作品名:妄想ヒーロー
作者:佐藤イタル
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最近気づいたことだが、これを鞄に付けてからは女の子どころか子供さえも寄り付かなくなった。
以前は挨拶してくれていた近所のおばさんも、僕の方を変な目で見るようになった。

だがそれは危険人物の証拠だと僕は確信している。女の子は常にスリルを求めていると井上君は言っていた。

――――なら僕は、今まさに旬の危険人物なのではないだろうか。

自信が多少なりとも湧いてきたので、最近ではプレートをより目立たせるようにしている。
そんな立派な努力も沢山してきた。

だが、それなのに、僕の約十八年間の経歴にはそういった甘酸っぱい恋の話がまるで無い。これでもか、というぐらい無い。甘酸っぱい香りすら漂わないのだ。
しかし、それは僕側の気持ちを除いた場合の話である。
僕にだってその花の無い十八年中、中学一年生から六年間越しに思いを寄せている女の子の一人ぐらいいる。

彼女との出会いは中学校の入学式だった。
一目惚れで――好きになった理由なんか、僕自身の事が恥ずかしくて語れないが――その時僕は、それまで感じた事がなかった電気みたいなものが、体中に流れた事を今でも覚え
ている。
同じクラスになって席替えをして、偶然隣の席になって、一言二言会話をする度に僕はもうドキドキが止まらなかった。

そこまでは、まぁ良いとする。
良くなかったことが、一つだけあるのだ。
それは、当時の僕がもっと大人の様な精神を持ち合わせていれば、そのドキドキが恋だと言う事も、容易く気づいていただろう、という事だ。
まだまだ青かった僕は、それがもしかしたら実るはずだったであろう恋の芽生えとも気づかず、何らかの病だと自己解釈したのだ。

だから勉学に励んだ。自分の病気を治す、という事を目標に、だ。
中二の冬に恋愛師匠、井上君からそれが恋だという事実を説いてもらい、初めて自分の恋心に気づいた。

それまで病を治すという目標を立て、上級の高校に進もうとしていた僕は目標を喪失した。愚かな自分を笑ってやりたかった。もう勉学に励む必要もなくなったのだ、と嬉しいような悲しいような事実を当時は痛感した。
これで真面目に励む勉学ともさよならだ、と思ったのだが、長年に渡り染み付いた習慣というのは、ちょっとやそっとでは剥がれ落ちてくれなかった。

その結果がこの頭脳である。

目的さえ失ってしまえば、特別上級の学校に進みたいわけでもなかったので、当時芸術が発展していると名高かったこの地元の高校に、井上君と共に進んだのである。

――ここだけの話。僕は絵を描くのが好きだ。
それ故に、長年片思いしている彼女――ツキコちゃんには是非ともモデルを頼みたかった。
現在ツキコちゃんは、僕の隣の席だ。言わずもがなだが、進んだ高校がツキコちゃんと一緒だったのだ。……正直を言うと毎日が幸せである。大変な諸々の仕事疲れでさえも忘れてしまいそうだ。

すぐ隣にいるのだから、内緒で授業中などに勝手にデッサンしても構わないのだが、それは僕のプライドが許さなかった。




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