作品名:自称勇者パンタロン、ずっこけ道中!
作者:ヒロ
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それにしてもここ三十年の間封印されていたミラノ遺跡を解禁するとはなぁ。帝国は何を考えているんだ?
俺は家で身支度をしながらふと疑問が沸いた。
今からちょうど三十年前、ここいら一帯を荒らして回った戦慄の魔女ミラノ。アルガニスタン王国の王子、いわゆる今の王様になるんだが、その人が彼女を討伐し、ミラノの亡骸と数々の忌まわしいアイテムはアルゴス大森林の奥深くにあるミラノ遺跡に封印された。転生術を使うミラノは魂を封印しない限り何度でも蘇ると言われており、王宮魔術師達が何十人がかりで大規模な封印をその遺跡に施したと聞いていたけど、その封印を解いちゃって大丈夫なのかよ?
「……デマだったのかな?」
まぁ、何度でも蘇るってのは嘘くせーしな。帝国もそんな迷信を信じるのはやめたってことか。
俺は一人納得し、リュックに最後の荷物を詰め終え立ち上がると、部屋を見渡す。
火の後始末よーし、戸締りよーし、忘れ物なーし。
「よし、行くか!」
俺は意気揚々と扉を開け家を飛び出そうとした。
「パンタロン兄ちゃん!」
だが扉を開けた俺に立ちはだかる者がいた。リアンと村長だった。リアンがニコッと微笑みかける。
こいつは昔から何故か俺に懐いている村のガキだ。まぁ、ガキって言ってもそれは昔のことで、今は確か十五くらいになるはずだが。そのリアンが似合わないぶかぶかの皮鎧と剣を腰に挿し俺の目の前に立っている。なんだ、今からいつもの冒険者ゴッコでもしよーってのか?
「わりいな、リアン。俺はこれから出かけるんだわ。遊んでいる時間ないんだよね」
「お兄ちゃん、僕も一緒に連れて行って!」
「はぁ?」
俺は一瞬、リアンが何を言っているのか分からなかった。思わず村長の顔を見る。村長はコクリと頷いた。ますます分からねぇ。
「パンタロンよ、今回の旅にリアンも一緒に連れて行くのじゃ」
村長までもが意味不明なことを言ってくる。
「あのね、今、村って海が時化のおかげで大変でしょ?だから、僕がミラノ遺跡で宝物を見つけて、それを売れば少しは村が潤うんじゃないかなぁって思って」
「本来なら村の青年が一緒に行くべきなのだろうが、今は村が大変な時期じゃ。他の若い連中がお前のようにフラフラするわけにもいかん。だがリアンなら手も開いているし小回りも効くし適切かと思うてのう」
二人はまるで決定事項のように自分勝手な言い分をまくしたてる。
「冗談じゃない!何で俺がガキのお守りをしながら……!」
そこまで言いかけたところで、村長が俺の首をガッシリとアームロックしてきた。そのまま俺を部屋の奥へと連れ去る。こ、こいつ、ジジイのくせになんて力だ……。
そして小声で俺に話しかけてきた。
「お前、この村の名前の由来は知っておるか?」
「ゆ、由来って、オリオン海岸の近くにある村だからオリオン村だろ?」
「そのオリオンとは、この子の父親の名前じゃ」
「え?そ、それってどーいう……ぐえっ!」
村長がさらに腕に力を入れ首を絞めてくる。く、苦しい……。
「魔女ミラノを討伐したのは今の王という話になっているが、本当は勇者オリオンなのじゃ。だが、王位継承の条件がミラノ討伐だった当時の王子は、その功をオリオンに譲ってもらったのじゃ。その代わり勇者オリオンはこの地を与えられた。まぁ実際のところは魔女ミラノが復活しないように見張る墓守と言うのが本当のところなんじゃろうけどな」
「それとこれがどう言う関係なんだよ……ぐえっ!」
村長がさらに腕に力を入れ首を絞めてくる。死、死ぬ……。
「当時の頃から王家に仕えておる王宮の文官から極秘裏に手紙を受け取った。今の王の様子がおかしいと。名君と歌われた面影は今は無く、まるで悪魔に取り付かれたようで、些細な事で誰とて構わず手討ちにするらしい。そして今回のミラノ遺跡の解禁。何かが関係しているかもしれないから調査してくれ、と」
「く、苦しい……離してくれ……」
村長が最後にキュッと力を入れると、ゆっくりとその腕を離した。最後のキュッはいらんと思うが、とにかく助かった……ハァ。
「お前も知っての通り、この子の父親はもうこの世にはおらん。そこで勇者の血を引く息子のリアンに行かせようと思ったのじゃ。じゃが、リアンはまだ外の世界に行ったことが無い」
そこまで言うと村長は俺の顔をジッと見つめた。
「そこで放蕩息子のお前に任せようと思ったのじゃ。思いっきり不安じゃが……」
「へっ、勘当しておきながら、こんな時ばかり調子のいいこと言いやがって」
俺はジジイの顔を睨み返した。昔と違い、ずいぶんと疲れた顔をしている。
ちっ、俺が暫く村にいない間に老け込みやがって。今年の時化やら今回の話やらで苦労が多いんだろうな。
俺は暫く考えた。そして小声で言う。
「でもまぁ、一回くらい親孝行してやってもいいか」
俺がそう言うとジジイはニコリと微笑んだ。
「このことはリアンには言うでないぞ。変に気負わせたくない。あの子にはいつかこのワシから話そう。お前は勇者を守る盾となれ。かつてのワシがそうだったようにな」
「ふん、今度は俺が勇者パンタロンと呼ばれるようになってやるさ」
俺はジジイに背を向け手をあげた。まぁ、チャチャッと終わらせて騎士団に入団できたら、少しは楽な生活をさせてやるよ。
家の外に出て、待っていたリアンの頭をポンと手を乗せる。
「よーし、行きますか、ちっこい勇者さんよ」
だがな、これは俺の物語よ。今からパンタロン様の伝説が始まるのさ!
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