作品名:マリオネットの葬送行進曲
作者:木口アキノ
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『調査ネットアプリケーション起動中』
 モニター画面に文字が点滅する。
 ここは、再びG.O.D情報室。もう深夜である事から、人の姿もまばらである。
 こんな調べ物、しかもどうでもいい内容の調べ物なぞ、明日になってからでも良かろうに、ミューズは一晩も待てなかったらしい。
 G.O.D本部に戻ってくるなり、リオンを半ば引きずって、情報室へやって来た。
 画面が変わり、『調査項目を選択せよ』の文字と、各コンテンツが現れる。
 ミューズは迷わず『ヒューマノイド製造番号』の項目を選らぶ。
 アルファベットと数字の組み合わさった番号を入力すると、多少の待ち時間の後、画面には、1体のヒューマノイドの情報が映し出された。
「あら。外見は随分違うのね」
 リオンの言う通り、そこに映った画像は、先程見たヒューマノイドとは、顔の形状が違っていた。しかし、顔面皮膚形状を変えるなんて事は、ヒューマノイドには別に珍しい事ではない。ただし、そうした場合、すぐに登録の画像を取り替えなければならない規定にはなっている。
 画像の他に現れた情報は、通称名、製造年、起動年月日、製造工場、歴代所有者等……。
「彼の名前は、『パルサー』っていうのね。素敵。よく似合うわ」
 どの辺が素敵で、よく似合うのか、リオンにはちょっとわからなかった。
「製造年は、あたしよりちょっと年上ね」
「あんた達の世界って、製造年によって年上とか、年下になるんだ」
「あら、人間だって、そうでしょ」
 ミューズは、何当たり前の事言ってんの?とリオンの顔を見る。
 そう言われれば、そうなのかもしれないが、それでも、製造年と生年では、感覚的に違いはある。
「それにしても、随分所有者が変わっているのね」
 ずらりと並んだ歴代所有者リストを眺め、リオンは言った。
「そうね」
 と相槌を打ちつつ、ミューズは、リストのカーソルを、下へ下へと動かす。
「あ」
 そして、2人は同時に声をあげた。
 所有者リストの最下欄。ここには通常、現在の所有者が明示されている筈だが。
 2人は、そこにある文字を読み上げた。
「盗品、手配……」
 そして、顔を見合わせる。
「リオン、これって?」
「書いてある通りよ。盗まれた機体だって事ね」
「じゃあ、彼は」
 リオンは、指先で顎を撫で、思案する。
「密輸出するため盗まれたのね。今日、プログラムを実行していたのは、密輸グループが、パルサーの動作確認をしていた、と考えて間違いなさそう。だったら、あの場所にあったのは、盗品が殆どかもね」
「ねぇ、パルサーはどうなっちゃうの?」
 ミューズが悲痛な声をあげる。
「明日明後日には、バラバラで宇宙空間へ、って所かしら」
「そんな!」
 ミューズは、リオンの目をじっと見て、
「何とかならないの?」
と訴える。
「何とかったって」
 パルサーを輸出しようとしているのは、間違いなく、アストログローバル社であろう。しかし。
「今の私達の状況は、わかっているでしょう」
 ミューズは唇を結んで黙った。そう、今、彼女達に実動活動は禁止されている。
「私だって、これから起こる犯罪を知っていて、何もしないなんていうのは嫌よ。こっそり動けるものならそうしたい。でも、それが出来るほどの装備もないわ」
 リオンは諭すように、しかしきっぱりと言い放つ。
「……じゃあ」
 しばらくの沈黙の後、ミューズが口を開いた。
「じゃあ、あたし1人で何とかする」
「ちょっと、ミューズ?」
 リオンは驚くが、ミューズの瞳が、彼女の意志は本物だと語っていた。
「だって、あたしはヒューマノイドだもん。ロボットだもん。武器なんかなくたって、なんとかなるわ」
「あんたの心意気はわかったから、バカな事は考えないで頂戴」
 リオンは、ミューズの頭を撫でて、諫めたが。
「バカな事って言うけどっ。本気で恋するって、こういうものよ」
 こつん、とリオンの肩に頭をつけ、ミューズは震える声で言う。
 どうやら、彼女の考えは変わらないようだ。
 リオンは、はー、っと長いため息をついた。 

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