作品名:算盤小次郎の恋
作者:ゲン ヒデ
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 大橋の息子・左源太、安藤の息子・小一郎、共に十五歳が剣術道具を携え、ふたりの作業の前を通り、
「行っていきます」声をかけ、藩校へ出かけていった。その後、作業に使う水を運んで来た、大橋の娘・八重(八歳)が桶を置いた。

内町の中にある八幡の社(やしろ)へ遊びに出かけていた子供が、あわてて戻ってきた。
「父上! 人が、人が、斬り殺された!」
 作業を止めた二人に、安藤の二男坊・小次郎(六歳)が、震えながら、指を差す。
「そこの角で、通りがかった町人が、足軽に当たり、謝ったのに、頭から、かち割わられて……あああ、恐ろしい」怯えて、立ちすくんでしまう。
「こりゃいかん、すぐ行こう」
「そうだ」
 二人は、作業着のまま、飛んでいった。

 八重は、震えている小次郎を抱きしめ、
「大丈夫よ、その足軽はすぐ捕まるから」
「怖い、怖い」ただ、小次郎は震えるばかりであった。
 後々、この怖い体験を思い出す時、二歳年上の八重の暖かい温もりも連想して、小次郎は不思議な気分におちいり、変な初恋だと、苦笑するのであるが……
            
 犯人の足軽はすぐに捕まり、町人が無礼を働いたから切り捨てた、と言い立てたが、目撃者・小次郎の言を伝えられると、あっさりと事実を認めた。で、切腹させられる。どうも、給金の遅配にむしゃくしゃしていて、そのような行動をしてしまったらしい。
      

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