作品名:RED EYES ACADEMY V 上海爆戦
作者:炎空&銀月火
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「親父! どこだ! 麗香! 母さん! 伽羅!」
 屋敷の廊下で紅い水たまりを見つけ、司乎は立ち止まった。黒い目が、大きく見開かれる。その中で、瞳が揺れていた。
「…母…さ…ん?」
水たまりの中にあったのは、真っ赤に染まった悪夢。
 原形を留めないほどに穴だらけの身体。
唯一、本人だと分かるのは水たまりの中の服。
―変わり果てた、母親だった。
「…あ…あぁ…」
悲鳴を上げたい。しかし、口から漏れるのは言葉にならない音ばかり。頭の中が真っ白になり膝から力が抜けていく。
 司乎は、その場にへたり込んだ。
 目を背けたい。だけど、硬直した体が動かない。
見開いたままの虚ろな瞳から、殆ど無意識に涙がこぼれ落ちる。
―そしてうつむいた司乎の頭には、固い感触。
「貴方の両親は、知ってはいけないことを知りすぎた…」
後ろから聞こえる声は、よく知った声。
―さようなら、呉・司乎君…。
 虚ろな瞳に映ったのは、紅い瞳の少年。幼なじみの伽羅であり、血色の瞳をした化け物。そして、次の瞬間には水たまりに紅い水が降り注いでいた。
―同じ色をして、微妙に違う紅い水が。
「…何故。何故だ、伽羅」
「……答えろ、化け物!」
 司乎の悲鳴と、もう何も写さない紅い瞳が紅の湖に沈んでいった。

「…何故だ…」
後ろ手に麗香を庇いながらその父―呉・寡舎は呟いた。
目の前にいたのは執事として永年勤めていた男。凍るほどの冷笑を浮かべ、彼は紅い眼を歪めて微笑んだ。
「好奇心は時にその身を滅ぼす…貴方は知りすぎた。たかが人には過ぎたことだ…」
寡舎のあとに隠れた麗香は男の目を見て悲鳴を上げる。
―細いヘビのような瞳孔に、緋色の眼。
「…バ…ケ…モ…ノ…」
「そう、私達は人ではない。レッドアイという、最も神に近い“新成人類”だ。
…今度こそ、さようなら。“マスター”」
鈍い銃声のあとで、麗香の前で“それ”が崩れた。
「次は君だよ、お嬢さん。怖がらなくても、すぐにお父さんのところへ…」
行かせてあげるよ、と言いかけた口が途中で止まる。
「お…ぐぁ…」
開いた口から血が漏れる。少し経って真っ二つになった身体が、床に転がった。
「…はぁっ…はぁっ…」
その向こうから現れたのは荒い息をついている、司乎。
 血にまみれた身体を床に立てた刀に預けて、司乎は溜息をついた。
「お…兄…ちゃ…」
言いかける途中で意識が消える。
麗香はその場に崩れ落ちた。
 意識が闇に落ちる前、残った意識が一つの言葉を脳に刻む。
(レッドアイ…緋眼の、化け物…)
「麗香!!おい、麗香!!」
崩れる彼女を片手で受け止め、司乎はその場に膝をつく。
―小さい頃からの剣術が、初めて役に立った。
床に刺さった日本刀を抜き、サッと振って血を払う。
 片腕に麗香を抱え、もう一方に刀を担いで司乎はその場を立ち去った。
―復讐という、どす黒い想いを胸に秘めて…。


お詫び
こちらのミスにより、第一章の次が第三章になっております。単なる番号のミスなので、物語上の不都合は一切ありません。なお、今後は本章を4、次章を5、としていきます。
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