作品名:妄想ヒーロー
作者:佐藤イタル
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恋愛に関して非常に臆病な僕は、未だにツキコちゃんに好きだという事実を伝えていない。故に六年間片思いなのだ。毎年、今年こそ今年こそと思っているが、上手く言えた例はない。大体、上手く言えていたら、未だにこんなドギマギしている必要すらないのだ。
でも彼女は本当に可愛いので、他の男にいつ先を越されてもおかしくないとは承知している。

現代の女性には少ない、ツヤのある真っ黒な色をしたおかっぱ風味の髪型は、僕の感性を芯から揺さぶった。
体格は小柄で性格は優しく、年齢から見たら標準より少しだけ幼さの残るような顔立ちだ。因みに頭も冴えている。
気立ても良いし、周りからも好かれている。きっと正義感も溢れているに違いない。これほどまでに適役な人物は校内中探してもなかなかいないだろう。

そう、僕が生徒会長を引き受けなかった場合の第二候補は、彼女だったのだ。
だからこそ僕は役職を引き受けざるを得なかった。僕があの時断ってしまっていれば、彼女が多大な苦労を背負うことになっていたのだ。
やりたくてやっているわけではないが、ヒロイック・サーガに少しだけ憧れを抱いている僕としてはこの生徒会長という仕事を引き受けてよかったと思っている。
何せ僕は、強制生徒会長という役職の魔の手から、ツキコちゃんというヒロインを救い出したという、言わばヒーローなのだ。
それが空想だから、優越感に浸れるのであって、現実の僕はきっと彼女を助け出す前に悪にやられてしまうだろう。
夢から覚めてしまえばそれまでの話で、ただ僕は押し付けられた仕事を断れなかった小心者にすぎない。彼女を救ったわけでも何でもないのだ。

現実に直面する度に、僕は心を沼底に沈められたような気分になる。

そんな心を救ってくれる彼女を一言で語れば、清楚な女の子だ――――たった一箇所を除いては。
しかし僕はそんな事を気にする程、心の狭い男ではない。なにより、彼女のそこに惚れこんだのだ。

そんな彼女に、以前井上君が質問していたこと。ずばり、
「どんな奴が好み?」ということ。 その質問に聞き耳を立てながら僕は知らない振りを努めていた。あくまで振りだ。実際には興味津々すぎて、身を乗り出したいくらいだった。
うーん……と悩んだ挙句に彼女が出した答え。

――――運動ができる人か、面白い人。
僕は愕然となった。どちらも、僕には当てはまらない条件じゃないか……!

それでも努力はした。面白い人、というのは努力の仕様が無かったので、運動ができる人を目指した。
井上君と一緒に休日に町内一周ということも挑戦した。
結果二分疾走して息が上がった。「体力ねぇな」と井上君にも馬鹿にされた。どこかの某宇宙ヒーローより一分も早い。

そうなのだ。僕は運動音痴なわけではない。いや、多分。
根本的な問題だった。運動をするセンスが無いのではなく、体力がないのだ。
エネルギーが無ければ、車だって走らない。それと同じだった。原因は分からないが、自分は体力が人並み以上に少ない。
その事実、僕は認めざるを得なかった。




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