作品名:雪尋の短編小説
作者:雪尋
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「冬の怪談」


「そもそも、なんで肝試しって夏がメインなんだろうな……」

「背筋をヒヤッとさせて涼を得るためだろ。ほら、なんとなく幽霊がいる場所は冷気が漂ってるっていうし。ん? 霊気か?」

「なるほど。つまりこういう雪が降る日は霊気ならぬ冷気が漂いまくりだからわざわざ怪談をするまでもない、と。つまり拡大解釈すれば、冬ってのは幽霊の季節なんだな」

「拡大解釈というか、解釈の途中でおおいに道を間違えてるね。拡大誤釈だ。実際、怪談の舞台って夏か季節感が無いかのどっちかで、冬の怪談ってイメージ無いだろ」

「雪女とか……は、怖くないから怪談じゃないか。妖怪伝説だな」

「全てを凍らせる雪女……旦那さんとは布団の上で燃え上がったんだろうけどな」

「うわ下ネタ出してきたよこの人。最低だ」

「い、いいじゃねぇかたまには。ところで最近は夏場でも怪談特集とか減ったよな」

「ああ。テレビの話し。まぁーねー。うーん。科学が発達したからかな」

「夜の闇と一緒に、幽霊達も科学に駆逐されたんだろうな。電気発明したヤツは死ねばいい」

「もう死んどるわ。何百年前の話しだ。ところで冬の怪談なんだけど、アメリカとかじゃ、怪談って十月から十二月くらいまでがシーズンらしいぜ?」

「マジかよ。意味わかんねぇ。やっぱハロウィンとか関係あんのかな。……いや、そもそもあいつらに怪談なんて概念あるのか? なんかゾンビかゴースト、あるいはモンスターみたいなイメージなんだけど。映画化したらほとんどホラーじゃなくてアクション、みたいな」

「うぅ〜ん……まぁ、確かに。海外とかじゃますます季節感無いよな」

「ところでなんで俺達はこんな話しをしてるんだっけか」

「そりゃお前、アレだ、なんでだっけ。……ああ、俳句において幽霊を季語として使う場合、どの季節に当たるのか、というお題のせいだ。俺達って本当にヒマだよな」

「ヒマさ。こんな雪の降る夜に墓場にいるくらいだしな。やっぱ夏かなぁ」

「まぁ、夏だろうな。肝試しと聞けば浴衣とちょうちんをイメージするのが日本人よ」

「だよなぁ――ちょい待ち。静かにしてくれ。なんか気配がする。誰か来たみたいだ」

「あ? こんな真夜中の墓場に? そりゃヒマ人だな。まるで俺達みてぇだ」

「友達になれるかもな。って、静かにしろってば」


 二人が耳をすますと、なんだか賑やかな声が聞こえてきた。

 道の向こうからやってきたのは、どうやら大学生くらいのカップルらしい。
「怖〜い」だの「大丈夫だよ」だの「何かあったら守ってよね?」とか「任せとけよ。幽霊なんざ俺達のラヴパワーで一撃昇天さ」みたいな会話が聞こえてきた。冬の墓場でデートとは、実にイカれてます。

 そして二人はアイコンタクト。

(ラヴパワーらしいですよ)
(ラヴパワーですか)

(野郎二人でつるんでる俺達に対する挑戦状ですよコレ)
(ええ、そうですね)

(では)
(では)

((参りましょう))


 こうして二人は見事なコンビネーションでカップルを脅かし、ラヴパワーに勝利しました。



「虚しいね。友達になれたかもしれないのに、なんか衝動的に本能的にやっちまった」

「虚しいな。まぁしょうがないさ。こんな時間にここを通ったあいつらが悪い」

「でもやっぱり夏と違ってキレが悪かったわ。鬼火も出せなかったし、迫力も出せない」

「冬は性能落ちるよなー。そもそも直前まで脅かす気も無かったし。っていうか、なんでそもそも俺達は人を驚かせようとするんだ? 睡、食、性の本能の変わりに得た本能が『人を驚かせる』だけって」

「ますます俺達の存在意義がわからねぇ。あー! もう、俺幽霊やめたい」

「ははは。止められるもんなら止めてみろよ。あー、早く夏になんねぇかなぁ」


 二人の幽霊はそろってため息をつきました。夏は、まだ遠いようです。




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