作品名:探求同盟−死体探し編−
作者:光夜
← 前の回  次の回 → ■ 目次
 「はあ、無駄に疲れたな」
 本堂、爺さんは当の昔に就寝しているし、他の連中も寝ているだろう。俺は無人の本堂で、釈迦の像を背中に外を眺め見た。俺と釈迦の間には例の骨壺がある。実際問題、八割がた片付いたといっても、まだ未解決な部分が多すぎる。
 「横山を襲った影、その正体と理由、なんで壺が盗まれたというのに盗んだ本人に自覚はないのか」
 帰り道で、明から聞かされた情報を入れるとこうなるが、どれもこれも解らないことだらけだった。
 「まあ本人に聞くのが一番なんだろうけどな。横山の父親」
 俺は首だけ振り返ると、骨壺の傍らで立ちすくんでいる男に目をやった。横山の父親だ。今は亡きその姿を、俺の目だけが捉えていた。
 「君には、いや君たちには、迷惑をかけた」
 「謝るのは明にしろ。あんただろ、スミスキーとかって言う男に明を襲わせたのは」
 「・・・・・・そうなるね」
 なにが、そうなるね、だ。さも当然のように言われることが、どれだけ腹立たしいか、大人だったこの男は理解できないだろうな。
 「無事で何よりだったが、代わりに全部話してもらうからな。そもそもの発端は、あんたが壺後と盗まれたところからだ。どうしてそうなったのかを言ってもらおうか」
 必要なことだけを聞くだけでいい。俺も眠い、明日も出掛けないとならないからな。長話をする気はない。
 「ひとつ、勘違いがある。私は、盗まれたわけではなく、自分の意思でそこから出たんだ」
 「―――――ああ、まあそういう言い方のほうが、おおむね正しいな」
 その程度のことは、明抜きでも俺には解る。俺が聞いているのはそういうことじゃねぇ。
 「私は、偶然私の墓の前を通りがかった彼に目をつけたんだ。彼は君よりも微弱だが、素質があった。見えないものを感じるね。だから、私という念が強く願っただけで、彼は簡単に操れたんだ。そして、私の変わりにお墓から出してもらって、移動させてもらった」
 「なるほど、明の話しからして、そうだとは思っていた。なるほど、想念による人体操作ね。あんた、記憶の癖に妖怪レベルの存在だな。そんなに娘に会いたかったのか?」
 この男は、はじめて会ったときから娘に会いたいと強く願っていた。だとしても、何故その男を操って会いに行かなかったのだろうか。
 「否定はしないよ。でも、君は勘違いしている、私は娘に会いたいと思ったのは気まぐれだ。本当の理由は、別にあるんだ。会いたい人が、もう一人いる」
 「・・・・・・・あの黒い影と関係あるのか?」
 「黒い影?誰のことかな」
 「知らないから聞いている。必死に、ヨコヤマと名前を口にして、憎いと何度も口にしていた。置いていかれた、とも言っていた」
 俺は特に気にした風もなく続ける。だが横山の父親は、そうかと残念そうに肩を落とす気配を見せた。全てに繋がりがあるのは明白だ。
 「黒い影は、あんたに用があったんじゃないのか。だがあんたはおらず代わりに娘が犠牲になった。だから、娘に会いたいなんて、言ったんだろう」
 「そうかもしれないね」
 「はぐらかすな。どちらにも隠すだけのメリットもデメリットもない以上は、吐いてもらう。いいか、少なくともあんたはあんたの妙な行動のせいで娘を泣かせた。痛い思いをさせた。誰にも見えないあんたには償うことが不可能だとしても、今ここで懺悔にもにた告白をするだけで、あんたはそれで救われるはずだ。後のことは、俺たちが背負ってやる」
 いい加減に俺を寝かせろ、と目で訴えた。男は、肩をすくめるととつとつと語り始めた。
 「まあ、正直君が娘を狙っていると思ってね。ちょっと様子を見せてもらったんだよ。何せ行動が迅速だ、心配にもなるさ。でも、見たところあっちの子のほうに気があるみたいだし。まあいいか」
 今、俺は始めて個人的な感情で目前で笑っている男を殺したくなった。骨壺を持ち上げると庭に向けて投擲のフォームを取った。
 「待った待った待った!私が悪かった冗談だからそれは止めてくれ本気で止めてくれ!」
 「身の程を弁えろ」
 「・・・・最近の子は恐いっていうけれど、まったく」
 「壺、割るぞ」
 「解った、解ったから待ってくれ、話すから」
 結局、ここまで来るのに夜の三時を回っていた。それから数十分、俺は横山の父親と話して、寝床に着いたのは四時を過ぎていた。くそ、これで明日は寝不足が決定だ。


← 前の回  次の回 → ■ 目次
Novel Collectionsトップページ