作品名:探求同盟−死体探し編−
作者:光夜
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 会場から歩くこと十分、結構近くに彼の家はあった。何のことはないアパートの一室が彼の部屋だった。2LDKに一人暮らしという、平均的な社会人の一人暮らしという感じで、部屋はそれほど汚れてはいない。むしろ家具が整理されているので、普通よりはきれいだ。
 「結構、綺麗なんですね」
 「まあ、ね・・・」
 彼の声は暗かった。それもそうだろう、彼は何かを知っているし、それを理解している。理由はわからないけれど、ここまで動揺されて今更弁解されても信用はないね。
 「スミスキーさんの部屋を散策したり、長居するつもりはありませんので簡潔に―――――骨壷を返してください」
 「・・・・・わかったよ」
 そういうと、奥に部屋に移動し何かを移動させる音が聞こえた。その直後に、抱えるには丁度いい大きさの壺を持って彼が現れた。丁寧にテーブルの上に置くと、彼は言った。
 「これが、その壺です」
 「確認しますね」
 僕は壺の蓋を開けると、中に遺灰があることを確認した。人体の大きさや死んだときの状態にも寄るけれど、まあ確かに遺灰はそれなりの量が入っていた。
 「俺は―――――」
 「はい?」
 遺灰を確認しているとき、不意に重い声でスミスキーさんが話し始めた。
 「俺は、何でこんなものを持っていたんだろう・・・・」
 「・・・・・・はい?」
 「知らないんだ、これをどこから持ってきたのか・・・。いや、今はニュースでも報道されたから知っているんだけど・・・・俺は、なんでこんな人の大切な物を持ってきたのか、記憶がないんだ」
 それは、今ここで聞くにはイレギュラーすぎる内容だった。てっきり僕は彼が神骨宗教かなにかの人間かと、今の今まで思っていたのに・・・。いやでも、確かに部屋の内装は最近の若い人間のそれだし、宗教的な何かも部屋の中には見当たらなかった。
 じゃあ、なんだって彼は、骨壷なんかをお墓を掘り返してまで盗んでしまったのだろう。
 「盗んだ記憶がない・・・・盗む必要性が見当たらない、ということですか?」
 「ああ、そうだよ。俺はこんな罰当たりなことが出来るほど馬鹿じゃない。だから、逆に恐くて、これまで警察にも届けられなかったんだ・・・・」
 それは、懺悔のようだった。確かに警察に言えば、自分は如何なる理由であろうとも窃盗や墓地の破壊を行ったことに変わりはない。彼は知らずのうちに犯罪に走っていたことが恐くて、同じ位に警察に捕まるのが怖くて、今日まで怯えながらこの壺を保管していたのだろう。
 「聞いて良いですか、この骨壷を持ち帰った日のことを」
 「・・・・はい」

 スミスキーさんは、骨壷を持ち帰った日のことをとつとつと話し始めてくれた。
 その日スミスキーさんの仕事は午前中に終わったそうだ。彼の仕事は空いている貸事務所なんかに、新規のテナントが入ったとき、事務用品―――――つまりデスクとか棚とかを作ったり運んだりする事務所専用の引越し業者の仕事らしい。
 その日の作業は、たった一軒しか入っておらず、それも小さな雑居ビルの一室に机をいくらか運ぶ程度の仕事で、午前中には終わってしまったらしい。こういう仕事は事前に予約が入っていて、その日の仕事量が決まっているそうだから、その仕事を終えたスミスキーさんは事務所で着替えてお昼には退社したそうだ。
 昼食を適当なお店で食べた後、音楽好きなのでCDショップに立ち寄ったり、本屋に立ち寄ったりして、しばらく時間を潰していたそうだ。そして午後四時ごろ、帰宅するために帰路についたのだが、そのときあの例のお墓の前を通ったそうだ。
 そして家に帰ると、妙に体がだるい感覚とともに、手や足が泥だらけであることに気づいた。そして、今テーブルに置かれている状態と全く同じで、骨壷が目の前に鎮座していたそうだ。
 どうやって家に帰ったのかも、どうしてそんなものが家にあるのかも、スミスキーさんには解らなかった。唯一つ言えたことは、自分の手や靴が泥だらけであり、壺にもそれを裏付けるように手の形に泥が付いていた。自分がどこからか持ってきたのは明白だった。
 そして翌日のニュースで、事件の真相を知ったそうだ。


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