作品名:小さくても大きな命
作者:風下
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今日から、夏休み。

唯ちゃんは、考えた。

和希君が友達という楽しみを見つけたように、
自分も何か楽しみを見つければいいんじゃないか。

即、有言実行。

たまたま仕事が休みだったお母さんと、少し遠くの植物園に行った。
唯ちゃんは、植物園に着くなり
野菜コーナーへ、真っ先に向かう。

なんで、野菜かって?

それはね、さっきテレビで見たからだよ♪
何の苗にしようか?
そう思ったとき、はっきりと目に入った文字があった。

『トマト』

唯ちゃんは、一目惚れしてしまった。
…もちろん買ってもらったよ♪

早速家に帰って、植木鉢に植えてみた。
途中、土が顔や洋服についたりしたけど、
そんなことにも気づかないほど夢中になって作業をしていた。
そして、やっと苗も植え代わり、
自分より少し小さいくらいのジョーロに水をため、
緑が鮮やかな葉っぱに水をやってるときに実感する。

あぁ。
これから毎日、私だけの楽しみがあるんだ。
誰にも邪魔されない、私だけの喜び。
小さな緑色の実が生っているけれど、
私がこれから育てていくんだ。
今はまだ、雨が多い時期だから、
お日様が隠れているときは、
私がお日様の変わりになって
このトマトをおっきくさせるんだ!
このトマトが、例え“ミニトマト”という種類であっても!

このことを、和希君は知らない。
知ってるはずがない。
でも、このことだけは知っていた。
少し前まで、唯ちゃんが発していたどんよりオーラが、
次の日見かけたときの唯ちゃんにはなかったこと。
そして、毎日毎日同じ時間、
隣の家の中まで聞こえる、大きな大きな“鼻歌”を歌っていたということを。

《時間が過ぎる共に伸びていく茎や蔓。
時間が過ぎると共に伸びていく心や体。
そんな彼らに、命の成長を感じないだろうか。

人間は、命があるからこそ生きている。》
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