作品名:奇妙戦歴〜文化祭〜最終版
作者:光夜
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「よし、四つ目だな……はあ」
何とか目の前の敵を打破し一息つく孝太。残り六つとなったが孝太もあの時は緊急だったのだ、いくらなんでもここから先は闇雲にコアの残りを探すしかないのだが。とりあえず座ることにした。
「ああ、何か疲れたなあ。四匹倒して未だ被害ゼロはいいことだけど、残りが何処に居るのかが判らないんじゃあ探しようが無いし……………う〜ん、不条理だが体力回復に努めようかな」
こうなれば騒ぎが起きた瞬間に急いでで駆けつけるしかないだろうと寒空の下寝転んだ。ちょうど四体目が出たところが芝生のあるところで助かったのだが、ここはガス工場で間違えれば大爆発だったのだ。
形が成された瞬間を狙って孝太は切り込んだ。
「ああ、そういえば斬ったとき、なんか気持ち悪かったな」
手のひらを見て先ほどの感触を思い出す。
「何か、羽化したばかりの昆虫みたいな―――――やばっ、思い出したら寒気が………」
肩を震えさせて頭を振った。
「はあ、原型は堅くて、なんで変化すると生物になるんだろう……ローゼンに聞いたら判るかな?」
緊迫感のかけらも無いようなことを雲を追いながら考える。時折見える月の影はすぐに雲で隠れじれったささえ覚える。
「ま、いいや。それよりも残り六つを何とかしねえと、なっ」
飛び起きて次はどこかと道を見渡すが当てなど無い以上耳を澄ませるしかない。
だが、耳など澄ませることなくそれは届いた。街中からの何かが壊れる音。右、左、奥。五感で探れるだけでも三つ以上の場所からだ。
「くそっ……!出るのを待っていたからって何だって複数なんだよ。訴えてやる!」
悔しそうに言いながら走る孝太、だが口元はやっとこれで終わると言う笑みがこぼれていた。
繁華街はやはり夜中といっても人の姿は多い。多分いつもなら会社帰りの大人とか、自販機の前で群がる若者とか、コンビニで買いもする人がいるはずだ。
そんな面影を残さず車道のど真ん中に腕を組んで鎮座するコア、まるで誰かを待つように座る地面は何かの衝撃でえぐられ見事にクレーターが出現していた。そう考えれば回りの壁や店の破壊も肩慣らしなのかもしれない。市民への被害は皆無のようだ。
「はあ、まるで野武士か何かの類だな」
孝太は間合いを取るようにゆっくりとクレーターへと近づく、とその主が腕を解き立ち上がる。孝太はすぐさま攻撃ができるようにと背中の鞘に手をかける。と、コアはあろう事か手のひらを向けて静止を促してきた。
「?何の、つもりだ」
敵の意図が判らずその場に立ち止まる。
「まあ、待て」
と、コアが言葉を発した。それもタイラントと違い完全な人語だ。
「おまえ、喋れるのか!?」
これは少々孝太も驚いて目を見開いた。姿勢は崩さないものの今の隙は大きい、もし斬りかかられていたら孝太は痛手を追っただろう。何せ相手の腕はどこかで見た物と同じ鋭い刃になっているからだ。
「ふむ、鍛錬が足りないな。そんなことでは今の隙を突かれるぞ小僧」
「こ、小僧!?」
あろう事か流暢に挑発をかける始末。別にそれに乗ったわけではないが思わず声を強めて復唱してしまった孝太は何だこいつと言う顔だった。
「驚いたな、お前らみたいなやつでも会話が成り立ちそうなやつもいるんだな」
関心と敵意を入り交えて孝太は彼へ問いただす。
「ん、なあに。能力配分の違いだ、知能指数が高いだけで小僧よりは格段しただろうがな。………ん、おおすまない。小僧、小僧と五月蝿かったか?ならば名を言えばよかろうが」
指摘なのか莫迦にしているのか彼は孝太と対等な立場で会話を進める、完全に面食らった孝太は彼が言うように微妙な顔つきになっていたのだろう。だが、そうも言ってはいられない孝太は頭を振って思考を正す。
「そうだな、何かおまえ人徳がありそうだし名乗っておくのもいいかも知れねえな。俺は藤原孝太、フルネームはいけすかねえんで、孝太でいいぜ」
「コウタ、か。ん、良い名だ。親に感謝しろ」
「親って、お前らにそんな感情があるのかよ」
単細胞分裂みたいにコアが増える過程を知っている孝太としては親、と言う単語を口にする目の前の彼はさぞ不思議に見えたのだろう。だが。
「そう言うな、これでも知識だけは多くてな。人並みに世のことを理解しているつもりだ、それとも人成らざる者が人を語るのは滑稽かコウタ?」
早速教えられた名前を使うところも人間じみている。こいつなら会話だけで事を済ませられるかもしれない、それにもしかするとそれ以上――――――仲間と言う単語が孝太の脳裏をよぎる。
「うむ、主は少し勘違いをしているな。先も言ったがそのような隙では私に首をはねられるぞ。先頭に支障をきたすことは止めてもらいたい物だな。もとより我らは主らを消すための道具に過ぎぬ。
もし、話し合いなど考えるようであればそれは無駄なことであり―――――――」
と、彼は一歩孝太に近づいた。その一歩、間は十メートル以上と言うのに先ほどの会話には無い感情が込められている。
「う………」
その感情に気を緩めた孝太は簡単に押され逆に後退してしまった。
「我らへの侮辱ぞ、コウタ」
静かに、だが人としての威厳を持った彼はまた一歩孝太にに近づいた。
殺気――――その一言では済まされないほどの感情が迫ってくる。
自分は愚かだった。何が話し合いだ、何が仲間だ、あれは単に多くの会話を持ち世の理を把握しているだけの人の形を模した化け物ではないか。理解のはてに孝太は交渉の望みを捨てた。いや、初めからそんなものは希望的観測に過ぎないと孝太は誰よりもわかっていたのかもしれない。だが、そんな感情に流れた自分は目の前の敵よりももっと愚かしいと心で罵倒した。
「へへ―――――、そうかよ」
口元が緩む。愚かしい自分へではなくこれから起こる感情を剥き出しにする戦闘への笑み。考える必要など無い。必要な思考は体を動かし事を有利に運ぶ―――――身体のみ。
「いいぜ、そうこないとな。俺は別に世間話をしに来たわけじゃねえ。いけすかねえ考えをする異分子の排除をしに来たんだ」
思考は会話を止め、行動のみに徹する無の要塞となった。感情は闘、先制を取ればこちらが有利ただそれ一点。
「む―――――――」
彼も孝太の心変わりを感じ取り足をとめる。その間合い、五メートル。もし踏み込むのなら一瞬でそれはゼロとなるだろう。
「さあ、やあっと、俺らしくなってきたぜ」
「ほう、なら最後に言おう。私の名だ。何、小僧が来る前に思いついた何でもない言葉だ」
人らしい侮辱を残し、最後にこう言った。
「我が名は―――――黎」
それを残し互いに一歩踏み出す。
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