作品名:探求同盟−死体探し編−
作者:光夜
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 「明、悪いが依頼完遂の時間を早急に―――――何している」
 そこには、よく解らない光景が広がっていた。明は、まあさっきと同じようにパソコンを見ているが、なんで古西が当たり前のように抱きついているんだ。
 「あ、光夜お帰り。長かったね」
 「人聞きの悪い事を言うな、手がかりを探していただけだ。それよりも、何している」
 「ん、ちょっと掲示板に進展がね。もしかすると、今週中に探し物が見つかるかも」
 「本当かっ」
 その言葉に俺は机を叩いて座るのを止める。
 「ど、どうしたの光夜、食いつき良すぎるよ・・・・」
 「む・・・ああ、いや、なんでもない。後で話す」
 「そ、そう?ええとね、とりあえず現状を話すね。一応、ターゲットである『スミスキー』だけど、ライブの話で交友関係を深めようとしたら、そのライブに行こうって誘われたって言うところ。今度の土曜日にね、どうしたらいいと思う?光夜の意見が欲しくて」
 「て言っても、向こうは明のことたぶん女だって判ってるでしょうね。こう言うのって、誘うだけ誘って援助交際が目的の男もいるし。まあ、八神君が一緒に行くのなら大丈夫でしょうけれどね」
 良かったわねぇ、などと古西は明をからかって遊び始めた。なまじ抱きついているだけあって、なにか妙な光景になっている。
 「明、返事をしろ。土曜日、その人間と会う・・・・いや、会うのはあまりよくない、そいつを尾行(つ)ける」
 「それって、住居をあばくっていうこと?」
 「確認する必要はない、脅してでも、そいつを見つける」
 そう、そいつを脅してでも、骨を持っている確認する。いい加減、あんな見ていて苛立つものを野放しにはしたくない。娘に会いたいなら、好きなだけ会えばいい、それが今不可能なら、さっさと可能にして解決する。いい加減、安受けあいした事を後悔するべきだ、こんなことに関わること事態が俺には不快だ。だが、断りきれないのは、明が馬鹿だからだ。くそっ。
 「うん、じゃあ返事をしておくよ。たぶん、向こうが指示してくれると思うから、その近辺にいれば大丈夫だと思う」
 「なら、それでいい。土曜日、明後日か・・・・・」
 予定はたった。あとは決行するだけだ。一つため息を吐いて、理性を総動員させる。感情的になるな、まだ何も進んじゃいない、だがそれは直ぐにやってくる。だが、タイミングだけは逃してはならない。
 これは、大塚のときと同じだ。いい加減、見飽きてるんだよ、人の不安を感じている顔なんてものは・・・・。死んだ人間まで、不安なままでいられると、こっちは腹が立つんだよ。
 さっさと解決して、いつもの毎日に戻る、それだけだ。
 「ねぇ、なんで八神君はあんなに慌てた顔をしたのかしら?」
 「・・・・判らない。でも、なんとなくだけど、解る気がする」
 テレビでは、もうあの遺骨捜査の話はどこにも見当たらなかった。

 結局のところ、土曜日の午前一時に、街の外れにある時計灯のところで待ち合わせということになった。たぶん、あの『スミスキー』っていう人は古西さんの言うように、人を騙すとか連れて行くような人ではないと思う。
 新しいメンバー、つまり僕に、その場所での雰囲気やその他に慣れてもらいたいという考えから、進んで案内とか話とかをしてくれる、そういう普通に親切な人なのかもしれない。そうでなければ、逆に馴れ馴れしいと、向こうのほうが僕のことを警戒するに決まっている。
 友好的な人、そういうイメージを、文章だけど僕はスミスキーさんから感じ取れたと思う。だから、だから思ってしまう。そんな親切な人が、お墓を荒らして、他人の骨を盗んでいくような姿が想像できない、と。
 もちろん、まだそのスミスキーさんが判断だと決まったわけではないのはそうだけど、有力な候補であることに変わりはない。あのお墓の周辺を探したときに見つけたキーホルダーの飾り、その持ち主はスミスキーさんである可能性が高い。
 いや、あのリストが真実ならば、あの飾りは確かにスミスキーさんのものに他ならない。ただ、あの飾りが落ちていたという理由で、スミスキーさんがお墓を掘り返した人かどうかは断定できない。
 それを判断する、それが土曜日に僕たちが行うことだ。
 「それじゃ、私はここで」
 「うん、また明日ね」
 今日も今日とて同好会は終了。古西さんも、あのあとは運動部が再開できないと知ると、一日中僕らの部屋にいて、時折作業の手伝いをしていた。そのおかげで、なんと今朝見たあの大量のダンボールが半分まで減らすことに成功した。人手が多いって、いいなぁ。
人数を増やしたいのは山々なんだけれど、こんな同好会に入ってくれる物好きはいないし、光夜の噂だ誰も近寄らないし、それに僕自身が人を判断するから、結局人は集まらない。
だって、安息のための同好会に、中途半端な異分子を混ぜるわけにはいかないから・・・・
「こういうところが、まだ僕の悪い癖なのかな」
トラウマ、これは僕に植え付けられた人間嫌いの大元。コミュニケーションを巧くとれた光夜や古西さん、それに大塚君。でも、それ以外の人は僕に必要がなく、結果として僕は他人を遠ざける。
光夜との出会いだって大塚君の事件がなければ、今でも遠ざけていた。
古西さんは物好きだから、知らぬ間に僕を友達という関係にしてくれた。
全ては巧い事運べた事実。僕自身からは、なにも他人に与えていない。僕はただ、日々を生きているだけだ。こんな僕が、人を好きになる権利なんてあるのだろうか・・・・。
たぶん、ないのかもしれない。
ああ、でも、よく判らないよ、こんな自分のことなんて・・・・
「明」
「え?なに?」
「そのままいくと、電柱にぶつかるぞ」
帰り道、光夜と歩いていたことも忘れて声に驚いた。と、目の前に大きな影が現れる。光夜の言うとおり、電信柱があった。というか、殆どぶつかる寸前だった。
「お前らしくもないな、考え事か」
「・・・うん、ちょっと人権について」
「―――――は?」
僕の返答に光夜は妙な顔で見てくる。でも、実際に考えていたし、光夜にはあんまり聞いて欲しくないかな。でも、自分で勝手に話しているんだけれどね。
「僕は、人間が嫌いなんだよ」
「知っている。はじめてあった頃の空気感が、説明無しでも十分に伝わったくらいにな」
「だから、僕は人に何かを与えられる存在じゃないんだと思う。そんな僕に、人を好きになる権利なんて、あるのかな・・・・」
「・・・・・」
あれ、もしかして下らなさ過ぎて呆れられちゃったのかな。でも、それでもいいのかもしれない。光夜に呆れられるくらいに、僕は人としての役割なんてものが―――――
「必要ない」
「え・・・・?」
「人に好意を持つこと事態に、人間が好きか嫌いかという条件は必要ないだろう。好意ってのは、一方的な感情だ。人間嫌いだろうが、人間好きだろうが、一方的感情を持つこと事態に罪はない。権利も必要ない。
自分が誰を好きになるかなんて、それこそ自分で割り切れればいいだけだ。他人の目なんか、気にするな」
光夜はその細く鋭い目で、僕を見てきた。ああ、この目は、いつも僕の感情を突き動かす。この目が言うことは本当で、僕はそうなんだって思い知らされてしまう。でも、割り切ることなんて・・・・
「それにな、他人に好意をもてたのなら、それはもう、人間嫌いじゃないって事だろうが。何をわけの解らないことで悩んでいるんだ」
「へ・・・・・人間嫌いじゃ、ない?僕が?」
「当たり前だ。人間嫌いに、友達が出来るかよ。それとも、自分でもまだ人間は嫌いだって、思っているのか、明」
立ち止まって、光夜の背中を眺める。付いてこない僕に気づいて、光夜も立ち止まって振り返った。
「人間嫌いじゃ、ないのかな・・・・・僕」
「なら、古西のことはどう思っている。嫌いなのか?人間が嫌いってことは、古西のことは受け入れられないはずだ。だが、俺が見る限り、お前らは随分と仲良くやっているように見えるが」
「あ、それは・・・・・・・そう、だね」
納得するしかなかった。僕は、古西さんのことが好きだ。少なくとも、古西さんという人間は好きだと認めるしかない。なら、光夜が言うように、僕は人間嫌いではないのかな・・・・
「勝手に改善したのは、明お前だ。お前は、今まで他人から離れすぎていただけだ。改善の原因は、たぶん大塚の事件だろう。まあいい、過程がどうあれ結果はこれだ。なら、気にする必要はない」
「じゃあ・・・・」
僕は、期待と不安を込めて、光夜に言いたかった一言を、ここで言うことにした。駄目なら、それでいいかな。
「じゃあ、僕が光夜を好きになる権利も、あるのかな・・・?」
「・・・・・」
向き合ったまま、静かな時間が流れた。夜の帳も落ち、頼りない街灯の光だけが、僕たちを照らしていた。その刹那、僅かに光夜が笑ったように見えたのは錯角だろうか。
「さあな、俺は俺の気持ちに確証も把握も不可能だ。それは、お前だけが決められることだ。可能性だけなら、誰にだって口にすることはできる。現実に表すのも、本人しだいだ」
「それは、光夜の理論?」
「いや、感覚の理論だ。俺には、人を好きになる感覚が、よく解らないからな。だから、俺に人を好きなるならないは、判断出来ない。人から与えられる範囲なら、認めるほかない、そう言う事だ」
それは、自分には感情がないといっているようなものだ。そんなはずはない、光夜は感情的な人間だ、垣間見る姿はどう見ても感情的。けれど本人にその自覚はないという。なら、それはどういうことだろう。
「光夜、君の本質って、一体何なの?」
「お前がそれを聞くのか、俺を諭したお前が、あくまでも何も知らないという前提で聞き返すってのか?は、馬鹿らしい、本質は本質だ、俺に足りない全部だ。そうだな、喜怒哀楽で言えば、全部だ」
それは、何も持っていない、無感情者ということだ。違う、光夜は感情を持っている。全部がないはずなんて・・・・
「気にするな、それは俺の問題だ。そうだな、じゃあこう言えばいいか。少なくとも、今まであってきた人間の中で、お前は油断しても平気だ」
まるでとってつけた言葉、笑顔でも、なんでもない、無表情での言われ方は、どこか悲しいよ、光夜。でも、それが今の君の精一杯というなら、僕は認める。だから、じゃあ、僕が何とかするしかないよね。
「あはは、まるで糸のないマリオネットだよ、それじゃあ。駄目だなぁ光夜は、せめてパペットくらいにはならないと。うん、じゃあ、好きとか、嫌いとかじゃなくて、光夜を元に戻すことが、先決だね」
「・・・・・勝手にしてくれ」
半ば呆れた顔のまま、光夜は歩き出す。その後ろを、僕はなんだか楽しい気持ちで追いかけていた。やっぱり、恋愛感情はよく判らないや。でも、いつかは感じてみたいものだよね。



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