作品名:奇妙戦歴〜ブルース・コア〜
作者:光夜
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 ガッシャン!ドタ

 葵がフェンスから落ちた。
 「いたたたた、あ〜あ制服汚れちゃったな、まいっか」
 スカートの裾をはたきながら葵は立ち上がった。
 フェンスに鍵がかけられたときしばらく立ち尽くしていたが意を決してフェンスに上った、上まで上がった所で手を滑らし落ちたのだ。
 「あ!追いかけないと」
 そう言って林の中を駆け出した。

 ガサガサガサ

 しばらく歩くと大きな階段が目の前にそびえた、段数はざっと数えて一万はありそうだった。
 「そっか、ここ龍寺に行くための『一万階段』があるんだっけ」
 ほんとに一万段あったのかい!
 ともかくここは『一万階段』と言い上った先には『龍寺』と言う廃寺がある、住職が亡くなってから立ち入りが禁じられた数少ない子供達の遊び場だった所。
 「懐かしいなあ〜、昔唯と遊びに来てたっけ」
 少々思い出に浸る葵。


 ミーン ミーン

セミがせわしなく木で鳴いていた。
 「あははは、まってよ〜唯ちゃ〜ん」
 「早く早く葵ちゃん!」
 龍寺の境内ではしゃぐ女の子の陰が二つ、幼き日の葵と唯の姿だった。その姿を微笑ましく見守る住職。
 葵と唯は境内のいたる所で遊んでいた、昆虫採集に追いかけっこ、住職との会話と色々と遊んでいた。
 思い出を想像していた葵が何かに気づいた。
 (あの時唯ともう一人誰か居たような・・・・)
 もう一度思い出に戻る葵。
 「そうじゃ、わしの息子とも遊んでくれんかの?お〜いシン、シンや!」
 住職が呼ぶと奥のふすまが開き中から葵達と同じ年の子が出てきた。
 「わしの息子のシンじゃよ、シン遊んでおいで」
 「うん」
 そう言ってシンは葵達と遊びに行った。

 「そうだ!あの時シン君が居たんだ、住職さんが亡くなって引っ越したんだっけ」
 階段を見つめていた葵が顔を上げ一気に駆け出した。

 たったったったった

 しばらく走っていると流石に息が切れ歩く事にした。
 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ〜つ、着いた〜」
 やっとの事で階段を上がり終えると目の前にお寺が見えた。
 「ここでシン君と遊んだんだよね・・・・・あ!」
 境内を見回していると進の姿を捕らえた。
 (見つけた!もう絶対に見逃さないようにしないと)
 少しずつ葵は進に近づいて行った。

 ジャリ

 少し砂を踏んでしまい音が出た、葵は息を潜めていたが進は気づいていた。
 (・・・・・・しつこいな、これ以上はまずい・・・・・)
 進は走り出した。
 「あ!」
 葵も負けずに後を追ったここまで来て見失いたくないと言う意地があるのだ。


 タタタタタタタタ

 タッタッタッタッタッ

 「あ!あそこだ!」
 ついに努力が実り進が建物に入るところを目撃した、造りからして一軒家だ。
 (とりあえず物陰に!)
 そう思い近くの木に隠れる事三十分カーテンは閉じていて中は確認できない。

 ガラ――――

 突然玄関のドアが開き私服姿の進が出てきた。
 (何するのかな)
 見ているとドアに張り紙をして中に戻った。何を張ったのか葵は進に気づかれないよう(と言ってもあれほど大きな音を出して気づかれていないと思っているのか?)静かにドアに近づいた。
 「えっと何々?『いつまでそこに居る気だ、風を引くぞ』・・・・・つまり、中に入れ、と?」
 確かに夕方にしては風が冷たい、このまま居れば風邪をこじらせるだろう。
 「そっか心配してくれて・・・って尾行ばれてたんだ」
 あたりまえだ!
 「ん?何今の声・・・・・まいっか、それじゃあお言葉に甘えておじゃましまーす」

 ガラ――――

 とドアを開け中に入った。


 「俺の勝ちだな、唯は返してもらうぞ」
 呆然とする男達に言ったが聞こえていない様子だ、何故なら彼らは画面に釘付けになっていた。
 「そ、そんな・・・・・バカな・・・・・」
 「最高得点の・・・・に、二倍なんて・・・・・・ありえねえ・・・」
 ゲームの結果孝太は二人に勝った上に全国ランキング一位の二倍得点をとっていた。
 「勝ったねー孝太!」
 「ああ、ゲームは得意だって言っただろ?じゃあなお二人さん」
 そう言って唯と立ち去ろうとした時。
 「待ちやがれ!こんなのイカサマだ、もう一度勝負しろ今度は一対一でだ!」
 なんと理不尽な、この文句に孝太は呆れた。
 「何言ってんだ、ルールはルール俺の勝ち・・・・・・」
 するといきなり孝太に拳が浴びせられた。

 ドゴ!

 「ぐあ!」
 頬に拳をくらいその場に倒れた。
 「こ、孝太!何するのよ孝太は勝ったじゃない!殴るなんて卑怯よ!」
 「う、うるせー!そうやって粋がってる奴が一番嫌いなんだよ俺は!」
 目に涙を浮かべながら唯は更に言い返した。
 「粋がってるのはそっちでしょ、負けた上に暴力なんて男のする事じゃないわよ!」
 「そーだそーだ!かえれー!」
 いつのまにか集まっていたギャラリーが唯に賛同して帰れコールを男達に浴びせた。
 「かーえーれ、かーえーれ、かーえーれ」
 「く、くそ、行くぞ!」
 「待てよ!」
 孝太を殴った男が振り返った。

 ガス!

 立ち上がった孝太は男に拳をぶつけた。
 「ぐえ!」
 「これでおあいこだ!さっさと出てけ!」
 そう言われた二人はそそくさと帰って行った。
 「大丈夫孝太!?」
 「あ、ああ大丈夫だよこれくらい」
 孝太は立ち上がり服をはたいた。
 「痛っ!口の中切ったかな?」
 見ると口の端から血が出ていた。
 「あ、待って孝太」
 唯はハンカチを取り出し孝太の血をふき取った。
 「さっきはありがと孝太」
 「ん?ああ別にかまわないよ、売られたケンカを買っただけだよ」
 「でも孝太は私を助けてくれたよね」
 「そうだな」
 そう言って二人は店を出て行った。


 家の中に入った葵がまず初めに気づいたのは家の造りが和風と言う事だ、とりあえず客室と思われる部屋に入り休む事にした。
 「ここに居ればその内進君も来るよね、まずは探検、探検」
 そう言うや否や立ち上がり部屋中を観察し始めた、戸棚はもちろんの事押入れや床の間、置いてある小物もチェックした。
 ふと天井に目をやるとパネル写真が目に入ってきた。
 「あ、進君のお父さんかな、どれどれ・・・・・・え?」
 葵は写真を見て驚いた、数人の人が写っている中で知っている顔が写っていた。
 「和尚様!?え、どう言うこと?和尚様はシン君の・・・・まさか!」
 葵が何かに気づいた時後ろのふすまが開き進が出てきた、進は少し驚いているようだった。
 「・・・なぜ入ってきた?・・・紙は見たのだろう?・・・」
 「え、あ!・・・・うん見たよ、だから入ってきたの」
 どうも話が噛み合わない。それもそのはず進はいつまでも付きまとわれるのが嫌になり『そこに居ても意味は無い、風邪を引く前に帰れ』と言う意味で紙を張ったのだが葵は紙を見て『風邪を引くと大変だから中で休んでいけ』と解釈したようだ。
 「・・・・・俺は帰れと言う意味で・・・・」
 「ああそっか、そういう意味だったんだ?」
 ようやく気づいた葵を見て進はため息をもらした。
 「・・・・・解ったら早く帰れ・・・・」
 しかし葵は出て行くどころか・・・・。
 「まあいいじゃない、ところでさっき見たけどこの家少し汚れてるね」
 「ああ、・・・・・じゃなく俺は!・・・・」
 「このままじゃその内病気になっちゃうよ、せっかく来たんだし掃除してあげるよ」
 何を言っているのか進には理解できなかった、人の家に上がり込んだ上に掃除をするなんて。
 葵は掃除機片手に家中を綺麗に掃除して回った。
 掃除が終わると次は料理に掛かった。
 「・・・・おい、何で料理まで・・・」
 「え?何でってコンビニ弁当だけだと栄養片寄るから」
 「何故それを・・・・・」
 見るとゴミ箱のフタが開いていた、中にはコンビニの弁当のゴミが見えている。
 「はぁ〜〜〜・・・・」
 つまりはゴミの中まで調べたと言う事だゴミを見ればその家の生活が解ると言うが、それを理解した事よりも葵の強引さにいつも以上にため息が出た。
 (・・・・まずいなこのままじゃいつ気づかれるか・・・・・)
 葵を見ながら進は深く考え込んでいた。
 一方葵は・・・・。
 「フン、フン、フフ〜ン」
 何て鼻歌交じりに料理を作っていた。


 都会のビルとビルの間に夕日が沈んでゆく、ここは田町病院の屋上孝太の怪我を見てもらうため唯が連れてきたのだ。
 「よかったね、口切っただけで」
 「ん?ああそうだなまだ痛いけど・・・」
 そんな会話をしながら夕焼けを見ていた。
 「今日楽しかったか唯・・・と言っても楽しかったわけ無いか、あんな事があれば」
 少々落ち込み気味の孝太の言葉に唯が首を振った。
 「ううん、そんな事無いよ確かに怖かったけどちゃんと助けてくれたし。それにネコも取ってくれた!」
 「そうか?ならよかったよ、俺ももうちょっと鍛えないとな」
 そうだねと唯が笑った。
 「そしたらまた守ってくれる?」
 「ああ」
 そう言うと唯はポケットからさっきのキーホルダーを取り出した。
 「それとこれ、お守りにするね」
 「好きにしろよ、そんな大層な物じゃないがな」
 唯はキーホルダーを大事そうにポケットにしまった。
 「じゃ、行くかそろそろ?」
 「そうだね」
 孝太は唯を家まで送ることにした、夕日はもう沈み夜が始まった。
 日が沈んだ所に動く影が見えたのは気のせいか?


 一方こちらは気まずい食卓が繰り広げられていた。
 (う〜んどうしようちょっと強引過ぎたかな?進君怒ってるかも・・・)
 食事をしながら時々葵は進の方をちらちら見て顔色をうかがった。
 進は眉ひとつ動かさず食事をしていた、そんな進の表情が葵には怒っているように見えているのだが本人は・・・・
 (・・・・料理まで作ってもらっておいて追い出すのは・・・・・しかし・・・・)
 と、本人なりに考えていた。この悪循環が食卓を静かにしていた。それにしても進は何を慌てているのだろうか?
 (それにしてもあの写真絶対そうだ!・・・・・よし)
 「ね、ねえ進君?」
 「ん?」
 ついにこの食卓に会話が発生・・・・
 「え、あ、その・・・・何でもない・・・・」
 「そうか・・・」
 しなかった、だがそこに救いの手が。
 「あの写真、気になるか?・・・・・」
 「え、あ、うん前に亡くなった龍寺の住職さんの写真でしょ?」
 「そうだ」
 なんと進の方から会話が飛んできた葵はこの機を逃すまいとして続けた。
 「私もね、小さい頃唯とあの龍寺で遊んでたんだ・・・・あ、唯って言うのはねさっき一緒に居た娘だよ覚えてる?」
 「ああ」
 進は生返事をして味噌汁をすすった。
 「でね、小学校の夏休みに唯と遊んでいたら和尚様が息子さんと遊んでくれって言ってきたの」
 進の手が止まった。
 「その子供の名前は?・・・・」
 随分と真剣な表情で聞いて来た。
 「え?えっとシン君って言う名前だよ」
 「・・・・そうか・・・・」
 ため息をついた進は食器を洗い始めた、葵は座ったまま考え込んでいた。
 「ねえ進君?どうして誰とも話さないの?・・・・」
 食器を洗う手は休めず答えも返ってこない・・・・・いや違った。
 「・・・・朝、化け物を見ただろ・・・・」
 「・・・うん・・・」
 背中越しに会話は流れている。
 「あの化け物の親玉が俺の父を殺したんだ」
 「え!」
 今まで聞きたかったことよりも身内が殺された事に葵は驚いた。
 「敵討ち・・・・・それじゃあここに一人で?」
 「そうだ、だから必要な情報を集めている」
 「そうだったんだ・・・・・なら、なおさら人と会話をしないとだめなんじゃ・・・・」
 (やはり運命か、これ以上は無理なのか?)
 進が自分に言い聞かせた後重い口を開いた。
 「だめだ・・・・・もし仲良くなった者の前で俺が死んだら悲しむ者が増える・・・・それに泣いて欲しくない奴がいる・・・・」
 葵は気がついたのだ進が会話をしない理由に、誰とも話さないのは彼なりの優しさなのだ。
 進の後ろに葵は立った。
 「でももう無理だよ、私あなたに興味持っちゃったもん・・・それに会話をしなくても人一人が死ぬのは悲しいよ・・・」
 そう言って進の背中に額を当てた。
 「・・・・・そうだな、これ以上の沈黙はかえって葵を傷つけることになるかもな・・・」
 「え?何で私の名前・・・」
 進が振り返り葵を見た。
 「前の名前は斑鳩 真也あの写真に写っているのは俺の父だ」
 「住職さんがお父さん・・・と言う事は・・・シン君!本当にシン君なの!?・・・・」
 突然の事に葵は驚きを隠せ無いでいる。
 「ああ本当だ、久し振りだな・・・・・葵・・・・」
 そんな葵を落ち着かせるため優しく微笑んだ。
 シンは父親のために敵討ちをするため化け物の後を追っているらしい。
 「俺は敵討ちと言っているが実際はこれ以上の犠牲者を出したくないんだ」
 「そうだったんだ・・・・それはともかくまた合えてよかったよシン君・・・・あれ?進君?・・・・どっちで呼べばいい?」
 「好きな方で構わないよ」
 「じゃあシン君」
 「なんで?」
 「ないしょ〜」
 悪戯っぽく葵は言った。
 「ところで、話は戻るけど和尚様を殺したのはあの化け物なんだよね?」
 「・・・・ああそうだ、あの化け物の親玉が突然やってきて父を殺した・・・」
 シンは悔しそうに言った自分が幼いときのこととは言え鮮明に覚えていた。
 「あいつら何なの?」
 「俺はブルース・コアと呼んでいる」
 「ぶる〜す・・・・こあ?」
 「ああ、あいつらの親玉は最初赤くて丸い玉になって空から境内に落ちてきたんだ、庭にあった岩に取り付いて人型になりどこかへ消え去った」
 「それからずっと探していたんだ?」
 「ああ、北の方から南の方まで探した・・・けど『灯台下暗し』だった、この町のどこかにやつがいる」
 「そうなんだ・・・・はい!じゃあ暗い話はここまで私お風呂貰うね、シン君追いかけていたら汗かいちゃった」
 そう言ってその場を立ちふすまの前で止まって振り替えた。
 「覗かないでよ」
 「な!おい!」
 「あはははは、まあそう慌てない慌てない」
 慌てるシンを笑いながら葵は風呂場へ行った。
 風呂から上がり戻ってきた葵は少し休んだ後帰ることを告げた。
 「そうか・・・途中まで送るよ」
 「うん」
 そう言ってきた道と逆に歩いて行った。
 「ここだ」
 しばらく歩くと壁が見えた。
 「あれ、行き止まりだよ?」
 「まあ見てろ・・・・よいしょっと」
 シンが壁を押すと切れ目が見えてきた。

 ゴゴゴゴゴゴ、

 音を立てながら扉のように壁が開いた。
 「うわ〜すっごい仕掛け!」
 「父の趣味だよ、からくりは至る所にあるんだ」
 壁の向こうは商店街の入り口付近へつながっていた。
 「和尚の癖にあの階段は疲れるって言うからこれ無断で造ってたんだ」
 「あははは、面白い人だったもんね・・・・・じゃあね」
 「ああまた明日」
 歩こうとした葵がシンに振り返った。
 「どうした?」
 「私だけじゃなく、クラスの皆とも仲良くしてね」
 「そうだな、解ったそうするよ」
 二人は笑いながら別れた。
 これから先何が起こるのか?ただ一つ言えるのはシンがクラスに溶け込む決心をしたと言う事だ。
 次の日葵が学校に行くとシンの周りに輪ができていた。
 葵は微笑ましくそれを見ていた。
 (よかった・・・・あ!そうだ唯と孝太にも昨日の事話さないと)
 後から来た唯と孝太に事情を話した。
 「え!シン君だったの、斑鳩君?」
 「へー昔の知り合いで敵討ち・・・・か、何だそうならそうと言ってくれれば協力したのにな」
 シンは二人に申し訳なさそうに頭を垂れた。
 「ごめん二人とも」
 「いいんだよ、それよりも私たちも協力するからね」
 「・・・・ありがとう」
 あおいにお礼を言って更に何か話そうとしたがクラスメイト達に連れ去られていった。
 「あはは、大人気だねシン君」
 「そうだね」
 まあ、なにはともあれ一件落着・・・・・・か?

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