作品名:転生関ヶ原
作者:ゲン ヒデ
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縄が解かれ、おね自ら、果心居士を部屋に上げ、膳の世話をした。
出された膳を食べ、おねが注ぐ酒を飲み終えると、、
「羽柴秀吉公の奥方は、噂に聞く美しい賢婦人であらせますなあ……はて?」果心は、おねを見つめていて、どこか遠くを見ているような目になった。
「あの、果心さま、何か?」
「ああ、あなた様の前世が、ちらっと浮かびまして」
「前世?」
「あの衣服と髪型、はて? ……おそらく、はるか昔の、高貴な方の生まれ変わりでしょうな」
「高貴な方の、生まれ変わり……嬉しいことを、ほほほ……で、どなたですか?」
「あなたさまの心の奥から、前世の記憶を呼び起こす幻術をすれば、思い出されるかもしれませんが……ただ、余人には、見せられぬ秘術でして」
すぐさま、おねは、控える者らを下がらせた。
果心が、なにやら呪文を唱えだすと、まもなく、おねの周囲に霧が立ち込んだ。すぐに霧が消え、自分が馬に乗っていて行列の中にいる。何だか祭の行列のような感じではあるが、後ろから、駆けて来る馬が近づいた。乗っている人物は、主人・秀吉である。だが、 髪型が古代のみずらに結ってある。
「ハシヒト、そなたまで朕を見捨てるのか。何故だ!? な、そなただけでも浪速の宮に留(とど)まってくれ。太后(おおきさき)まで出ていったら、朕の立場はどうなる」
「大王さま、母と兄には逆らえません。許してください」自分が苦悩しながら話している。
秀吉に似た人物は、あきれ果てた表情で、
「なんという、者たちだ。姉上、中大兄(なかのおおえ)、大海人(おおあま)、お前たち、大和に戻れば、三韓への対応が手遅れになるのを、まだ分からないのか。浪速の宮なら、新羅を征服できる地の利がある。一番弱い新羅が唐と手を結ぶ前に、征服しなければ、後々後悔するぞ」
輿に乗った肥満気味の初老の女人の横で、馬に乗った男が、吐き捨てるように、
「叔父上には、付いていけませぬ。三韓が統一されるなど、ありえませぬ。叔父上は勝手になされい。皆、急ごう」
……その光景が消ると、目の前には、膳だけが残され、果心の姿は消えていた。
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