作品名:RED EYES ACADEMYT
作者:炎空&銀月火
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「おはよーございます!今日からここの課に配属されることになったレシカ・アンドリューです!」
「同じくハデス・リコルダーです」
「・・・潮沢凛、生徒番号0798、元の所属はサクセサー」
一週間後、三人は登録手続きのために本部へ来ていた。
「私はここの部長を務めるリクス・ワーグナー。よろしく」
三人と握手を交わした後、彼女はガラッと表情を変えて言った。
「では、ここでのあなた達の仕事について説明します。こちらへ」
そういうと、リクスはすたすたとドアを開けて歩いていく。遅れないように慌てて着いていく三人。リクスの後に続きながら、三人はカサコソと相談し合った。
「なんか、結構厳しそうなとこだね」
「でも、サクセサーよりはマシなんじゃないのかな。だってあの時の鍛え方、あれは普通じゃないわよ」
「ま、確かにそうだな。何せ午前中はびっちり経済学とか数学とか科学とかの授業。午後からは何でか知らないけどこの三人だけ体術やら射撃術やらの特訓。あんなに訓練してどうするんだろうね?」
確かに凛達三人の授業プログラムは他のクラスメート達に比べて厳しかった。三人の他の生徒達はみな、午後からもずっと勉強していたのだが、彼女たちだけ特別にいろいろな技術をたたき込まれていた。レシカは射撃術、ハデスは総合戦術、これは実際に戦闘をするのではなく、戦闘を指揮する能力である。そして、凛は指刺法と呼ばれる日本の古武術。他にも凛は総合格闘技を学んだ。
「そうそう、一つ言っておかなければならないことがありました」
こちらの話が聞こえていたのか、歩きながらいきなりリクスがこちらを振り向く。
「あなた達に、半年間の訓練期間が課されています。そこで、あなた達が今まで身に付けてきた技能を実践できる様に訓練します」
「その訓練の内容を詳しく教えて頂けませんか?」
恐る恐る聞いたハデスにリクスは微笑みかけた。普通の人が見たらホッとする笑顔だろうが、何故か凛の不安はどんどん増していった。
―なんか嫌な予感が・・・。
「今言いましたよ。あなた達が訓練されてきた戦闘術の実践化を図るのです。当然、今までよりもっと厳しい訓練があると言うことは分かっていますね?」
予感的中。凛はその場で頭を抱えたくなった。
(今まで受けてきた訓練より厳しいっていったいどんなのだよ!)
凛の心の叫びを代弁するようにレシカが口を挟んだ。
「具、具体的には何をするんですか?」
「さあ、それはまた色々ですね。こちらの戦闘員と戦って実戦経験を積む、とか」
(よかった。それだったら今までのとあんまり変わらないか)
しかし、凛の安心は次の一言であっという間に崩れ落ちた。
「ああ、その実戦で体力的に問題がある、と認定された場合には一日中筋トレと言うこともあり得ますからがんばって下さいね」
「マジですかぁああ」
三人そろった叫び声が廊下中に響き渡るが、そんなことにはお構いなし、というように続ける。
「あ、言い忘れてましたけど、今日の午後三時からその戦闘員との試験対戦があるので準備しておいて下さい」
オイオイちょっと待ってくれそんなこと全く聞いてないぞいきなりそんなこと言われても困りますあたしはなにも準備してないです・・・。
 三人の心の叫びを笑顔でなぎ払うリクス。
「では、がんばって下さいね?」
―凄い人だ、全く・・・。
 他の二人も同じ考えのようだ。
「こ、この人なんかすごいわね・・・」
「オーラがぁぁああ・・・」
 筋トレ1日・・・。死ぬ・・。
 げっそりした凛に、レシカが耳打つ。
「こうなったら、手段は選ばず!だな」
「オイコラ・・・」
「そうだ!見境なしに拳銃乱射して対戦前の奴を戦闘不能にするとかどうさ、我ながら名案!」
「ちょっと!それはいくら何でもやばいわよ・・」
 突然リクスがあるドアの前で立ち止まった。
「入りますよ。」
ノックをしないで入るところを見ると、結構慣れたところのようだ。リクスの後に続いて入った凛達は思わずポカンと口を開けた。
「ウッス。元気ッスか隊長?」
「隊長はよせと言っているでしょうが。あら、どうしたの?」
 リクスが今更気づいたというように聞いてくる。彼女は慣れているのだろうが凛達があっけにとられていたのには訳があった。
「でかっ!」
押さえきれずに叫んでしまったレシカの言葉が三人の気持ちを率直に語る。
とにかくでかい。ア・ロット・オブ・マッチョーズ。ただ一人、小柄な青年がいるのがまだましか。
「うわぁ!皆さんなんだか強そうですね」
ハデスがとりあえず当たり障りのなさそうな事を言ってみる。言ってみるがセリフが棒読みだ。
それでも中央にいたひときわ大きな人間がニコッと笑って答えてきた。
「いやいや、俺達なんかこの中じゃ弱い方だぞ。真に強い奴はちっさいぞ?」
そうだろ、と周りに呼びかけた。あちこちから、そうだそうだ、アイツにはどうしても叶わねえと一斉にこえが上がる。
「では、対戦相手を発表します」
リクスが声を張り上げた。対戦相手はこうだ。
レシカ…巨漢の一人と射撃対決
ハデス…リクスと戦闘指揮シュミレーション
凛…さっきの小柄な青年と体術勝負

―この人、小柄だけど引き締まってる。
凛の感想通り、青年は痩せていた。かなり小柄で、身長は170あるかどうか、それに体重だって下手したら60キロを割っているかも知れない。
「初めまして。僕がここの最高責任者のブルータス・オークウッドです。この中では唯一キメラなんです。最も、在学中はAクラス。サクセサーのあなた達より劣りますよ」


「じゃあ、この後のことについて説明するね」
あちこち案内しながらにっこりとしてブルータスが言う。それにしてもこの人。
―動き方が、戦闘家・・・。これは大変なことになるかもしれない。
半分怖々、半分ワクワクという実に複雑な気分で凛は彼を見上げた。いくらブルータスが小柄だと言っても凛と20センチ身長差がある。最も凛が年のわりにかなり小柄だと言うこともあるが。彼女の身長はアカデミー内の同年齢の平均身長を優に10センチは下回っている。まあ、それは彼女が東洋系で先祖代々小柄だから、なのだが。

「まず、これがここでの訓練着」
ホイッと投げられた袋を指に引っかけて捕らえる。何処にでもありそうな綿の袋。中にはタンクトップのユニフォームとアーミーパンツ、それにかなり頑丈そうなアーミーブーツが入っていた。
「ちょっと急に揃えた物だからサイズが合ってないかも知れないけど、言ったら取り替えてもらえるから」
それから、と言ってまた更に3つ程袋が飛んでくる。ヒョイヒョイと器用に受け取ると、今度はやけに重い。
「それが、後の対戦で使う武器」
「え?素手じゃないんですか?」
「何でも実戦を想定してやるらしいから、武器でも何でもありらしいよ。あ、大丈夫。ケガしたり何かはしないから。たぶん」
凛の表情を見て、慌てて付け足すが、最後の一言で台無しだ。
「この中に入ってるのは全部ゴム弾。当たったらそりゃ痛いけど体に穴は空かないから心配しないで」
なんだ、ゴム弾か。凛は内心ホッと溜息をついた。一日目にいきなり蜂の巣にされました、なんて願い下げだ。
 気を取り直して中を見る。そこには短銃3丁、サブマシンガン二丁が入っていた。
「少し多くないですか?」
「まあ、君は優秀なそうだからそのくらい扱えるだろう」
はあ、と生返事を返して凛は整備をするために部屋へ戻った。
(そんなに優秀だったかな・・・?)
どうも、小さい頃から特別扱いされている気がする・・・。

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