理を言って、一番大きな紙を貰って来たんだよ」
そう言って長さ二メートルのロール紙を見せた。
「これに枠を書いて、申込書が遅れた詫びに生徒三十人、一般客十人、計四十人の申し込みをするんだよ、紙は回してられないからな、早い者勝ちだよいしょっと」
紙を机に置くとはみ出てしまった。仕方なく下ろして床に置く事にした。
「な、良い考えだろ。ん、どうしたんだ」
孝太は止まっている三人を見て首をかしげた。幾分呆けているようにも見える。
「孝太、それ、いつから考えたんだ」
やっと言葉を口にしたシンは孝太に質問した。
「は?変な事を聞くな斑鳩は、さっき気づいたんだからその間に考えたに決まっているだろうが」
それがどうしたと孝太は聞き返した。
「流石孝太、いい考えっ」
いきなり唯は孝太の背中を叩いた。
「痛って〜!」
孝太は前のめりに倒れかけた、すぐに起き上がり唯に向くと
「何すんだ、痛いだろうが!」
そう怒鳴ったが今度は唯が抱きついてきてまた倒れた。
「やっぱり頼りになるよね孝太は、ありがとう〜」
物凄くはしゃいでいる唯を目の前にして孝太は。
「なあ斑鳩、何がすごいんだ俺?」
と言う顔だった。
「お前の行動力には敬服するよ、それよりも作業に入ろうか」
シンが手を差し伸べると孝太はそれに掴まり立ち上がった。
「それで、どう言う風に書くんだ?」
シンが丸まった紙を見ながら尋ねると
「そうだな、クラスと名前を書く欄を媒体にシンプルかつ派手に書こう」
何だか無茶な注文と思ったが燻っている暇も無いので作業に入ることにした。唯と葵が紙を広げると何と同じ大きさの紙が重なっていた事に気がついた。
「孝太、こんなに貰って来たの?三枚もあるよ」
少しずつ紙をずらして三枚ある事を確認した。
「おお、実際は一枚だったんだがな、一ヶ所だけだとどうも目立たない気がしてな、三ヶ所に同じ物を貼る事にしたんだ、その中から三十人を決めるんだよ」
何所まで頭が回るのか孝太の脳を見てみたいと思ったシンだがそれは置いておこう。
「で、実際に貼る場所は?」
葵が紙の一枚を一生懸命広げながら言った。
「人が集まる場所だな、まず食堂、それと昇降口、後は・・・・唯の好きなところで良いぞ」
いきなり自分に振られ唯は私?と自分を指差した。
「ああ、唯の好きなところ、何所がいい?」
孝太に言われ、少し考え込んだ後、はっと思いついたように手を叩いた。
「じゃあ、格技棟、運動部の人たちが集まりそうだよね」
運動部=剣道部=剣の有段者=自分達が負ける確立UP。孝太の頭の中で三段論法(?)が確立された瞬間だった。
「ちょっと待て唯、俺に負けて欲しいのか?」
孝太は唯の肩を掴んで訊いた。
「まっさか〜、勝手欲しいから得意な人たちも参加できるように格技棟を選んだんだよ、だめ?」
唯の言葉には濁りが無い、言っている事は唯の本心であることも孝太にはよく解った。だからこれを拒否すると唯の信用を失うかもしれない、墓穴を掘ったとは言う無かれ、孝太は既に後悔しているのだ。
「・・・解った、残りは格技棟にしよう」
言いたい言葉を飲み込んで孝太は頷いた。孝太にとって物凄く疲れそうな文化祭はすぐそこまできていた。
「ま、こんな物かな」
作業を始めて一時間弱、二人ずつ分担した結果先にシンと葵の法が申し込み用紙を描き終えたようだ。三十人分の枠を中心に説明書きを加え葵の画力で回りにイラストを付け加えているシンプルなつくりだ。
「こっちも出来たぜ」
少しずれて孝太の方も書き上がったようだ。名前を書く枠は書き始める前に話し合いをして同じ物で統一する事にしたが回りに描く絵が自由となっている、二人で描いたのだろうか、デコトラ(デコレーショントラックの略)に描かれるような写楽に似た絵やら、カラフルに描かれてはいるのに何の絵だかハッキリしないモノが所狭とあった。どちらが何を描いたか一目瞭然だが、果たしてこの紙に名前を書く人がいるのだろうか。
「どうだ、中々のもんだろ?」
孝太はよほど自信があるのか絵の評価をシンに求める。だがどう見たって募集の紙ではなく何処かの落書きにしか見えなかった。
「え、ああ、まあ・・・いいんじゃないか」
評価の仕様も無くシンは適当に言いつくろった。
「お、そうか、何だ俺美術部にでも入った方が良かったかな」
孝太は自分の絵が誉められたと勘違いし、まさに自画自賛していた。
「それよりも、もう一枚の方も書こうよ、四人で始めた方が早いし」
葵が三枚目の紙を広げていた。シンも逃げるようにそちらを手伝った。
「そ、そうだな、早い所始めよう二人とも」
孝太と唯を誘って作業を始めた。シンの急かす態度に首を傾げた唯、すぐに孝太に呼ばれその思考は闇の彼方へ飛んでいってしまった。
その後、三十分ほどで三枚目を書き終えた。まあ二人で一時間なら四人なら単純計算で半分という事になる。
「よし、十分乾かしてから貼りに行くぜ」
油性ペンを机の上に転がし孝太は椅子に座った。
「ん・・・」
良く見ると机の上でキックンが人形のような倒れ方で寝ているのを発見した、人形なのだからそうなのだが。三人はなにやら話しこんでいるようでこちらには向いていない。
「・・・・」
とたん、興味を持ったのか孝太がキックンを引き寄せてなにやらじっと見ている。
「・・・・(つん)」
おもむろに米神を突くと首が「かくん」と反対へ倒れた、筋肉の無い百パーセント布のキックンは重力に逆らう事が無いので寝ているときは完全に人形と化していた。
「・・・・(!)」
このアクションに更に興味を持ったのか孝太はもう一度反対側から突くとまた、かくん、となった。
「(・・・・おもしろい)」
完全に遊びに目覚めたのかその後もキックンを起さない程度に「かくん、かくん」と首を何度も揺らした。夢中になって顔がにやけてきたとき
「孝太・・・」
と、名前を呼ばれたとたんビクッと体が震えた。
「・・・・」
恐る恐るキックンから顔を上げると机に頭だけ出している唯の姿が見えた。
「・・・は、ははは」
冷や汗を流して笑う孝太を見る目がなにやら疑いの眼差しと似ているのは孝太の見間違いか。視線で「楽しいの?」と投げかける唯は孝太をじっと見る。何を言ったら良いのか解らず重圧に負けそうになる、唯が何気なく
「孝太ってそう言うの好きなの?」
なんて訊いてきた。
「な、バカっ!・・・な訳あるかっ!」
慌ててキックンを机に放ると立ち上がって弁解しようとする。だがその行為も自分で無意味と思ってしまう孝太は結構。
「初心」
ボソッと唯が呟くと孝太の顔が見るからに赤くなっていった。シンと葵が見ていないのが幸いだったといえよう。
「ま、そんな孝太でも私はいいけどね」
唯は何かを諦めたように言った。
「ま、まて唯。俺にも弁解を・・・」
この後孝太は男の威厳を取り戻すために休日の昼を奢る羽目になった。それは置いておいて後ではシンと葵が出来上がった表を見て話していた。
「やはり、青山も出るんだろうか」
シンは一番心配な事を口にした。
「そうだね、出るかも。もしかしたら進藤さんも」
薫の名前も出てきてシンは溜め息を吐いた。
「ただでさえ剣道部の人が来るかもしれないのに、おまけに青山と進藤、防ぎきれるかどうか」
連続試合の様子を思い浮かべているのだろうか、頭を抱えた。
「そう心配する事も無いよ、シン君なら大丈夫だから、ね」
何の根拠も無い一言、それでも今のシンには葵のこの笑顔と一言で事足りた。
「そうか、善処してみるよ」
軽く笑って葵の笑顔に答えた。
「はあ、じゃあ、貼りに行くか……」
落ち込んだ声の孝太が紙を持って出ていってしまった。シンと葵は何があったのか知らないのでどうしたのだろうと意見を交わした。机の上ではキックンがいまだに寝ている。
「まあ、ここら辺で良いだろう」
孝太は壁に貼った紙を見て頷いた。そんな孝太とは反対に隣で作業を見ていた唯は困った顔をしている。
「ねえ、ほんとにここで大丈夫なの」
唯は孝太に聞いた。
「大丈夫だ、剣道部の俺が言っているんだから間違いない!」
間違いないを強調していってみせた。
「でもここって……」
唯は壁に紙が貼られる前の状況を思い出した。数分前までここには剣道大会への意気込みが書かれた部員全員の半紙が掛けてあったのだ。今ではその半紙も床に無残に散らばっていた。
「まあ、確かにあいつらの意気込みを散らばしたのはよくないからな、ちゃんとしたところに貼ってやろう」
落ちた半紙を拾い集めると反対側の壁へと向かった。
「本体側なら誰も文句は言うまい」
そう言って壁に貼り始めた。唯もその作業を手伝う。五分後―――
「よし、終わり」
孝太は満足そうに言った。
「って、孝太!なんで主将さんのが反対なのよ」
唯はただひとつ逆さまに貼られた剣道部主将の半紙を指差した。
「あれ、おっかしーなー。ちゃんと貼ったはずなんだけどなー」
かなりわざとらしく孝太は言った。結構主将にやられていたことを根に持っているのかもしれない。二人が貼るのは一枚だけなので二枚担当のシンと葵に合流するため部室へ戻ることにした。
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