作品名:くらげ
作者:青井 翠蓮
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『秋の空にジェリイフィッシュって、一体どのくらいいるんだろう? 一匹だけだったら、こんなに広い空をこんなに鮮やかに赤く染めることなんて出来ないよね。』
『そうね、レイディ。きっとすごくたくさんよ、数えきれないくらい。そしてその中には家族や友だち、恋人たちのジェリイフィッシュがいるんだわ。』
『僕たちみたいな?』
『そう、素敵よね。』
『うん、そうだね......ねぇ、珊瑚(コオラル)、僕その考え好きだよ。すごく好きだ、この間のお月見の話と同じくらいにね。』
『おかしな考えじゃないかしら?』
『すこしもおかしくなんてないさ。そうだ、今描いているこの絵にジェリイフィッシュを加えよう。家族や友だち、恋人のジェリイフィッシュを描くんだ。もちろん夕焼け空でね。少し絵が変わっちゃうけど絶対にいい絵になると思うんだ。』
『すてき。レイディが海以外のものをモチーフに描くなんて初めてね。出来上がりがとっても楽しみ。』
中央管理局(セントラル・ユニオン)カラB〜C居住地区(ブロック)ノ住人ヘ通告。
本日15時、全住人ニ退避命令発令。
コノ地域ノ砂漠化ノ食止ニ失敗。
天文気象台ニヨルト2日後ニ巨大ナ熱砂嵐(シムーン)ガ発生スル模様。
被害推定不可能。
住人ハ、直チニ小型空船艇(ギグ)ニテ、S特別地区(ブロック)マデ退避。
詳細ハ、コードCH−09131975ヘアクセス。
繰リ返ス ......
『まぁ、だめだわ。』
『どうしたの、珊瑚(コーラル)。鉱石ラヂオの調子が悪いの?』
『えぇ、レイディ。中央管理局(セントラル・ユニオン)からの放送(アナウンス)が途中で切れてしまって......もう、壊れてしまったのかしら、全然アクセスできないの。』
『無理もないよ。今日の風はかなり砂を含んでいるみたいだからね。コイルに砂が入ってしまったのかも知れない。アクセスコ−ドも聞き取れなかった?』
『えぇ、ダメ。天文気象台と2日後っていう単語は聞き取れたけど、あとは雑音にまぎれてしまって。』
『......2日後、天文気象台......もしかして......珊瑚(コーラル)、そこのスケッチブックの下にある『天文気象年鑑』取ってくれないかな。』
『はい、レイディ。これかしら。』
『ありがとう。えぇと、確か.....あった、あった。わかったよ珊瑚(コーラル)、さっきの放送(アナウンス)の内容きっとこれだよ。』
『すてき、130年振りの流星群(ドロップレイン)なんて。』
『2日後が楽しみだね。』
『ほんとう、とっても楽しみね。』
枯渇した海に豊富な水を。赤茶けた大地に緑の絨毯を。母なる初期化(イニシャライズ)には犠牲が必要。すべてを一度白紙に還す。ランダムな犠牲を母は好む。
『ねぇ、レイディ。私ね、もしこの次に生まれ変わったら、あの秋の空のジェリィフィッシュになりたいな。そしてね、あの空の中をフワフワ漂うの。』
『僕もだよ、珊瑚(コオラル)。僕も秋の空のジェリイフィッシュになって、フワフワ漂ってる君を探して旅をしたい。』
『旅?』
『そう、旅。空の中をフワフワ漂いながら、君を探して何年も旅をするんだ。』
『何年もなの?』
『だって空は広いからね。簡単には会えないかもしれないい......それでも、この砂漠化の進む地上よりはずっと気持ちがいいと思うんだ。きっと僕は何年かかっても珊瑚(コオラル)を見つけ出すよ。そして初めましてから、また始めよう。』
『ずっと漂いながら旅をする.....素敵な考えよね。私できることなら海にジェリイフィッシュがいた頃の、秋の空のジェリイフィッシュになりたいな。』
『生まれ変わるって過去にも可能なのかな?』
『きっと、可能よ。』
『そうだね。それにしても今日は熱砂がすごいね......流星(ドロップ) が降る夕方までにはおさまってくれるのかな?』
そもそも何故ジェリィフィッシュが空を漂うのか?母は無用な説明を好まない。意味のない装飾こそ母の最大の退屈しのぎなのか。。。
初期化(イニシャライズ)が始まる。
犠牲者は選ばれた。
『ネェ、珊瑚(コーラル)。今日ノ夕焼ケハ、キレイダネ。』
『エェ、レイディ。トッテモ、キレイネ......』
初期化(イニシャライズ)はある一定期間をおいて繰り返される。すべてを無に。母はこどもたちの成長を好まない。
初期化(イニシャライズ)の犠牲者は次の初期化までの間、羊水の記憶として遠く近しい者としてこどもたちに受け継がれてゆく。
前回の犠牲者は固体番号001975 Shi-on
新しい都市伝説を母は産んだ、、、
緑の大地が......よみがえる
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