作品名:探求同盟−死体探し編−
作者:光夜
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「俺は、何も覚えていないんだ。こんなものを必要と思ったことはないし興味もない、第一罰当たりなことはしない。これでも信心深いんだ。昔から悪いことをしたら五分と待たずに、痛い目にあっていたから・・・・」
「スミスキーさんの言い分はわかりました。自分が悪い事をしていると理解しているのならそれで良いです。
最初に言ったとおり、僕は探偵でも警察でもないので、あなたを説得ないしは自主を進めることはできますが、確保することは出来ません。する気もありません。
ここで、僕が話しを聞くことですっきりするならば、僕は何時間でも付き合いますが、この壺は返してもらいます。これの帰りを待っている人がいるので」
「あ、ああ、もちろん持って帰ってくれ。そして、その人に返してあげてくれ、本当は俺が謝らないといけないんだろうけれど、どの顔を下げて会えばいいか解らないし・・・・・」
「解りました。それじゃあ、もって帰ります」
これで一件落着。僕は壺に視線を戻した時、スミスキーさんは最後に聞いてきた。
「でも、探偵でも刑事でもないなら、君は一体―――――」
「僕は、キリアですよ」
そう言って、今度こそ壺に手を触れようとした時、そのおぞましい感覚が背中を駆け巡った。それは一瞬には寒気のように感じられるけれど、どこか違う、畏怖の視線だった。
「・・・・・なにか、憑いてる」
触れた瞬間、まるで誰かの視線が触れたような感覚がした。その視線はただ見ているだけじゃなくて、ある種の感情までも僕に向けていた。
怨み。
怒り。
憎み。
そのどれとも取れない恐怖を感じさせる視線を、僕は一瞬で体感することになった。まずい、この壺には僕が触れてはいけない何かがある。でもそれだと納得できない。ならどうして、スミスキーさんはこれを触れたのだろうか。
「う・・・・・うぅ・・・・・っ」
「スミスキーさん?」
僕が壺に気を取られていたとき、彼の低い呻くような苦しい声が聞こえてきた。視線を向けると、心なしか体も震えているようだった。
「ううう・・・・・うああああああああああっ!」
「なっ―――――」
僕が驚く顔をするのと、なんだか獣みたいになったスミスキーさんが僕を床に押し倒すのと、果たしてどちらが早かっただろうか。そんな比較を要求しないといけないくらいに、事の展開は迅速で、それ故に窮地だった。
「うう・・・・ああっ、ああああああっ・・・・」
逆上、ではない。どう見ても今のスミスキーさんは先ほどの温和な雰囲気などなかった。コメカミからは血管が浮き出ているし、目も鬼気迫るというよりも殆ど白目、まるで肉食系の動物のように歯をむき出しにして、腕二本で応戦する僕に噛み付こうとしている。
「な、なんで―――――」
なんでこんなことになったんだろう。僕はただ、壺を返してもらうだけだったのに、何でこんなピンチに?第一、どう見ても人間の所業じゃないよこれ、なにか異常なことが起こっている。
原因は―――――あの壺!
「って、体良くちょっと光ってる・・・・」
覆いかぶさる形で僕に噛み付こうとするスミスキーさん、その両肩に手を当ててこれ以上接近されないようにしているけれど、基本的に僕は女の子だよ、男性の力にかなうはずがない。この拮抗も、いつまで続くか解らないけれど、もう駄目かも―――――
「あああああ、あああああっ」
ぐい、と私は一度服を掴まれて浮かされた。一秒にも満たない浮遊の後にまた床に叩きつけられた。
「くあっ―――――」
その衝撃が、肩を抑えていた両腕の力をなくしてしまった。自由を手にいいれた猛獣は、私の首に向かってその牙を剥きそして―――――
「ぎゃあああああああああああああああああ」
なにか電気的な痙攣を見せて仰け反りかえった。勢いがあまって反対の方へ倒れるほどに。何事?
「・・・・・・・・あ、まさか」
私はすぐさま内ポケットに手を入れると、それを取り出した。紫の巾着に白い紐で結ばれた、典型的な形のお守り。今朝、光夜に渡されたものだった。
『いいか、明、お前にはお前にしか出来ないことがある。それは、俺には絶対出来ないことだ。片腕とか拘るんじゃねぇよ、お前が骨の在処を暴かなけりゃ、次に進むことは出来ねぇんだっての』
ああ、そうか、そうだった。僕がこれを取り戻さないと、向こうで光夜が戦っている意味がないんだ。これは、気休めでもなんでもなく、光夜はちゃんと言っていた。
『いいか、俺のことは心配するな、去年のお前にもどれ。ただ目的のためだけに、お前はお前を活用しろ。それが無理なら、これを使え』
そうだ、僕は光夜の右腕とか拘る必要はないんだ。だって、僕らは二人で『探求同盟』で、僕は光夜の補助でも助っ人でもない。僕は―――――
一際明るく際立つ壺。もう怪しまない、怪しむだけ怪しんだんだから、これで罪だ。
「僕は、僕なんだよ。自分の感情に素直になっていい、僕の気持ちは僕だけのものだ」
そのお守りを、壺に叩きつけた。
「起きるまで待つことは出来ないから、ごめんね」
未だに気絶しているスミスキーさん。たぶんもう大丈夫だと思う、原因の壺も大人しくなったし、彼も心配ないだろう。この壺は、光夜がくれたお守りで大人しくなったけれど、油断は出来ない。急いで光夜のところへ戻らないと。
「覚えていたら、そのバンドの曲を一回は聴いてみるね」
それだけ言って、僕はそのアパートから退散した。お守りと骨壷を抱えながら。
「光夜は、まだ病院かな」
急ぐ足で、僕は光夜が待機している病院へと駆け出した。
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