作品名:ついてない私:番外編 ついてる俺
作者:もはもは
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27日は1日中、暇さえあったらトイレの個室に入り、会社に持ってきた女の服を嗅いだ。
そのつど女のことを考えた。むかっ腹が立ったが、それよりもあの女に対する興味の方が強かったと思う。
そしてその夜、俺はついに決心をした。明日あの女の部屋に忍び込もうと。鍵が掛かっているから無理だろって?大丈夫。一年くらい前にネットの闇通販みたいなとこで「ピッキング」の道具一式購入済みなのさ。俺って用意周到だろ?ホント自分でも関心するよ。そんな俺でも何で忍び込みたいと思ったのか明確には分からなかった。
しかし、明日女の部屋に入って荒らすだけ荒らして脅かしてやるという気持ちがあったのは確かだったんだ。ピッキングのやり方を頭に叩き込んだ俺は興奮のあまり眠ることが出来なかった。だからまた女の服にお見舞いしてやった。
28日朝。普段より早く目が覚めてしまった俺は会社に電話をした。風邪のため休むと言う為だ。電話を済ますと親にばれないように普段どおりに家を出た。ピッキング一式は忘れてない。
ぶらぶらと時間を潰し3時ごろになったときに女の家に向かった。辺りに人がいなくなるまでしばらく時間を費やした。家の扉の前に立ち、辺りを窺った。大丈夫だ。周りには誰もいない。一応チャイムを鳴らし、女がいないのを確かめると俺は仕事に取り掛かった。こんなに胸が高鳴るのは久しぶりだった。
案外簡単に開いたドアのセキュリティーの甘さに安心すると、俺は女の部屋に入った。部屋の中は甘い良い匂いがした。あの女のつけていた香水の匂いも少しした。全体的にピンク色にまとめられている女の部屋を見回すと、テレビの近くに写真立てが置いてあった。そこにはあの女と肌の白い男が笑って写っていた。俺はその写真を見ていたら不思議と怒りが立ちこめてきたんだ。何に対する怒りか分からなかったが俺はしばらく写真を見ていた。
それから俺は引き出しに閉まってある女の日記を見つけた。日記からも女の香水の匂いがした。俺は真っ先に痴漢と疑われた20日のページを探した。俺は驚いた。俺に関するであろう文が1つも無いのだ。疑ってしまって悪かったぐらいの文があると思っていた。しかし書いてあったのは、今日もランチが食べられなかっただの、コーヒーを上司にかけられただのくだらない文章だけだった。こいつ反省の色なしか。俺は驚愕した。興奮した俺は日記を結局全部読んでしまった。どうやらあの女はここ最近不運なことばかり起きているらしい。写真立ての男は彼氏・・・いや元彼のようだった。服が盗まれたとは書いてあったが俺に関する文章が1つもないことには驚いた。しばらく考えていると、俺の怒りのボルテージが段々と上がってきていることに気づいた。
この性格が捻じ曲がった女に正義の鉄槌を!
地獄に落としてやらないと気が済まなかった。俺は部屋を荒らしてやろうと、手始めに置いてあったガラス瓶を持ち上げた。
床に叩きつけようとした瞬間、部屋の鍵がガチャガチャ鳴っていることに気づいた。

・・・・・・やばい!女が帰ってきた!!

俺はわけが分からなくなって焦った。幸運なことにクローゼットに隠れられる場所を見つけると、俺はそこに隠れた。何で帰ってきたんだ?もうそんな時間なのか?息を殺して携帯の時計を見ると8時になっていた。何でこんな時間が経つのが早いんだ!?くそっ!きっと部屋に入るとき周囲を警戒しすぎたんだ。日記にも時間を潰されちまった。俺がここにいることをばれたらどうしようという不安だけが頭の中を支配していた。しばらく息を潜め女が眠りについたら出て行くことにした。
どのくらい経ったろうか。念のため着信を恐れ携帯の電源を切っていたので時間が分からなかった。未だテレビの音がする。まだ女は眠りそうになかった。疲れた。早くここから出たい。俺は緊張感とずっと立ち続けている疲れで限界だった。頭がクラクラしていて物事がうまく考えられなかった。それゆえに大失態を犯してしまった。無意識に揺れる俺の体がクローゼットの内側の扉に当たってしまったのだ。
一瞬凍りついた。

ばれたか!?

俺は体の揺れを必死に抑えながら様子を窺った。どうやら大丈夫のようだ。しかし心なしかテレビの音が小さくなったような気がする。女が聞き耳を立てているのだろうか。俺は残った精一杯の力で息を殺していると、部屋の扉を叩く音がした。
ばれたのか!?ドンドンと何度も繰り返している。
やばい!第三者まで来られてしまうと余計出難くなる。
しかも、限界の俺はさっきより体の揺れが激しくなっていた。きっともう女にはばれているだろう。そう考えていると今度は外から何か声がした。なんと言っているのか聞き取れなかったが、女はその声に反応し玄関の方へ向かったようだった。しばらく最後の力を振り絞り立っていると、女が帰って来ないことに気がついた。
しめた!今のうちに出られるぞ!
俺は心なしか以前より暑くなっていたクローゼットを勢いよく開け放つと部屋を出て行こうとした。
しかし、次の瞬間・・・・・・
俺の目に映っていたのはたくさんの煙だった。ゴホゴホとむせ返り、俺は再びクローゼットの中に隠れた。
なんなんだあの煙は!?
セキは止まることはなかった。煙のせいで俺は段々と意識が薄れていった。
薄れゆく意識の中で俺はあのじじいのことを思い出していた。
・・・・幸運を悪いことに使うなよ・・・・・・と。
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