作品名:なんちゃってソードレボリューション
作者:殻鎖希
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フィズ「ターミアル城下町。城下町とは名ばかりのど田舎。一地区としても決して広くない上、町と呼べる代物が一箇所しかないのがいい証拠だ。かろうじて歩道だけは整備されているものの、利用者は極めて少ない……と」
ミレア「これだけ歩いてるのに……まさか、休憩所の一つもないなんてね」
フィズ「ここまで徹底して過疎が進んでる田舎も珍しいよな。一応、他地区との交流もあったらしいけど」
エリ「ていうか、何で馬車を使わずに歩いてるの?」
フィズ「おわ!お前は確か〈クルーヴ〉での会話シーンのラストに突然登場した女じゃないか!」
エリ「何言ってるの?私、このお話が始まった頃からずっとあなたと一緒にいたよ」
ミレア「……この手の小説では適当なところで自己PRをしておかないと、完全に無視されたままで話が進んじゃうから、気を付けないとね」
フィズ「ていうかちょっとは喋れよ、エリとやら。
 あんた一体何者なんだ?」
エリ「私?秘書だよ」
フィズ・ミレア『……秘書?』
エリ「秘書だけにひっしょり(ひっそり)と黙ってたの」
フィズ「さ……寒い。( )を使って解説を加えてる辺りが余計に寒いぜ……」
ミレア「このギャグの寒さ……きっと彼女は水使いね」
フィズ「つ〜か、俺達に秘書なんて者がいた事自体初耳なんだが……」
ミレア「そう言えば、某所で一度だけ制作された事のある、漫画版『ソードレボリューション』にはそんなキャラが登場してたような気がするけど……」
フィズ「ああ、そう言えばそんなのもあったな……」
ミレア「オリジナル版(シリアスな小説)の『ソードレボリューション』シリーズには登場しないキャラだからすっかり忘れてたわ」
エリ「ね〜ね〜、何で馬車使わないの?」
フィズ「あ〜、もう!うるせえなぁ。馬車使うと金かかるんだよ。このラスロウドだって、決して狭くはないんだぞ」
エリ「エリ、疲れた〜」
フィズ「皆、疲れとるわぁ!
 しかし……こんな辺鄙な環境で起きた不可解な事件、か。
 ミレア。今回の仕事はかなりの危険を伴う。薬の準備、念入りにしといたよな」
ミレア「……うん」
フィズ「どうも嫌な予感が頭から離れないんだ。ただじゃ終わらないと思うぜ」
ミレア「エリが登場した時点で、すでにただでは終わっていない様な気もするけど、これ以上に何かが起こる、という事ね。
 ところで、フィズ。いつからかしら?」
フィズ「そこの道端に突っ立っている奴の事かい?ついさっきまで息を潜めてたって感じだぜ。出現がいきなりすぎる」
ミレア「誰?」
フィズ「お前の友達でもないんだろ。だったら俺も知らない」
エリ「あ、エリの友達かも知れないよ〜。ちょっとメール送ってみるね♪」
フィズ「送らんでよろしい」
ミレア「この世界には携帯電話とかないから。お願いだから勝手に設定を変えないでね、エリちゃん」
フィズ「まるで緊張感がなくなってしまって申し訳ないんだが……さっさと出て来な。
 それとも、ミレアの弓の的になりたいのかな?あるいは、一つ試し斬りでもさせてもらおうか……」
エリ「あるいは、エリとメルアド交換しよ〜」
フィズ「さあ、どうする?」
魔危「……では、メルアドを交換させてもらおうか」
エリ「やった〜♪」
フィズ「ノ、ノリの良い奴だな……
 女、か。おそらく俺達より少し年上くらい……」
魔危「成程。素人ではないようだな」
エリ「エリ、凄いでしょ〜」
魔危「いや……貴公に対して言っているのではないのだが」
ミレア「確かにエリちゃんは色んな意味ですごい人だけどね。流石はフィズの秘書だけの事はあるわ」
フィズ「秘書として機能しているんだろうか?漫画で登場していた時とは、かなりキャラが変わっている様だが……まぁそんな事はどうでもいいさ。
 痺れたぜ、あんたの殺気。これだけの美人に凄まれちゃ、振り向かないわけにはいかないよな」
魔危「随分と口の軽い男だな」
フィズ「そうかい?これでもけっこう苦労してるんだぜ。女性と話すのは苦手なんだ」
魔危「確かに。女性関係には随分と苦労しているらしいな」
エリ「……どうしてそこでエリを見るの?」
魔危「単刀直入に述べよう。ここから先に進むな」
フィズ「……嫌だと言えば?」
魔危「わざわざ訊かなければ解せないか?」
フィズ「三対一だぜ。どっちが不利なのか、よく考えてみろよ」
エリ「あ、エリは秘書だから、闘いとか出来ないからね!」
フィズ「……役に立たないのを一人除いても、二対一だぜ。さぁ、どうする?」
魔危「無意味にネタを晒すような真似は好まない。私にはそちらの趣味はないからな。
 拒否は許さん。さっさと帰れ」
ミレア「どうしても駄目なの?
 私達にも、行かなければならない義務があるのよ」
魔危「知った事か」
ミレア「いや……だから」
魔危「帰れ」
フィズ「……じゃあ、このエリだけを帰らせるっていう事でどうだ?」
魔危「いや、彼女を帰すのはメールアドレスを交換してからだ。私は貴公ら二人に告げている」
フィズ「……もしかして、俺達ってエリよりもランク下に見られてないか?」
ミレア「何か知らないけど、むかつくわね」
魔危「どうしても帰らぬなら、それも仕方がないだろう。貴公等は、私の前で笑い転げる事となる」
ミレア「え?笑い転げる……?」
フィズ「自信満々、笑わせる気たっぷりだな」
ミレア「ちょ、ちょっとフィズ。何だかおかしくない?」
魔危「せめてもの良心からの忠告だ。退け」
フィズ「やだね」
魔危「愚かな……
 ならば、望むが通りに聞かせてくれようか。史上最高のギャグというものを!
 聞くがいい!秘書がひっしょりと座っている!」
フィズ「……寒っ!」
エリ「わ〜、エリと同じだぁ」
ミレア「まさか、エリと同レベのギャグで史上最強を謳うつもりじゃあ……
 と言うか……闘わないの?」
魔危「まだまだ行くぞ!
 ダチョウ……脱腸!このハマチ……How much?カルピスに合う肉は?カルビっす!」
フィズ「……ッ?」
ミレア「速い……」
フィズ「しかも……面白くない」
魔危「なっ、何だと?気にしている事をぬけぬけと!」
フィズ「実は自分でも気が付いてたんかい」
魔危「クッ……困ったな」
フィズ「俺も風邪を引きたくないんでね。出来れば、その物騒なギャグをしまってほしい」
ミレア「寒さで言うなら、殺人級だものね」
魔危「………………」
フィズ「内容はともかくとして、大した速さじゃないか。何なら、惚れ直してやろうか?」
魔危「貴公には真似出来まい!って、いや誰も真似したくないし!」
フィズ「ム?今のは……さる東国に、古くから伝わるお笑いとやらの型か?
 ボケると同時に猛スピードで自分で自分に突っ込みを入れる。聞いた事くらいはあるぜ。一人ボケ突っ込みってやつだろ」
ミレア「いや、あの……東国にはそんな技が伝わってるんですか……
 もう、オリジナルの展開がどんなのだったか忘れちゃったかも」
フィズ「今に始まった事じゃないから許す!」
魔危「……驚いたな。一人ボケ突っ込みを知っているのか?」
フィズ「お笑いには興味があってね。知識面でも、古今東西なんでもござれだ。ところであんた、東国の出身なのか?」
魔危「………………」
フィズ「また、くだらねぇギャグを飛ばす気だな?だがな……あんたがそう来るならば、俺達にも考えがあるぜ」
魔危「ホウ。どんな考えだ」
フィズ「ズバリ!あんたを無視して、とっととターミアルに向かう!」
ミレア「あ、それ超名案」
エリ「やるぅ〜」
魔危「な……!
 ちょっと待て!この私の至高のギャグを聞きたくないというのか?」
フィズ「うん」
ミレア「絶対聞きたくない」
魔危「お、臆したか!私を笑わせようとしたところで、貴公らに勝ち目などない。忠告を聞き入れなかった愚かさ、とくと後悔しながら笑い転げるがいい!」
フィズ「いや、もう言ってる事が支離滅裂だし。
 じゃ、俺達ターミアルに向かうんで。達者でな〜」
ミレア「ごきげんよう〜」
魔危「ま、待て!貴公等……私を愚弄する気かぁ!」
エリ「ね〜ね〜」
魔危「ム?貴公だけは私の話を聞いてくれるのか?
 そうかそうか……ありがとう!心の友よ!」
エリ「メアド教えて〜♪」
魔危「………………」

フィズ「意外にあっけなかったな」
ミレア「あっけなかったも何もないでしょうに……」
フィズ「随分と時間をくっちまった。急いで町へ行くぞ」
ミレア「本当に無駄な時間だったわね。
 いつの間にか秘書のエリちゃんもいなくなってるみたいだし、今の内に急ぎましょう」
フィズ「よし!向かうはターミアル城下町だ!」
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